フェルナンド・カルリ
譜例 5

「譜例5」は初級のテキストなどによく登場するフェルナンド・カルリの「ワルツ」です。私たちが普段目にするのはこのような譜面なのですが、カルリの場合、パガニーニなどと同じく”声部分け”をしなかったと言われるので、もしかしたら元は「譜例6」のような書き方だったかも知れません。この曲のオリジナルの譜面を見たことがないので、はっきりとは言えませんが、カルリには少なくともこのような書き方をした曲があるのは確かです。仮に「譜例6」のように書いてあったとしても低音は、前回の弾き語りのアルペジオの時同様に、その和音が続く範囲、つまりその小節内は左指を押さえたままにしておいて、余韻を残すようにしなければなりません。
譜例 6

アルペジオか音階か
ある程度ギターが弾ける人でしたら、無意識にそのように弾くかも知れませんが、やはりどこまで低音を伸ばすかは意識したほうが良いでしょう。ちょっと気を付けなければならないのは、短調になる中間部、つまり17小節からの部分で、低音はもちろんその小節の最後まで残しますが、17~18小節のようにアルペジオ、つまり和音になっている箇所は和音として聴こえるように「ラ」や「ド」も押さえたままにして音を残さなければなりません。しかし19~20小節のように音階的な場合は、仮に弦が変わったとしても音を残さないように弾きます。17~18小節と19~20小節では楽譜の書き方上は同じなのですが、演奏する人はそれがアルペジオなのか、音階(メロディ)なのかを判断して演奏しなければなりません。ただ「先生にそう言われたから」というだけではちょっと寂しいかなと思います。
元は同じなのに
また”ついで”ですが、このワルツには変奏が付いていて、その第1変奏の短調の部分(17~24小節)は「譜例7」のようになっています。どのように変えたかは一目瞭然で、17~18小節がこのように違った形のアルペジオになることはよいとしても、音階だった19~20小節も同じようにアルペジオになり、特に20小節など17~18小節と全く同じになっていて、3小節同じアルペジオが続きます。ある意味かなり大胆な簡略化と言えますが、これも練習する人のことを考えてのことでしょう、「見た目」のわりには初心者にも弾きやすくなっています。なんといっても初心者に優しい(易しい?)のがカルリの特徴です。しかしなぜか19小節と23小節はもともと同じだったはずなのに違う形の和音になっています、ちょっと不思議だと思いませんか?
譜例 7

やさしい=いい加減、ではない
何事も疑問に思うことは大事だと思います。19小節は、「ミ、ソ#、シ(省略)、レ」の和音になっていますが、このうち「レ」は1音下がって「ド」にしか行けない音(限定進行音)なので、20小節のような和音には進めるが、24小節のような形には進めません。つまり「レ→ラ」とは進めないわけです。そこで24小節のように「ラ」を二つ重ねて終わる形にするには、23小節のように、「ミ、ソ#、シ」の和音の形にして、どの音も「ラ」に進める形にした訳です(「シ→ラ」とは進める)。初心者のために徹底して簡略化した曲を書いても、ちゃんと締めるべきところは締めているのがフェルナンド・カルリのやりかたなのでしょう、易しい曲を書いても、しっかりと和声法に基づいた作曲をしています。
パガニーニの場合
譜例 8

「譜例8」は教本などお馴染みのパガニーニの「ソナチネ」の後半部分です。パガニーニについてはCD紹介のところでも話しましたが、一般には伝説のヴァイオリニストと知られていて、ギターの作品を書いたということはあまり知られていないようです。しかし前にも書いたとおりギターの作品はかなりの量が残されていて、パガニーニの残した作品のうち、ギターを含む作品、およびギター独奏曲はかなりの割合を占めています。
この譜面のほうは溝渕編のカルカッシギター教本から写したもので、オリジナルの譜面を見たことはないのですが、おそらくパガニーニの書いた譜面は、だいたいこのようなものと考えられます。見てわかるとおり、特に低音は高音と”棒”でつないであるだけで、正確な長さが書いてありません、一見8分音符のように書いてありますが、決してこれらの音符は本当に8分音符ではなく、「長さが明記されていない音符」と考えてください。現在の一般的な書き方、つまり声部分けした書法からすれば「譜例9」のようになるでしょう。
譜例 9

実際にこのように書き直された譜面も出版されているかも知れませんが、でもこの譜面(譜ずら)だとパガニーニらしく見えませんね。パガニーニのこの大雑把な譜面には、パガニーニの豪放で、細かいことにはかまわず、結果がよければよいというパガニーニの雰囲気が出ているように思います。やはりパガニーニの譜面は「譜例8」のようでなければならない気がします。また、もしかしたら「仮にもギターを弾くものなら、その程度のことは当然わきまえていること」と言ったメッセージなのかも知れません。
譜例 5

「譜例5」は初級のテキストなどによく登場するフェルナンド・カルリの「ワルツ」です。私たちが普段目にするのはこのような譜面なのですが、カルリの場合、パガニーニなどと同じく”声部分け”をしなかったと言われるので、もしかしたら元は「譜例6」のような書き方だったかも知れません。この曲のオリジナルの譜面を見たことがないので、はっきりとは言えませんが、カルリには少なくともこのような書き方をした曲があるのは確かです。仮に「譜例6」のように書いてあったとしても低音は、前回の弾き語りのアルペジオの時同様に、その和音が続く範囲、つまりその小節内は左指を押さえたままにしておいて、余韻を残すようにしなければなりません。
譜例 6

アルペジオか音階か
ある程度ギターが弾ける人でしたら、無意識にそのように弾くかも知れませんが、やはりどこまで低音を伸ばすかは意識したほうが良いでしょう。ちょっと気を付けなければならないのは、短調になる中間部、つまり17小節からの部分で、低音はもちろんその小節の最後まで残しますが、17~18小節のようにアルペジオ、つまり和音になっている箇所は和音として聴こえるように「ラ」や「ド」も押さえたままにして音を残さなければなりません。しかし19~20小節のように音階的な場合は、仮に弦が変わったとしても音を残さないように弾きます。17~18小節と19~20小節では楽譜の書き方上は同じなのですが、演奏する人はそれがアルペジオなのか、音階(メロディ)なのかを判断して演奏しなければなりません。ただ「先生にそう言われたから」というだけではちょっと寂しいかなと思います。
元は同じなのに
また”ついで”ですが、このワルツには変奏が付いていて、その第1変奏の短調の部分(17~24小節)は「譜例7」のようになっています。どのように変えたかは一目瞭然で、17~18小節がこのように違った形のアルペジオになることはよいとしても、音階だった19~20小節も同じようにアルペジオになり、特に20小節など17~18小節と全く同じになっていて、3小節同じアルペジオが続きます。ある意味かなり大胆な簡略化と言えますが、これも練習する人のことを考えてのことでしょう、「見た目」のわりには初心者にも弾きやすくなっています。なんといっても初心者に優しい(易しい?)のがカルリの特徴です。しかしなぜか19小節と23小節はもともと同じだったはずなのに違う形の和音になっています、ちょっと不思議だと思いませんか?
譜例 7

やさしい=いい加減、ではない
何事も疑問に思うことは大事だと思います。19小節は、「ミ、ソ#、シ(省略)、レ」の和音になっていますが、このうち「レ」は1音下がって「ド」にしか行けない音(限定進行音)なので、20小節のような和音には進めるが、24小節のような形には進めません。つまり「レ→ラ」とは進めないわけです。そこで24小節のように「ラ」を二つ重ねて終わる形にするには、23小節のように、「ミ、ソ#、シ」の和音の形にして、どの音も「ラ」に進める形にした訳です(「シ→ラ」とは進める)。初心者のために徹底して簡略化した曲を書いても、ちゃんと締めるべきところは締めているのがフェルナンド・カルリのやりかたなのでしょう、易しい曲を書いても、しっかりと和声法に基づいた作曲をしています。
パガニーニの場合
譜例 8

「譜例8」は教本などお馴染みのパガニーニの「ソナチネ」の後半部分です。パガニーニについてはCD紹介のところでも話しましたが、一般には伝説のヴァイオリニストと知られていて、ギターの作品を書いたということはあまり知られていないようです。しかし前にも書いたとおりギターの作品はかなりの量が残されていて、パガニーニの残した作品のうち、ギターを含む作品、およびギター独奏曲はかなりの割合を占めています。
この譜面のほうは溝渕編のカルカッシギター教本から写したもので、オリジナルの譜面を見たことはないのですが、おそらくパガニーニの書いた譜面は、だいたいこのようなものと考えられます。見てわかるとおり、特に低音は高音と”棒”でつないであるだけで、正確な長さが書いてありません、一見8分音符のように書いてありますが、決してこれらの音符は本当に8分音符ではなく、「長さが明記されていない音符」と考えてください。現在の一般的な書き方、つまり声部分けした書法からすれば「譜例9」のようになるでしょう。
譜例 9

実際にこのように書き直された譜面も出版されているかも知れませんが、でもこの譜面(譜ずら)だとパガニーニらしく見えませんね。パガニーニのこの大雑把な譜面には、パガニーニの豪放で、細かいことにはかまわず、結果がよければよいというパガニーニの雰囲気が出ているように思います。やはりパガニーニの譜面は「譜例8」のようでなければならない気がします。また、もしかしたら「仮にもギターを弾くものなら、その程度のことは当然わきまえていること」と言ったメッセージなのかも知れません。
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