中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

譜例14  ソルの月光  

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見慣れた譜面だが、よく見ると「棒」の向きが上向いたり、下向いたりして、意外とわかりにくい

 今回は「月光」ですが、これも皆さん御馴染みで、譜面の方もよく見ていると思います。「譜例14」は一般に出版されている譜面で、現在出されているものには大きな違いはないでしょう。「月光」という名前とリピート・マークは付いていないもの、原典とそれほど変わりはないものと思います。

見慣れた譜面だとは思いますが、よく見ると結構変わっています。普通「棒」が上向いているのが主旋律で、下向きが伴奏などのように書くのですが、この譜面は単純にそうはなってなく、ちょっと複雑です。

一般的には「譜例15」のように書いたのうがすっきりし、この譜面で弾いたとしても、そう問題はないでしょう。また簡略化せず完全な形で書くなら、多少複雑ですが「譜例16」のようになるでしょう。パソコンで音を出す場合は「譜例16」のように書かないと実際の演奏と同じになりません。



譜例15  普通ならこんな感じ

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譜例16  ちゃんと書くならこんな感じ、こう書かないとパソコンでは実際の演奏どおりにならない

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ソルのソルたる所以

 譜例15、16のどちらの書き方もしなかったのが、ソルのソルたる所以でしょうが、しかしなぜソルは結果的にこのわかりにくい書き方をしたかということも、やはり考えなくてはなりません。

 この若干わかりにくい書き方をしたのは、おそらくこの曲が、「譜例15」のように単に「メロディに和音が付いた曲」とはしたくなかったからではないかと思います。

 つまり各声部の書き分けにこだわり、この曲が「4声の曲」であることを強調したわけです。この曲を演奏する人が主旋律だけでなく、各声部の動きにも注意して弾くように、ということを暗示しているものと思われます。

 


最も大事なものを

 「4声の曲」といいながらも、最初の小節で低音(5弦のシ)を弾くとしばらく低音、つまりバスの声部はお休みになってしまい、実質3声でしばらく進みます。

 ソルはギター教則本の中でも「和声は低音に支えられる」ということを力説していますから、低音は和音の中で最も大事な音と考えているはずです。その大事な低音を省略ということには、それなりの理由が当然あるはずです。



無重力感

 和音の中で、その低音を抜くと、どうなるかは、その17~24小節を弾けばわかると思いますが、文字通り「足が地に着かない」状態で、なんとも”ふわふわ”した感じになります。いわゆる「無重力感」といったものでしょう。

 また、冒頭のところは最初に5弦の「シ」を弾いていますから、その後の方でも実際には聞こえなくなってしまっていても、なんとなく気持ちの中に残響として残り、実際には聞こえない「保持低音」とも解釈できるかも知れません。



和音が変化する

 25小節からは曲の感じが、がらっと変わりますが、もちろんそれまでなかった低音が入ってくるからです。さらにもう一つ違うのは、それまでほとんど和音が変わらなかったのに (ほとんど主和音と属和音しかない! )、ここからの8小節は1小節ごとに和音が変わってゆきます。

 また主和音からはだいぶ遠い和音も出てきます。もちろんそのことと低音が付いていることとは深いつながりがあり、低音がなければ和音の変化も感じ取れなくなります。逆に言えば、そこまでは和音が変わらないので、低音がなくても大丈夫だったとも言えます。



出し惜しみ?

 この25小節からの低音は、言ってみればソルの「とっておき」の低音なのです。ここで音楽を全開させるために、本来なくてはならない低音を「出し惜しみ」したわけです。

 ところで28小節目のところは低音が小節の最初ではなく、1拍目のウラ、つまり2つ目の8分音符になっています。おそらくこれはこの和音がギターを練習中の人 (中級くらい?)にとっては低音とメロディを同時に押さえるのが難しいからなのでしょうが、このことによりタイミングをずらしてても低音をちゃんと弾いてほしいという、ソルの低音へのこだわりが伺えます。

 演奏の際には、低音が和音やメロディをしっかり支えられるように、また低音の流れがしっかりと聴き取れるように弾かなければならないのは言うまでもありません。ここは重力感のある、文字通り「足が地に着いた」演奏が必要でしょう。

 41小節からまた低音が現れますが、さらにここからはメロディも①弦の「シ」(7フレット)まで上がってゆきますが。それまでメロディは決まった音域の中でしか動かなかったので印象的です。最後はメロディと低音の両方でクライマックスを作っています。

 


ソルが名付けたわけではないが

 この「月光」という名前はもちろんソル自身が付けたものではなく、後に付けられたものです。正式名称としては「練習曲ロ短調 作品35-22」ということになります。

 しかし誰が付けた曲名かはわかりませんが、決して的はずれな曲名ではないでしょう、よく曲のイメージに合っています。確かにメロディが淡い光に浮かび上がったような感じがします。

 また月の光と言えど、慣れてくると、特に満月の場合はかなり明るく見えます。子供の頃満月の下で近所の子供たちと鬼ごっこをした記憶があります。25小節からの低音の付いた部分はそんなところかも知れません。そして最後はそのメロディが淡い光の中に、そっと遠ざかって消えてゆくのでしょうか。
 
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