中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

 今回はホ長調の「ワルツ Op.32-21」ですが、この曲も「ギャロップ」、「月光」と並び、ソルの曲としては発表会や、教材で馴染みの深い曲です。先日のシニア・ギター・コンクールの課題曲にもなりましたので、そのことにも若干触れつつ、話しをしてゆきます。


譜例17

ブログ 019



 譜例17は現代ギター社の「標準版ソル・ギター曲集(中野二郎監修)」からです。前にも触れたとおり、この譜面は原典に非常に忠実なものと考えられますので、この譜面を基に考えてゆきます(シニア・ギター・コンクールでは別の譜面が指定されました)。



さっぱりした譜面

 見てわかるとおり、たいへんさっぱりとした譜面で、運指はもちろん、強弱記号は表情記号などほとんど付いていません。ある意味、たいへん困った譜面です。何も付いていないから何もしなくてよい、あるいは逆に何をしてもよい、などということはもちろんありません。演奏者は「常識」、あるいは当時の「演奏様式」を踏まえた上で演奏しなければなりません。決して感性や思いつきだけで弾くことは出来ないでしょう。




基本はロー・ポジション

 運指については特に難しい曲ではないので、それほど問題ではないと思います。中級以上くらいの人ならだいたいわかると思いますし、運指の付いた譜面もあり、それらはそれほど大きな違いはないでしょう。ソルの曲の場合、基本はロー・ポジションで、特に指定のない限り最も低いポジションを選択しなければなりません。タレガなどの場合は音色等の関係で、1弦でも弾ける音を、あえて2弦や3弦のハイ・ポジションを用いて弾いたりしますが、ソルの場合は、基本的にそのようなことはしません。

 ハイポジションは、弾きやすさの関係で用いる場合がほとんどで、3段目の2小節目と6小節目の「ミ」に「0」と開放弦の使用が指定されていて、特に6小節目のほうは2弦の音(ソ#)のほうが高い音を弾くようになっています。弦の関係が逆になっていますが、これは音色にこだわったというより、弾きやすさの関係と考えられます。




問題はアーティキュレーション

 この曲を弾く場合、最も気を付けなければならないこととしては、アーティキュレーション、つまり音を切ったり、繋げたりすることだと思います。この時代(19世紀初頭)であっても、ピアノなどではそうした指示が楽譜に細かく記されるほうが普通なのですが、ギター曲の場合はそうしたものがあまり楽譜に書き入れられません。演奏者が判断しなければならないということでしょうか。

 この曲は「ワルツ」というタイトルになっていますから、当然舞曲的な性格が出るように弾かなければなりません(この曲でワルツを踊った人がいるかどうかはわかりませんが)。全体的には「弾んだ」感じが必要ですが、「弾んだ感じ」といっても全部の音をスタッカートで弾くなどということではありません。音を切ったり、繋げたりするには「当時の習慣」、あるいは「クラシック音楽の常識」が存在し、それに従って演奏しなければなりません。


譜例18

ブログ 020


同音反復はスタッカート

 「譜例18」にはこの曲の前半部分のアーティキュレーション、つまりスタッカートとレガートの記号を書き入れてみました。1小節目の2拍目と3拍目は同音である関係もあって、必ずスタッカートとなるでしょう。同音を反復する場合は、仮に舞曲でなかったとしてもスタッカートになることが多くあります。ただしあまり短く切りすぎると不自然になりますので、ある程度余韻の長さを保って切ったほうがよいでしょう。

 スタッカートは原則として、その音の長さを半分にし、残り半分を休符にするとされていますが、半分より少し長めでも良いかもしれません。この部分で言えば、少なくとも16分音符分は音を響かせなければならないということです。もちろんスタッカートをした時、トータルの長さが短くなって、”前のめり”になっては絶対にいけません。


繋留音はレガートに解決音に

 今の話とは逆に、2小節目の1拍目から2拍目にかけての「ミ-レ」は必ず”レガート”に弾かなければなりません。というのも「ミ」は和音から外れた音で「繋留音」と言い、「レ」はその「解決音」と言います。この場合はクラシック音楽の「常識」でレガートに弾かなければならないのです。また強弱関係も「ミ」よりも「レ」のほうを小さく弾かなければなりません(「レガート」ということにそのことも含まれます)。

 4小節目と6小節目の矢印のところも同様に繋留音なので、同じように演奏します。6小節目の1拍目の低音と内声(「ラ」と「ド#」)は、「譜例17」では8分音符になっていますが、厳密には「譜例18」のように解決音、つまり1弦の「ラ」のところまで音を響かせておかなければなりません。つまり上声部の「ラ」の音が和音の中に吸収されるように弾かなければならないということです。


審査のポイント、要注意事項

 以上のようなことは当然コンクールでの審査の対象となります。このようなところをどう弾くかで、その出場者が正しく音楽を学び、正しく理解しているかどうかがよくわかるからです。もしかしたら間違えずに最後まで弾けるかどうかよりも関心が高いかも知れません。特に予選などの場合はよく注意して練習したほうがよいでしょう。




強弱記号もあまりないが

 「譜例18」には強弱記号も書いておきましたが、こちらの方はいろいろな考えが成り立つので、あくまで「一例」というところです。原曲には下から3段目のところに「p」記号があるだけで、他に一切強弱記号がありませんが、曲全体をよく考えながら適切な強弱の変化を補う必要はあるでしょう。

 曲全体を考えればこの曲は「明るく、軽快な曲」と言えると思いますので、やはり冒頭は「f」でよいと思います。長調の部分、つまり16小節目までは「f」でよいとは思いますが、9小節目のところは「冒頭と同じ事をしない」、また音形にあわせ。クレシェンドするために、若干音を弱めて(mf)始まるとよいと思います。しかしその場合でもフレーズの後半は「f」でしっかり弾かないと、全体の印象を弱めてしまいます。またワルツらしい明快な音で弾んだ感じを出すのはとても重要です。それぞれの小節の1拍目、特に1小節目の4弦の「ミ」や、3小節目の「レ#」などはっきり弾く必要はあるでしょう。
 
 17小節目(譜例17の4段目の3小節目)からは短調になるので、普通音を弱めて始まります。しかし短調の部分を全部「p」で弾くわけにも行きませんから、どこかで音量を上げることも必要ですが、これがなかなか難しいところです。楽譜によっては下から3段目の最後のオクターブの4つの8分音符に「f」を付けてあるものもあります。また下から2段目の2小節目からを「f」にする方法もあるでしょう。



「エトゥフェ」 て何のこと?

 上から5段目の最後の小節のところに「etouffez.(エトゥフェ)」と書いてあります。この「etouffez.」というのはフランス語で、辞書などを引くと、「窒息する」とか「息苦しい」といったような意味ですが、ソルは教則本の中で「エトゥフェのためには・・・・・ 通常よりは力を抜き加減に、しかしハーモニックスを出す時ほどは軽くせず押さえる ~渡辺臣訳」と言っています。


中途半端に押さえて弾け、と言うのだが・・・・

 要するに弦を中途半端に押さえてミュート音を出すということですが、実際にやってみると、これがなかなか難しい。ハーモニックスが鳴ってしまったり、ノイズ(いわゆるビリつき音)が出てしまったりで、なかなかそれらしい音が出ません。一般的には右手をブリッジに添えて弾く「ピッチカート奏法」で代用したりしますが、ただし困ったことには、ソルは教則本の中で「etouffez.には決して右手は使わない」と言っています。

 このワルツでも、どの範囲まで「etouffez.」で、どこから通常の弾き方なのかがはっきりしません。おそらく「シ」をオクターブで弾いているところについて言っていると考えられますが、それが1回目だけなのか、2回ともなのかは判別する根拠がありません。弾く人の判断にまかせるしかないでしょう。

 また、曲によってはこの「etouffez.」が長い範囲に及ぶ場合もあり(当然開放弦もある)、実際に教則本に書いてある通りに弾くのはたいへん困難です。ただ少なくとも「ミュート的」な音を要求しているのは間違いないでしょう。因みにコンクールの時には、この「etouffez.」の弾き方については審査の対象としないということになりました。


 
スポンサーサイト
コメント
コメントする
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する