中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

 またワールド・カップの話から始まってしまいますが、今頃は日本代表の次期監督の話題でもちきりと思いきや、なんとまだ日本代表は南アフリカにいる、何とも不思議な感じがします。この1年、というよりこの4年間で最もよいゲームを最も大事な時にした、と言えるかも知れません。これまでの4つのゴールは、すべてとてもすばらしいものだったと思います。その4つゴールすべてに絡んだ本田選手には(遠藤選手のフリーキックも、ボールの奪い合いにならなかったことも含めて、本田選手の無言のアシスト?)、やはり最上級の賛辞がふさわしいでしょう。


 それにしても前回の優勝と準優勝国が、それぞれ1勝も出来ずに帰国するなんて考えられなかったことですね。それだけ実力の差が縮まっているのでしょうが、「盛者必衰のことわり」でもあるのでしょうか。パラグアイは簡単な相手ではなく、結果は予測できませんが、間違いなくよい試合になるでしょう。もしパラグアイに勝つと次の対戦相手はスペイン・・・・ ちょっと気が早いかもしれませんが、そこまで楽しめたら言うことないですね。




タレガの楽譜

 ずいぶん遠回りをしましたが、なんとか楽譜の話に戻れそうです。これまで主にタレガの人物像について話をしてきました。確かにその作曲家の音楽を知るには、その人物像というのは重要な情報ではありますが、しかし最も重要な情報は、やはり楽譜を措いて他にはありません。

 残念ながらこの二つの本(プジョールとリウスの)は、タレガが書き残した、あるいは出版した楽譜についての情報が豊富とは言えません。リウスの書のほうに実筆譜に書き込まれた日付などが若干記されている程度です。

 タレガの楽譜の出版は1902年、つまりタレガ50歳の時に初めて行われ、その後タレガが最期を迎えるまで、作曲、編曲合わせて数十曲が出版されました。タレガの死後も弟子や愛好家の手に渡っていたタレガの手書き譜などが出版され、タレガのギタリストとしての評価が高まると、ほとんど走り書きのような、曲の断片までもが出版されました。

 こうしたことは現在でも進行中と言え、まだ出版されていな自筆譜なども存在していると思われます。今後もタレガの新たな作品などがに出版されることもあるかも知れません(現在知られている曲の異稿などが多いかも知れませんが)。

 以上の経緯などからしてタレガの譜面の信頼度はその譜面によってまちまちで、特に生前自らの校訂により出版されたものと、その後第3者により出版されたものもとには、かなりの違いがあります。タレガの曲を演奏するには、その譜面がどのような経緯で出版され、その信頼度がどの程度なのかも考慮する必要がありでしょう。


tarrega 003



アデリータ ~マズルカ

 さて、それでは具体的にタレガの譜面について話を進めましょう。最初の曲はよくご存知の「アデリータ~マズルカ」です。この曲は1902年に、バレンシアの「アンテック・イ・テナ」社でタレガが始めて自らの作品を出版したものの中に含まれます。この時同時に「アラビア風奇想曲」、「前奏曲第1、2番」、「ラ・マリポーサ」、「グラン・ワルツ」、「ラルゴ~ベートーヴェン」が出版されています。



信頼度 トリプルA

 これらの譜面はタレガの最初の出版とあって、とても入念に準備をしたものと思われます。もちろん曲としてもタレガ自身が高く評価できるものと思いますが、譜面としてもたいへん細かいところまで目が行き届いている感じがします。誤植と思われる箇所も見当たりませんし、曖昧な点なども見当たりません。

 これらの譜面にはタレガの意思が、ほぼ100パーセント込められているように思います。この「アデリータ」をはじめ、この時期に出版された譜面(1903年にも同様に数曲出版されている)は、タレガの譜面の中では極めて信頼度が高く、最上級のものです。評価「AAA」といったところでしょうか。


 上の「アデリータ」の譜面はその1902年の初版の譜面を、そのままコピーして出版されたもので(Chanterelle1社から出ている)、まさにタレガが出版した譜面そのものといえます。この譜面を見ると、まず運指が入念に書き込まれているのが目に付くと思います。特に弦の指定はほとんど曖昧さがないようになっています。それについては他の譜面(多少信頼度の落ちるものでも)でも同じで、タレガの場合、運指はたいへん重要なものであることを意味していると考えられます。

 プジョールの本の中でも、タレガが背中越しに弾いている生徒のギターの運指を、背中を向けたままアドヴァイスしている様子を書いています。その生徒が「マエストロはどうして見ないで私の運指がわかるのですか」と言うと、「そこのところが繋がっていないから」と答えたと言っています。タレガ自身運指にはかなりこだわったでしょうし、生徒たちにも細かく指導していたようです。



表情記号なども細かく

 この譜面にはさらに強弱記号やテンポの変化なども入念に書き込まれています。こうしたことは当然のように思うかも知れませんが、タレガの譜面ではこのように強弱記号などが細かく、矛盾することなく書き込まれているものは決して多くはありません。

 同時に出版された「アラビア風奇想曲」でもクレシェンドやリタルダンドの指示は細かく書き込まれていますが、フォルテやピアノなどの記号はありません。全くそれらの記号が書き込まれていないものも少なくありません。



対比だけではない

 この曲に書き込まれた強弱記号などは、この曲を演奏する場合に重要なだけでなく、他のタレガの作品を演奏する場合にもたいへん役立つと言えるでしょう。それらの記号を細かく見てゆくと、まず冒頭に「p」、そしてホ長調に変わったところに「f」が付けられています。

 短調の部分は「弱く」、長調の部分は「強く」ということですが、「強く」といってもタレガの場合金属的な音やノイズを含んだ音は徹底して嫌ったといえますので、決して美しさを損なう「強さ」であってはならないということになります。

 刺激的な音ではなく、ふくよかな、拡がりのある、明るく、美しい音、というところでしょうか。「p」も同じく、ただ「小さく」ではなく憂いを帯びた美しさが必要でしょう。強弱の対比が付けばよいというわけではなく、それぞれが違った美しさになることが重要でしょう。

 最初の3小節の2拍目にアクセント記号(>)が付けられています。主な理由としてはマズルカとしてのリズムを出すためと考えられますが、これもやはり音色感を損なうものであってはならないと思います。

 4小節目にはクレシェンドの記号の他に「un poco cresc.」と書いてあります。これは「少しクレシェンド」ということで、極端なクレシェンドでないことを意味します。6小節目の再度「p」の指示がありますが、これは5小節目が前の小節のクレシェンドを引き継いで、ある程度音量が上がっていることを意味します。確かに配慮が細かいですね。



後半部分をちゃんと弾くのはかなり難しい
 
 前にも触れたとおり、この曲はタレガ自身がコンサートで弾くためのものではなく、生徒や愛好者のための曲です。したがってこの曲は技術的には易しく、少なくともタレガはそう考えて作曲したものと考えられます。

 確かに前半部分は易しいのですが、後半は決して易しいとは言えません。ホ長調になってからの3,4小節目を和音と装飾音をクリヤーに出しながら、メロディをレガート弾くにはかなりの技術が必要でしょう。

 さらに5小節目の4弦に現れるメロディをクリヤーに歌わせるのはもっと難しいところです。タレガにとってはそうしたことは何でもないことだったかも知れませんが。

 ホ長調の部分も強弱記号や、テンポに関する指示が入念に、また的確に書き込まれています。こうした曲は演奏者の主観や感覚的なもので演奏されることが多いのですが、まずはやはりこうした指示を守るべきでしょう。

 時折このホ長調の終わり部分でテンポを上げてしまう演奏を耳にしますが、もちろん指示は「rit.」で、最後でテンポが上がることはありえません。



他のタレガ曲を弾くのにたいへん役立つ

 しかしそれらの指示は道路標識のように「違反しなければよい」のではなく、まずは演奏者の感性で受け止める必要があります。言い換えれば、それらの指示を基に、自らの感性とタレガの感性を同調するとといってもよいでしょうか。

 いずれにしてもこれらの指示を十分に考慮して演奏することには、他のタレガの曲の演奏することにたいへん役立つのは間違いないでしょう。

 この「アデリータ」は他のタレガの作品、あるいは同時代の作品を演奏する上での、たいへんよいエチュードでしょう。どちらかと言えばタレガが想定した中級者よりも、ある程度の難曲でも弾きこなすことの出来る上級者に是非練習してほしい曲かも知れません。
 
 
 
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