中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

 ギタリストを悩ます「グレーな音符たち」の話ですが、今回は前回に引き続き、現代ギター社版、中野二郎編のソルの「モーツァルトの主題による変奏曲」についてです。

 この譜面(現代ギター社版)はソルの生存中(19世紀初頭)に出版されたMeissonnier-Heugel版を基にしていると書かれ、その初版を忠実に再現したものと考えられます。そうした経緯からすれば、この譜面は第一級の資料と言え、現在のすべての出版譜や演奏が、この譜面(Meissonnier-Heugel版)を基にしているといってよいでしょう。



最も信頼できるはずだが

 ということは、この譜面に出来る限り忠実に従って演奏するのが作曲者の意思を反映することになるのですが、ところがこの譜面は前回の話のとおり、そう一筋縄ではゆかない。

 前にも話したとおり、ソルという人は作曲や演奏については(それ以外のことも?)かなりの”こだわりや”だった訳ですが、同時にかなりアバウトな面も持っているようです。一般に”こだわりや”というのは自分が関心のある部分とそうでない部分とがはっきりする人なのかも知れません。

 ソルは、タレガとは違い、自らの作曲家としての面を強く意識していたと思いますので、楽譜の出版には力を入れ、実際にかなりの量の楽譜を出版しています。それだけ強い意識があれば、出版に際しては細心の注意を払うべきところなのでしょうが、残された譜面からすると、どうもそうとは言えないようです。出版社の問題などすべてがソルの責任とは言えないでしょうが、努力すればもう少し譜面のトラブルを少なくすることは出来たでしょう。同時代に出版された譜面の中には、ミスの少ない譜面もたくさんあるわけですから。



あまり迷う人はいないが

グレー 001


 ”グチ」から始まってしまいましたが、上の譜面は「モーツァルトの主題による変奏曲」の序奏の最後の部分です。ここははっきりミスとわかる部分なので、あまり問題にはなりませんが、一応挙げておきました。

 あまり説明もいらないと思いますが、ここは単純な繰り返しと考えられるところなので、全く同じでよいと思います。ほとんどのギタリストがそうしていると思います。「グレー」というよりほとんど「真っ黒」でしょうか。




あえて変えるなら

グレー 002

 上は第5変奏で、ここは逆に普通は間違いとはされていないところです。前半と後半のそれぞれの中央付近で、それぞれほぼ同じなのですが、譜面のように微妙に違います。もちろん楽譜通りに弾いたとしても何の問題もなく、従ってほとんど、あるいはすべてのギタリストは譜面どおりに弾いています。もちろん私も楽譜どおりに弾いています。

 こだわり屋のソルですから、前半、後半を微妙に変えたということはもちろん十分に考えられ、普通そう解釈されています。しかしこの違いがあまりにも微妙すぎて、特にその効果もないのではないか、聴いている人もその違いはほとんどわからないのではと思います。



なんとなく変わってしまった?

 あえて変えるなら、当然それなりの効果がなくてはならず、実際ソルの場合も、他の曲ではそうしていると思います。もしかしたらここは、ソルが意識的に変えたのではなく、何らかの理由で、うっかり「変わってしまった」のではないか、単純なミスである可能性も否定出来ないでしょう。

 しかしそうは言っても譜面どおりに弾いて特に問題はなく、難しくもなく、また他のギタリストも皆譜面どおりに弾いているので、心のどこかでは間違いかも知れないとは思いつつも、これからも譜面どおりに弾いて行くでしょう。 ・・・・色で言えば一応「白」だが、ちょっとゴミも付いている ・・・・そんなところでしょうか。


ここも特に問題にはならないが

下のほうはコーダの終わりの方で、ご覧のとおり最後の和音の音が一つ少なくなっていますが、単純ミスと考えてよいでしょう。




ギター曲ではないが

 グレー 006


 上の譜面の、上の方は「無伴奏チェロ組曲第1番」の「プレリュード」の後半の始めくらいのところです。原曲はもちろんチェロですが、ここでは一般的に弾かれるギターの譜面を載せておきました。

 問題の箇所は線で示した「ファ」の音で、おそらく皆さんがお持ちの楽譜でもこのように「ファ-ナチュラル」になっていると思います。私がもっているチェロの譜面(Edition Peters)でもナチュラルになっています。

 しかしカザルスやフルニエ、藤原真理などのチェリストはここを#で弾いています。もちろんヨーヨーマやマイスキー、シュタルケルなどナチュラルで弾いているチェリストもたくさんいます(私が持っているCDではナチュラルのほうが多い)。


増2度を嫌った?

 何の理由もなく音を上げることはないと思いますので、何らかの理由があるのでしょうが、私にはよくわかりません。「ソ#-ファ・ナチュラル」という増2度の動きを嫌ったのかも知れませんが、バッハの曲にはこの増2度の音程はよく出てくるので、むしろバッハらしいと思うのですが・・・・ 「カザルスがそう弾いていたから、それに倣った」などという理由ではないことを期待します。

 ギタリストのほうはシャープで弾いている人はいないように思いますが(多分)、とりあえずナチュラルでよいのではと思います。つまり私には「白っぽく」見えます。



グラナダの場合でも

 「増2度を嫌った」言えば、以前にもお話しましたが、アルベニスの「グラナダ」にもそうした部分があります(下の段の※のところ)。ピアノの譜面(音楽の友社版)ではここは#になっていて、ギターの編曲でも#になっているものがほとんどです。

 しかし、スペインの著名なピアニストの、アリシア・デ・ラローチャ、および私が持っている別のCDでも(演奏=エステバン・サンチェス)、さらにギタリストのセゴビアも、ここはナチュラルで弾いています。



結局、スペインの音楽家たちに従うべきかな

 ここもやはり「増2度」の動きを嫌ったのではないかと思いますが、増2度、つまり「レ#」のままでも、それはそれで味わいのあるものではないかと思います。私がナチュラルのほうにしたのは、こうしたスペインの音楽家がそう感じたならば、それに従うべきかなと思ったからです。

 確かにナチュラルのほうが滑らかな感じがしますが、このようにいろいろなところで、この「増2度」を避ける演奏家は多いようです。因みにタレガ編はシャープで、少なくとも私が持っている譜面ではそうなっています。
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