中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

作曲者 イサーク・アルベニス

 アストゥリアスの話を始める前に、作曲者のイサーク・アルベニスについて話をしなければならないと思いますが、これまですくなくとも国内ではあまり詳しく書かれている本なども少なく、CDのブックレットに少し書かれている程度で、私自身もあまり詳しいことなどはわかりませんでした。最近になって、現代ギター誌の2005年4月号~9月号(no.485~490)に富川勝智さんが計24ページにわたり「イサーク・アルベニスの生涯」を書いていて、これまでアルベニスについての詳しい資料などなかったので、たいへん貴重な記事ではないかと思います。興味のある方はぜひ読んでみて下さい(すでに読んだかも知れませんが)。それを読んでいただくのが一番よいと思いますが、現代ギター誌が手元にない方や、読むのが面倒だという人のために、若干かいつまんでお話します。

 アルベニスは1860年にスペインのカタロニア地方で生まれ、幼少より音楽的才能を発揮し、少なくとも10代ではスペイン国内や南米などで演奏活動していたようです。20代でフェリス・ペドレルに出会い、以後ペドレルの影響によりスペイン的な音楽を書くようになったそうです。代表作としては晩年に書かれた12曲からなるピアノ組曲「イベリア」があり、他にギターでもおなじみの「スペイン組曲」、「スペインの歌」、「旅の想い出」などがよく知られています。ピアノ・ソナタなどもあるそうです。またスペインのオペレッタと言うべき「サルスエラ」にも強い作曲意欲をもち、何曲か書いています。1909年にお互いに影響を受けあったと言われているフランシスコ・タルレガと同じ年に没しています。

 CDの解説などには、「1歳でピアノを始め、4歳でコンサートを行い、10代では家を飛び出し、スペイン国内や南米諸国などの放浪の旅へ」と後に本人が語っていたとされていますが、これは多少脚色した点があるようで、富川さんによれば彼の父や姉に支えられながら「わりと普通に」音楽を勉強し、また「計画的に演奏活動を行った」ようです。またアルベニスが音楽家の道に進むにあたってはその父親の強い意志があったのは確かなようですようです、もちろんアルベニスが幼少から高い能力を持っていたのは間違いないことと思いますが。

 17歳の時にタルレガとも出会い、以後親交が続き、ご存知のとおりタルレガはアルベニスの「カディス」、「グラナダ」、「セビーリャ」などをギターに編曲しています。アルベニスの寿命がもう少し長かったら正真正銘のギター作品を残したかもしれません。またパリやロンドンなどで活動していた時期もあり、ショーソンやドビュッシー、ラヴェルといったフランス印象派の音楽家たちとも親交があり、グラナドス、マラッツといった同時代のスペインの音楽家とも親しかったようです。



アストウリアス? レーエンダ?

 この曲はCDや楽譜では「アストゥリアス」と表記されているものと、「レーエンダ」と表記されているものとがあります。いったいどっちが本当の曲名なのかと言われますが、それにはどちらも本当の曲名ではないと答えるしかないと思います。どちらも作曲者の死後、もちろん本人の全くあずかり知らぬ所で付けられた曲名です。本来の曲名としては、1893~1895年頃作曲された「スペインの歌」の第1曲「プレリュド」ということになります。この曲はアルベニスの死後ドイツの出版社によってグラナダ、カディス、セビーリャ、などと共に8曲からなる「スペイン組曲作品47」の5曲目として組み入れられ、その時出版関係者によってアストゥリアス=レーエンダと改題されました。曲名だけでなく若干の音の変更、特に強弱、表情記号などはかなり変更されたようです。

 実際にはこちらの組曲のほうが一般的に知られるようになり、ギターへの編曲もこの組曲のほうからなされたようで、ギターでは、普通「アストゥリアス」または「レーエンダ」名で呼ばれています。一応「アストゥリアス」のほうがメインの曲名で、「レーエンダ」のほうが副題ということになると思いますので正式には「アストゥリアス=レーエンダ」で、簡略化する場合は「アストゥリアス」のほうでいいのではないかと思います。

 この「アストゥリアス」というのはスペイン北部の大西洋に面した地方名で、「レーエンダ」は英語で言えば「レジェンド」で「伝説」の意味になります。この曲そのものは、おわかりのとおりたいへんスペイン的というか、フラメンコ的な曲で、地名などを曲名にするとなれば当然フラメンコの盛んなアンダルシア地方の地名が付くのがはずですが、この「アストゥリアス地方」はフラメンコには全く縁のないところだそうで、曲名を付けた人の見識が若干疑われるところです。「レーエンダ」についても単なるイメージで、根拠のないものと思われます。

 と言うわけで正しい曲名としては『イサーク・アルベニス作曲「スペインの歌」より第1曲「プレリュード」』ということになり、たまにはそう表記してあるCDや楽譜を見かけます。しかしこのようにプログラムに載せても何の曲だかわからない人も多いでしょうし、曲名はわかりやすいのが一番ですから、私の場合も「アストゥリアス」と表記して演奏しています。そのように表記されることが一番多いと思いますし、また詳しいことさえわからなければ意外と「アストゥリアス」という発音はフラメンコぽく聴こえます。「レーエンダ」のほうはやや少数派なのと、なんとなくその「音」が曲のイメージに合わなく感じるので、私はあまりこの曲名で表記しません。ちなみにこの曲の最初の編曲者と思われるアンドレ・セゴビアのレコードには「レーエンダ」で表記されています。もしかしたらスペイン人のセゴビアにはアストゥリアスという曲名は違和感があったのかも知れません。
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