中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

ナクソス : 新進演奏家シリーズ

 ナクソスというレーヴェルについては皆さんもご存知と思いますが、低価格で様々なジャンルの貴重なCDを多数市場に出しています。ギターのほうでも作曲家やジャンルごとに価値あるCDを多数出していますが、その中に「新進演奏家シリーズ(Laureate Series)」と言うのがあり、国際コンクールなどで優勝した、世界中の優れたギタリストを紹介しています。

 このシリーズは1990年代から続いていて、ネットで検索すると、少なくとも30枚以上は発売されているようです。もちろんその全部は購入していませんが、比較的最近発売されたものを中心に紹介して行こうと思います。それぞれ世界各地の著名な国際コンクールの優勝者ということもあって、どのギタリストもたいへんレヴェルが高いのはいうまでもありません。

 このシリーズにはヨーロッパやアメリカなど世界各地の出身ギタリストが名を連ねていますが、残念ながら邦人ギタリストは一人もいません。最近著名な国際ギター・コンクールで優勝したギタリストがいないということでしょうか。



クラシック・ギターの今が見えてくる

 しかしこうしたギタリストの特徴や実力、そのギタリストの音色や微妙な表現力などを知るにはCDではなく、生でリサイタルを聴く方がずっとよいかも知れません。現代のようにどんなに録音技術が上がっても、いや上がればあがるほど、むしろその音楽家の本当の音楽を捉えるのはかえって難しくなるでしょう。

 でもその一方、CDにはそのギタリスト(あるいは録音スタッフ)の、一つの理想像が記録されているはずですから、CDから聴こえてくる音楽もやはりそのギタリストの一つの音楽だろうと考えられます。そうしたことも踏まえつつ、ここではあくまでも「CDで聴いた印象」ということで、各ギタリストを紹介してゆこうと思います。

 またこうした若いギタリストの演奏を聴くと、最近どのような曲がどのように演奏されているのか、さらに世界中でどのようにギター演奏の教育がなされているのかなど、クラシック・ギターの”今”が見えてくるのではと思います。



    新進演奏家
          オンドラス・チャキ


J.S.バッハ : パルティータホ長調 BWV1006b (リュート組曲第4番)
ベンジャミン・ブリテン : ノクターナル
ジョン・デュアート : カタルーニャ民謡による変奏曲
M.C.テデスコ : ソナタ「ボッケリーニ賛歌」



2009年 ミハエル・ピッタルーガ国際ギター・コンクール、  2008年 東京国際ギター・コンクール優勝

 さて、最初に紹介するCDはこのシリーズで最も新しいもので、今年の4月に録音された、オンドラス・チャキのCDです。このギタリストは1981年にハンガリーで生まれたギタリストで2009年にイタリアのアレッサンドロ市で行われた「ミハエル・ピッタルーガ国際ギター・コンクール」で優勝しています。私事になりますが(ブログは基本的に私事ですが)このコンクールは、2000年に創(長男)が3位に入賞したコンクールなので、若干親近感があります。また山下和仁さんや鈴木大介さんも確か優勝していたと思います。このコンクールの本選では協奏曲を演奏し、創もこのコンクールで初めてアランフェス協奏曲を全曲、フル・オーケストラで演奏しました(最初で最後?)。

 また2008年の東京国際ギター・コンクールでも優勝しており、その時の様子や、インタビューは現代ギター誌にも乗っています(2009年2月号)。なお、このギタリストの名前は、このCDのオビでは「アンドラーシュ」と表記されていますが、この現代ギター誌のインタビュー記事では、母国語では上記のとおり「オンドラス」という発音のほうが近いそうなので、ここでもそのように表記しました。


コーノ・ファン?

 このギタリストはインタビューでも言っているとおり、「コーノ」ギターを愛用しており、現在3本コーノを持っているそうです(正確にはSakurai-kohno)。ただし3本ともコンクールの賞品とのことです。



速すぎず、遅すぎず

 このCDに収められた曲目は上記のとおりですが、このシリーズの多くのギタリストがバッハの組曲を録音していますが、その中でもこの「パルティータ ホ長調」は好んで取り上げられているようです。自らの演奏能力をアピールできる曲と考えられているのでしょう。他にバッハの曲としては無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番、第3番などが人気が高いようです。

 このギタリストの特徴として、このバッハの曲に限りませんが、非常に適切なテンポで演奏しているという点があります。このパルティータのプレリュードは、4:07で演奏されていて、一般的にギターで弾くテンポとしては決して遅い方ではありませんが、また速すぎるとも感じません。要するに速すぎるとも、遅すぎるとも感じない速さと言えます。そのことはブリテンやテデスコの曲にも言えます。



さっぱりしょうゆ味?

 演奏技術が高く、流麗な演奏になっていることは、あえて言うまでもありませんが、装飾音などは楽譜にある以外はほとんど付けていません。音色ももちろん美しいものですが、どちらかと言えば、「こってり系」よりも「さっぱり系」といった感じです。

 ここで演奏されている曲は、それぞれ難曲として知られていますが、このCDを聴く感じではそうしたことはほとんど感じられません、ブリテンやテデスコの曲では各声部がよく整理されて演奏されているので、ごちゃごちゃ感がなく、自然に聴けます。音量などに関しても適切に変化させていて、曲の構造がよくわかるようになっています。

 またテデスコの終楽章の「ヴィヴォ・エ・エネルジコ」は異常な速さで演奏されることが多いのですが、前述のとおり”常識を逸することのない速さ”(特に遅いわけではない)で演奏しています。

 「カタルーニャ民謡による変奏曲」は有名なリョベートの「盗賊の歌」をテーマにしたものです。演奏者のチャキはもちろんよくメロディを歌っているのですが、テンポの収縮などは控えめに演奏しています。


逸脱することなく

 このオンドラス・チャキの演奏の印象をまとめると、まず、たいへん高いレヴェルで常識をわきまえた、つまり伝統的な音楽語法をしっかりと学んだ上での演奏と感じることです。前述のとおり、テンポや音量の変化、フレージングなどもたいへん適切な処理をしています。

 まだ20代のギタリストですから、今後まだまだ変ってゆく可能性はあると思いますが、ただこうした傾向のギタリストは今後それほど大きく変ることは少ないようにも思います。つまり今の時点でもある程度完成された感があるということです。ただし最初の話のとおり、生演奏とCDではかなり異なる可能性はありますが・・・・
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