中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

 今日は予定ではギター文化館でのカルドーソのリサイタルを聴きに行くつもりだったのですが、ちょっとした手違いで車が使えなくなってしまい、行くことが出来なくなってしまいました。行っていたらそのレポートを書くはずだったのですが、その代わりにこの「新進演奏家シリーズ」を書きます。



Ana Vidovic  1998年 タレガ国際ギター・コンクール優勝


新進演奏家 008


バッハ : パルティータホ長調BWV1006a(リュート組曲第4番)
ポンセ : ソナタ・ロマンティカ
タレガ : ムーア風舞曲、アラビア風奇想曲、ワルツ(二長調)
ステファン・シューレック : 3つのトロバドゥール
ウイリアム・ウォルトン : 5つのバガテル



昨年来日し、現代ギター誌でも取り上げられた

 これまで録音の新しい順に紹介してきましたが、今回は順序を替え、かなり前の録音になりますが、昨年来日し、現代ギター誌でも紹介され、現在話題の女流ギタリストということで、このアナ・ヴィドヴィッチのCDを紹介します。

 このCDの録音は1999年の7月ということで、12年ほど前のものです。「1980年、クロアチア生まれ」と記されていますから、この当時18~19歳ということになりますが、写真の感じからするともっと若いようにも見えます。なお現在の写真、および村治佳織さんとの対談が今年の1月号の載っており、昨年の9月号の表紙にもなっています。各地でリサイタルも行ったので、聴いた人もいるでしょう。


天才美少女ギタリスト

 このシリーズのギタリストは皆、それぞれ幼少時から才能を発揮し、若い時から様々なコンクールに入賞してきていますが、このヴィドヴィッチなどその好例で、20歳を待たずして、この「タレガ国際」をはじめ、多くのコンクールで優勝しています。いわゆる「天才美少女ギタリスト」の一人といえるでしょう。録音当時には、すでにクロアチア国内をはじめ、世界各地で演奏活動を行っているとのことです。



かなりの速弾き 

 さて演奏の方ですが、ころまで聴いたギタリストは、それぞれ非常に高い演奏技術を持っているにもかかわらず、常軌を逸した速いテンポで弾く人は意外といませんでした。皆それぞれその曲の内容に合ったテンポを慎重に吟味して選んでいたように感じました。

 このヴィドヴィッチの演奏は、このCDを聴く限りではかなり速弾きを好むギタリストのようです。どの曲もかなり速めのテンポをとっていますが、特にバッハのパルティータの「プレリュード」は3分22秒で弾いています。このシリーズの最初に紹介したオンドラス・チャーキは4:07で演奏、かなり速めのイメージがあるマヌエル・バルエコでも4:00、セルシェルは5:09、6分前後で弾くギタリスもいます。それらのギタリストの演奏と比較すると、この3:22と言うのがかなりの速さと言うことがわかると思います。

 因みにヴァイオリンの場合は、普通ギターよりも速めに演奏されますが、シゲティ、シェリングが3:58、3:55、速めのテンポのクレーメル、クイケンが3:17と、ヴァイオリンの演奏に比べても速い方になります。


 もちろん重要なのは、その速いテンポをとった結果、その音楽がどう聴こえてきたかということで、こ何度かのCDを聴いてみたのですが、結論としては、このテンポの必然性とか、曲が面白くなったとかということは、私にはよくわかりませんでした。


強い音

 この演奏の最大の特徴は「テンポが速い」と言うことでしょうが、それ以外の特徴としてはどんなところかなと思って聴いてみたのですが、そうした特長を捉えるのもやや難しいところです。音質てきには「強い」音といったところでしょうか。もちろんノイジーな音ではありませんが、柔らかいとか、優しい音といった感じではありません。またクリヤーで透明度の高いというよりは、やはり「強い」という言葉がもっとも当てはまるように思います。


 2曲目の「ルール」などのようなゆっくりとした曲は、普通にゆっくり目に演奏していて、落ち着いた演奏といえます。しかしじっくり歌うというよりはさらりとした感じで、装飾などもほぼ譜面にあるとおりに弾いています。若干気になる点としては、低音と高音をずらし気味に弾いていることですが、こうしたことはバッハのような曲では声部の流れなどをわかりにくくしてしまうのではとも思います。



すっきりとはしているけども

 ポンセの「ソナタ・ロマンティカ」も同様にかなり速めのテンポで弾いています。速く弾くことにより、曲の内容がわかりやすくなっているようにも思いますが、その分シューベルト的な雰囲気もポンセの洒落っ気のようなものは薄れてしまっているように感じます。「モーメント・ミュージカル」とされた第3楽章の「アレグレット・ヴィーヴォ」もシューベルトの音楽からはほど遠い感じです。


マイナスなことばかり書いてしまいましたが

 次にタレガの曲を3曲弾いています。これまでマイナスなコメントが多くなってしまい、どうしようかと思っていたのですが、この3曲はたいへん楽しめました。タレガの自己評価も高い「ムーア風舞曲」はまさにヴィルトーゾ的な演奏、たいへん気持ちよく聴けます。

 「アラビア風奇想曲」も速めのテンポでたいへん引き締まった感じがします。この曲は「アンダンティーノ」の指示があり(楽譜によっては「アンダンテ」と書き直されているものもある)、タレガ自身も意外と速弾きだったようで、このテンポで、全く問題ないのではと思います。ニ長調になってからのグリサンドの弾き方はちょっと変っていますが、それもなかなか面白いです。

 短くて、愛らしい小品の「ワルツ二長調」もとても楽しい演奏です。因みに譜面どおりにト長調のところで終わりにするのではなく、ダ・カーポを付けて二長調のところで終わっています(3拍目で終わり)。

 

シュレークの3つのトロバドール

 次は Stjepan Sulek というクロアチアの作曲家の作品で 「The Troubadours Three 」 と言う曲を演奏しています。「メランコリー」、「ソネット」、「セレブレーション」の3曲からなります。「トロバドール」とは13世紀の吟遊詩人のことですが、曲としてはメロディックな感じで、不協和音的ではありません。おそらく教会旋法などを使用していると思われます。3曲目は舞曲的ですが、急速な音階などが頻繁に現れます。



人気の高い現代曲

 最後はウィリアム・ウォルトンと「5つのバガテル」で現代曲としては人気も高く、よく演奏される曲です。バッハやポンセの曲では若干戸惑ったものの、やはりこういった曲ではこのギタリストの良さが十分に伝わり、とても楽しめます。とはいっても、2回目に紹介したフローリアン・ラルースが弾いたら、いっそうイメージを膨らませてくれたかな、などと、つい思ってしまいます。



20世紀型ギタリスト?

 最後まで聴いて見ると、このギタリスト、つまりアナ・ヴィドヴィッチは若いけれども、その演奏はなんとなくかつての巨匠たちの演奏を思わせます。このシリーズの他のギタリストたちのように、音楽を正しく学び、その作品の内容をできるだけ正しく表現しようという姿勢ではなく、どちらかと言えば自らの感性と能力を全面に出す、いわゆるヴィルトーゾ的なタイプのギタリストなのでしょう。

 そういえば前述の低音と高音をずらし気味に弾く弾き方は、過去のギタリストは皆やっていました。アナ・ヴィドヴィッチは、ちょっと遅れてきた20世紀型ヴィルトーゾなのかも知れません
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