中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

当スタジオCDコンサート「21世紀のギタリストたち」 

 このシリーズも今回で9人目のギタリストの紹介になります。もちろんこのシリーズのすべてのギタリストを紹介することも出来ないので、2005年以降の録音のあと数人、つまり合計で10数人程度紹介したいと思っています。しかし文章でCDを紹介するのは文字通り「絵に書いた餅」。仮に私がどんなに文章力があったとしても正確に伝えるのは無理な話。まして私の鑑賞力や文章力からすれば言わずもがなというところでしょう。

 そのうち一段落つたところで、ささやかながら私のスタジオでCDコンサートでもやろうかと思っています。もちろんあまり広いところではないので、10人前後ということになりますので、対象は私の教室に近い人や、よほどの物好きの方に限ることになりますが、特に私の教室の関係者でなくてもよいと思っています。

 ここで紹介しているギタリストたちは、間違いなく21世紀のギター界を背負って立つ人々で、これらの演奏を聴くことによって”ギターの明日”が見えてくるでしょう。時期的にはいろいろな行事等の関係もありますが、4~5月くらいかなと思っています。日にちなど決まったらまたブログに書きます。



新進演奏家 009


Thomas Viloteau   フランス出身 2006年 GFA優勝

ミゲル・リョベート : ソルの主題による変奏曲
アレキサンドル・タンスマン : カヴァティーナ組曲
レオ・ブリーウェル : オリシャスの祭礼
アルベルト・ヒナステラ : ギターのためのソナタ作品47
ローラン・ディアンス : トリアエラ



 今回紹介するのは1985年、フランス生まれのトーマ・ヴィロトーです。フランス生まれですが、13才よりバルセロナでアルバロ・ピエッリなどに師事しています。2006年にアメリカのGFAで優勝している他、数々のコンクールで入賞しているのはこのシリーズの他のギタリストと同じです。



スモールマン使用

 楽器はガブリエル・ビアンコと同じくスモールマンを使用していますが、この楽器は低音、高音ともよく鳴り、ノイズの少ないクリヤーな音が特徴でしょう。伝統的なギターの音色というより、ピアノの近い感じといってもよいでしょうか。よく鳴る分だけ音色の変化、微妙なニュアンスなどは逆に出しにくいようです。



透明度の高い演奏

 最初のリョベートの曲はそるの作品15の「スペインのフォリアによる変奏曲」の主題を使用したもので、ソルの原曲よりいっそう技巧的になっています。ヴィロトーの演奏は、その技巧上何の問題もないのは当然のことながら、音色的にも、音楽の構造的にもたいへん透明度の高い演奏と言えるでしょう。


 タンスマンの「カヴァティーナ組曲」は後に追加された「ダンサ・ポンポーザ」を含めない「プレリュード」、「サラバンデ」、「スケルツィーノ」、「バルカローレ」の4曲となっています。タンスマンの曲はどちらかと言えば、ピアノ曲的なところがあり、あまり派手ではないがギターでその音楽を忠実に再現するのはなかなか難しいところもあります。

 しかし、この演奏ではそうした「ギターの都合」といったものは全く感じさせず、古典的に作曲されているタンスマンの音楽を忠実に、クリヤーに、また端正に再現しています。



ブローウェル : オリシャスの祭礼

 ブローウェルの「オリシャスの祭礼」は1993年にアルバロ・ピエッリのために書かれた作品ということで、ヨルバ族の祭礼と舞踏を題材にした作品です。ヨルバ族とは前にも出てきましたが、アフリカのナイジェリアによく住む部族で、多くのキューバ人のルーツになっています。

 曲は、Ⅰ.Exordium-conjuro (イントロダクション)と Ⅱ.Danza de las negras (黒人の神々の踊り)からなり、Ⅰの冒頭は「舞踏礼賛」によく似ています。ヴィロトーの演奏は、前のタンスマンの曲とは一転して、強弱の変化などをはっきり付けています。「弱」の部分でも不明瞭にならず、「強」の部分でも雑音にならず、しっかりとした芯の強い音を出しています。



ヒナステラのソナタ 

 アルベルト・ヒナステラはアルゼンチンの作曲家で、このソナタは1976年にギタリスト、カルロス・バルボサ・リマのために作曲されています。10年くらい前にテレビでヒナステラの交響曲を聴いたことがありますが、なかなか面白い曲でした。この「ソナタ」に若干似ている感じです。


ギタリスト以上にギターに詳しい?

 この曲を聴いていると、ギターの糸倉を弾き鳴らしたり、弦を擦る音、各種ハーモニックス、グリサンド奏法、指板やボディーを叩くなどの各種パーカッション奏法、ラスゲヤードやミュート奏法、おまけに冒頭はギターの6本の開放弦による和音など、どう聴いてもギタリストの作品にしか思えないのですが、ヒナステラは全く(少なくともステージなどでは)ギターを弾かない作曲家。信じがたい気がします。

 結局ヒナステラはギターのための作品をこの1曲しか書かなかったのですが、この作品を書くにあたっては、ギターの技法を徹底して研究したそうです。ギタリスト以上にギターの技法に詳しい作曲家かも。またこの曲は最近ではコンサートやコンクールなど、多くのギタリストによって演奏されます。



特殊技法のオン・パレード

 曲は4つの楽章からなります。Ⅰ、Ⅲ楽章は叙情的な楽章で、Ⅰは前述のとおりギターの6本の開放弦の和音で始まります。Ⅲは「愛の歌」ということで美しい楽章ですが、一般的な意味では、メロディックな曲ではありません。

 Ⅱ、Ⅳ楽章は無窮動的で、リズムを主体として、前述のとおり、各種の特殊奏法をふんだんに使った楽章です。Ⅱでは糸倉の弦を弾く奏法、グリサンド、バルトーク・ピチカート、打楽器的奏法など初めて聴いた人でもとても楽しめます。Ⅳも同様の楽章ですが、パーカッションを織り込んだラスゲヤード奏法が中心で、聴く人の興奮を誘う音楽になっています。

、ヴィロトーの演奏はそれらの特殊奏法を効果的に演奏し、特に最後はエキサイティングに盛り上げていますが、その一方でリズムやテンポをしっかりとキープし、暴走や音楽の崩れなどは一切見せません。



Three come ?

 最後の曲は「タンゴ・アン・スカイ」や「リブラ・ソナチネ」で知られているフランスのギタリスト兼作曲家(生まれはチュニジア)のローラン・ディアンスの作品(2001~2002年)で、「Triaela」です。この曲名はギリシャ語で「3」を表す「Tria」と「come」を表す「ela」を合成した造語だそうです。

 題名どおり3つの楽章からなりますが、1曲目は「Light Motif ~Takemitu au Bresil」となっていて、日本の作曲家、武満徹へのトリビュートということで、武満の音楽にブラジルの「サウダージ」の要素を加えたものだそうです。確かにハーモニックスの部分は武満のギター曲を思わせます。「ライト・モチーフ」とはワーグナーが用いた「示導動機」ということですが、確かに同じ音形が繰り返して現れます。ところで「au」は何の意味なのでしょうか、どうも英語ではなさそうです。まさか「合う」ではないとは思いますが。



6弦=ラ?

 2曲目は「Black Horn ~when Spein meets Jazz」となっています。冒頭のところはスペイン風というより何となくブローウェル風にも聴こえますが、後半は確かにブルース風になります。3曲目は「Clown Doun ~Gismonti au cirque」となっていて、ブラジルのジャズ・ギタリスト、エグベルト・ジスモンチへのオマージュだそうです。「cirque」は「サーカス」のことで、ジスモンチのヒット・アルバムの「Circense」からきているようです。特殊奏法、特に親指で弦を叩く奏法などが使われ、なかなか盛り上がる曲になっています。

 言い遅れましたが、この曲は特殊調弦が用いられていますが、かなり低い音まで聴こえてきます。おそらく6弦を「ラ」、つまり5弦の1オクターブ下にしているようです。なかなか面白い曲で、今後いっそう演奏されるようになるのではと思います。



クリヤーな音質と大きな強弱の差で、音楽全体をしっかりと構成する

 このヴィロトーの演奏の印象をまとめると、まず一つはこれまで紹介してきた新進ギタリストの特徴の大部分を持っているということでしょうか。各部分にも細かい注意を払いながらも、音楽全体をしっかりと見通している、また古典から現代に至る様々な様式の音楽を的確に演奏い分ける、自分の演奏スタイルよりも作品の内容を優先させる・・・・・・など。

 とは言ってもそれぞれ「生身」のギタリストですから、音色とか、微妙なニュアンスとかいったものはそれぞれ異なるのは当然です。このギタリストの場合は、使用している楽器の影響もありますが、クリヤーで、透明感のある音色、微妙なニュアンスで勝負するタイプではなく、どちらかと言えば音楽を大きく捉えるタイプ、テンポの変化は必要最小限度だが、強弱の幅は大きい・・・・といったように感じました。
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