中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

ニルセ・ゴンザレス  ヴェネズエラ出身 2006年タレガ国際ギター・コンクール優勝



  新進演奏家 010


Nirse Gonzalez 

アントニオ・ホセ : ソナタ
マヌエル・ポンセ : 主題と変奏、終曲
J.S.バッハ : 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番
ホアキン・クレルチ : ヴォロにて、和音の練習、レガートの練習
フランシスコ・タレガ : アデリータ、マズルカト長調



ラテン的な温もり

 今回紹介するのは2007年1月に録音された、ニルセ・ゴンザレスののCDです。ニルセ・ゴンザレスは1981年、ヴェネズエラの生まれということで、今年で30歳、これまで紹介したギタリストの中で、中南米出身は初めてということになります。国籍や出身地でそのギタリストに先入観を持ってはいけないとは思いますが、やはりこのギタリストの音色はラテン系を感じさせます。

 もっとも 「音楽を総合的に学び、その作品が要求することを自らのギターで表現する」 といったことはこシリーズの他のギタリストと全く同じで、演奏技術が高いということも、もちろん同じです。そういった点では現在は世界中で国境や地域差がなくなっているのでしょう。しかしそのい一方で、音色のようなものには、やはり伝統とか、民族性のようなものは残っているのかも知れません。



ホセの「ソナタ」は3人目

 1曲目は、アントニオ・ホセの「ソナタ」ですが、この曲はこのシリーズで他にフローリアン・ラルース、イリーナ・クリコヴァが録音しています。前の二人がとてもすばらしい演奏をしていただけに、私の耳的には若干高いハードルとなってしまいました。

 ゴンサレスの演奏は二人に比べてどの楽章もやや速めに演奏しています。音量の幅や音色の変化などはあまり極端には付けていませんが、音色的にはとても自然で、ギターらしい音になっています。神秘性とかシリアスさというより、気さくで、日常的な感じ。聴いて疲れない演奏とも言えるでしょう。



ギター好きに好まれそうな音、演奏

 録音の関係もあるでしょうが、このゴンザレスの音は余計な響きがなく、とてもギターらしい音がします。ギター好きには好まれる音、あるいは演奏ではないかと思います。第2、3楽章もとても自然な音でゆったりとした気分で聴けます。第4楽章は速めのテンポで、あまり細かい表情付けにはこだわらない演奏ですが、決して即物的ではなく、音楽はあくまで自然で、耳に馴染みやすい演奏です。そういえば、この第Ⅳ楽章では第1楽章が回想されているのですね。


やはりポンセとの相性はよい

 次はポンセの名曲の一つ、「主題と変奏、終曲」で、8分前後くらいの曲ですが、ポンセの魅力がよく出た曲
です。ヴェネズェラとメキシコはもちろん違う国ですが、このギタリストとポンセの音楽はとても相性がよいようで、理屈抜きで楽しめます。テンポも速いとも遅いとも感じない、と言うことは適切なテンポで演奏しているということでしょう。


バッハはリュート的アプローチ

 次はバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番」ですが。これはペトリック・チェク(7回目に紹介)も演奏しており、はやり最近のギタリストの中では人気の高い曲なのでしょう。チェクの場合は、特に最初の「グラーヴェ」で、低音を追加して「協奏曲の第2楽章のように」演奏していましたが、このゴンザレスの場合は、低音はあまり追加せず、その代わりに装飾音をふんだんに付けています。要するにリュート奏者などがよくやるような演奏法なのですが、こちらの方が現在では主流でしょう。つまり、チェクの場合は鍵盤楽器的なアプローチ、ゴンザレスの場合はリュート的なアプローチといえるでしょう。 

 第2楽章の「フーガ」も、もちろんバッハの音楽様式に的確に従って演奏していますが、演奏があまり分析じみていないところがよい点でしょう。繰り返すようですが、音楽が自然に耳に入ってくるのが、このギタリストの最大の特徴なのでしょう。第3楽章の「アンダンテ」もヴァイオリンの譜面をそのまま演奏(結果的に1オクターブ下)していますが、反復後は装飾音をかなり付けています。またリピートや後半に移る部分などの”つなぎ”のパッセージもとても自然です。

 第4楽章の「アレグロ」はチェクより若干速めに弾いていますが、適切な範囲といえ、決して”指まわり”をアピールするような演奏ではありません(こうした表現は蛇足ですが)。控えめに追加された低音もなかなか効果的です。



ホアキン・クレルチ門下

 以前紹介したホアキン・クレルチの作品を3曲弾いていますが、このゴンザレスもクレルチ門下なのでしょう。クレルチ門下からは、こうした若い優れたギタリストが育っているようです。

 ヴォロ( Volos)はギリシャにある美しい町で、毎年ここでギターのサマー・スクールが開かれるそうです(現代ギター誌でも取り上げられていた?)。1曲目はその時の印象を曲にしたものなのでしょう、メロディックな曲ですが、現代的な和声が付けられています。

 2曲目は「和音の練習曲」で、ヴィラ・ロボスの「練習曲第4番」に若干似ています。3曲目は”de ligados”ということでスラー奏法の練習曲になっています。


ソルへのマズルカ?

 最後にタレガ国際ギター・コンクール優勝ということでタレガの曲を2曲(アデリータ、マズルカト長調)を弾いています。ところで、このナクソスのCDには日本語のオビが付けられていて、あまり英語などの外国語に弱い私としてはとても助かっています。

 このCDの日本語のオビに、タレガ作曲「ソルへのマズルカ」 と言う曲名があります。「ソル」といえばギター界ではあのフェルナンド・ソルしかいません。伝記などによればタレガはソルの曲を弾いていたという記述はなく、ましてソルに因んだ曲の存在は聴いたことがありません。一瞬 「タレガの幻の作品の発見?」 と思ったのですが、原文表記を見ると何のことなく”Mazuka en Sol” 有名な「マズルカト長調」ではないか。

 なんと「Sol」が「Sor」になってしまったわけですが、このオビを書いた人は”それなりに”ギターのことを知っていたので音名の「Sol」を「Sor」と勘違いしてしまったのでしょうね。私なども「R」と「L」の区別が付かない方ですが、でもこの訳者がもう少しギターに詳しく、タレガとソルの関係などを知っていたらこうした間違いも起こりにくかったでしょうね。

 また語学的にみても”Mazuruca en Sol”が「ソルへのマズルカ」とはなりにくいと思いますが、どうやらこの訳者には、この曲は「タレガが同国の大先輩、フェルナンド・ソルにささげた曲」という強い思い込みがあったようです。でも本当にそんな曲が発見されれば嬉しいですね。


この日本語のオビなかなか面白いのですが

 この添えられた日本語のオビには他にも面白いことがいろいろあるのですが、その話はまた後にしましょう。このオビを作るのもなかなかたいへんだろうと思います、特にクラシック・ギターなどというマニアックな世界では。過去から現在にいたるまで、クラシック・ギターについて相当詳しくないと書けないでしょうし。



多くの人に受け入れられる演奏では

 話がそれてしまいましたが、このニルセ・ゴンザレスのCD、最初に聴いた感じでは、あまり際立った特徴が感じとれなかったのですが、何度か聴いているうちになかなかすばらしい演奏ではないかと思うようになりました。強烈に自己アピールするタイプでも、また曲の解釈の独自性を強調するわけでもないのですが、何度も書いたとおり音楽がとても自然で、またたいへんギターらしい音で、聴いていて和みます。おそらく多くの聴衆に受け入れられる演奏ではないでしょうか。
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