中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

 このカテゴリもしばらく休みになってしまいましたが、そろそろ再開しましょう。予定ではこのCDを含めてあと3枚紹介しようと思っています。




Goran Krivokapic   セルビア出身 2004年GFA優勝


新進演奏家 012


フランツ・ヴェルトミュラー : ソナタイ長調作品17
J.S.バッハ : ソナタ第3番ハ長調BWV1005(無伴奏ヴァイオリンのための)
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタK.162、K.208、K209
デュシャン・ボグダノヴィッチ : ギターのためのソナタ第2番


 今回のCDは2005年の4月に録音された、セルビアのベオグラード出身のギタリスト、ゴラン・クリヴォカピッチのものです。クリヴォカピッチは1979年生まれということで今年で32歳になりますが、東ヨーロッパ諸国からは優れたギタリストが多数現れています。

 これまで紹介したCDは、バッハの作品を除けばほとんどギターのオリジナル作品でプログラムが構成されていました。このシリーズのCDは実質上の国際デビューということもあって、そうした形になっているのではないかと思いますが、そうした中にあって、珍しくこのクリヴォカピッチのCDは編曲作品が多くなっており、最後のボグダノヴィッチの「ソナタ」を除いてすべて編曲作品となっています。



ヴェルトミュラーのソナタ = 聞いたことのない作曲家だが

 最初の曲はヴェルトミュラーの「ソナタ」ですが、ヴェルトミュラー(1769~1841)はベートーヴェンと同世代の作曲家で、名前からすればオーストリア生まれと思われますが、残念ながら詳しいことはわかりません。ギターへのアレンジは演奏者自身のものではなく、19世紀のオーストリアのギタリスト、Franz Pfeiferのものとなっています。

 この曲は3つの楽章合わせて13分ほどの、おそらくピアノのためのソナタと思われますが、大曲というより、どちらかと言えば練習曲的なソナタのようです。ただしこれをギターで弾くとなると、結構難しい曲になるのではと思います。第1楽章は3分ほどで、音形は当時音楽によくある感じですが、展開部は調がいろいろ変えられています。再現部は型どおりには再現されず、かなり変化しています。雰囲気としては同時代の作曲家(兼出版業者)のアントン・デアヴェリの曲を連想させます。


バッハの「ソナタ第3番」は2度目の登場

 次はバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調」ですが、この曲は4人目に紹介したフランスのギタリスト、ガブリエル・ビアンコも収録していました。この曲も最近の若いギタリストには人気があるようです。


全体に速め

 演奏時間はビアンコに比べると全体で3分ほど速くなっています。特に第1楽章の「アダージョ」はビアンコが4:21に対して、クリヴォカピッチは2:55と1分以上も速くなっていますが、ビアンコの演奏も決して遅いテンポではありません。多くのヴァイオリニストは4~5分くらいで演奏しており、イ・ムジチのメンバーだったフェリックス・アーヨは6分くらいかけていたように思います。

 この楽章は付点音符による音形がずっと続く曲で、「アダージョ」となっていますが、確かにテンポ設定の難しい曲でしょう。その「アダージョ」の指示に従って遅めのテンポをとると、確かに重厚な雰囲気は出るのですが、聴衆には集中と、場合によっては忍耐も要求することになります。その逆に、テンポを速めにとれば聴きやすくはなるが、重厚さや敬虔さのようなものは薄れてしまうでしょう。

 2曲目のフーガは長大なもので、聴く人に集中を要求する音楽と言えるかも知れません。クリヴォカピッチの演奏は速めのテンポで(7:55)、なおかつ音の「キレ」もよく、快適に聴けますが、同時にやや落ち着かない感じもします。

 第3楽章の「ラルゴ」は一般的な速さに近く、しっとりと歌わせています。第4楽章はビアンコより40秒ほど速く演奏演奏していますが、もともと速く演奏するように曲が出来ているせいか、違和感はありません。かなりの速さにもかかわらず、若干低音も追加していて、気持ちよく聴けます。



スカルラッティの演奏はすばらしい

 次にドメニコ・スカルラッテイのソナタを3曲弾いています。スカルラッテイのソナタは数百曲もあるので、当然知らない曲のほうが多いのですが、幸いにこの3曲はどこかで聴いたことのある曲です。とはいっても具体的にどこで聞いたかまでは覚えていないので、K番号(カークパトリック番号~かつてはL《ロンゴ》番号で表記されていた)を頼りに探してみました。

 1曲目のK162はアサド兄弟が二重奏で弾いていました。またホロヴィッツのCDにも収められています。5分を越えるやや長い曲で、「アンダンテ」とありますが、実際はゆっくりな部分と速い部分が交互に出てきます。クリヴォカピックの演奏は明るく、軽快な演奏といった感じですが、アサド兄弟の演奏は表情やテンポの変化に富む演奏になっています。


ギターでよく弾かれる曲~4度高く

 2曲目のK208はさらによく聴く曲で、ジョン・ウィリアムスが以前から弾いていましたが、バルエコやAttademo(ブリランテの25枚組)、さらに1970年代にブローウェルも録音していました。日本語のオビにはイ長調「Andante et cantabile」となっており(原文のほうには調名は記されていない)、確かに原曲はイ長調で、多くのギタリストはこれを1オクターブ下げる形で原調で弾いています。


 クリヴォカピッチの演奏は、他のギタリストの演奏に比べかなり音域が高い感じで、実際は二長調で弾いているようです。技術的には難しくなっていると思いますが、聴いた感じではすっきりと、美しい感じで、移調されてはいますが、原曲とのギャップもかえって少ないようです。また繰り返しの際に装飾をかなり加えているのも印象的です。

 K209のほうは前の208とセットになっているようで、この2曲を続けて演奏するギタリスト(ピアニストも?)が多いようです。こちらは「Allegro」で速い曲になっています。クリヴォカピッチの音はスカルラッティの音楽によく合っていて、ギターによるスカルラッティの演奏としてはかなり優れたものではないかと思います。


ボグダノヴィッチのソナタ

 最後はこのCD唯一のオリジナル作品として、同じベオグラード出身のデュシャン・ボグダノヴィッチの「ソナタ第2番」を演奏しています。この曲は河野智美さんも演奏していたでしょうか。

 4つの楽章からなりますが、全体的にメロディックというか音階的に聴こえます。またリズム的な要素は強いものの、対位法的、複旋律的でもあります。

 第1楽章はホ短調のように聴こえます。ホ短調と言っても本当の短調(旋律的短調)ではなく、自然短調というもので、モード・ミュージック的ともいえるかも知れません。他の楽章も特に、3,4楽章などはリズム的な要素は強いですが、いわゆる前衛的な作品ではなく、打楽器的な奏法などの特殊奏法もあまり使われてなく、旋律的、対位法的な処理が目立ちます。


同郷の作曲家への深い共感

 そういえばクリヴォカヴピッチの演奏は、特に最初のヴェルトミュラーの曲などでは明るく、軽快な演奏だったのですが、このボグダノヴィッチの曲では一転して陰影のの深い演奏になっているように感じます。オリジナルの作品のせいでしょうか、あるいは同郷の作曲家への深い共感がそうさせているのでしょうか。いずれにしてもまだまだいろいろな面を持っているギタリストかも知れません。

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