中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

Pablo Sainz Villegasu  2003年タレガ国際ギター・コンクール1位


新進演奏家 014


トゥリーナ : セビーリャ幻想曲、 タレガを讃えて
モレーノ・トロバ : ソナタ~幻想曲、 トリーハ、シグエンサ、 カスティーリャ組曲
ロドリーゴ : 小麦畑で、 祈りと踊り
ファリャ : ドビュッシー讃歌
ジェラルド : 幻想曲~カンタレスの間奏
セゴヴィア : 5つの逸話
タレガ : マリア(ガヴォット)


オール・スペイン

 新進演奏家シリーズもしばらくぶりになりましたが、今回は少し古くなって、2004年5月に録音されたパブロ・サインス・ビジェガスのCDの紹介です。ビジェガスは1977年スペイン生まれということで録音当時27歳、今年34歳になります。

 上の曲目リストでもわかるとおり、このCDはオール・スペイン物で、またかなり盛りだくさんの内容になっています。収録時間も他のCDは60分前後のものがほとんどだったのですが、このCDは75分余りとなっています。



キレのよいラスゲアード

 最初のトゥリーナの「セビーリャ幻想曲」の冒頭は、スペインのギタリストらしく切れのよいラスゲアードで、16分音符もきれいに16分音符になっています。また歌わせるところの音色は、とてもギターらしい美しい音になっていて、リズムのキレも、しっとりとした表情もどちらもたいへんよく出ています。

 また音階的な部分の音を、各音の余韻を重ねて弾いているのが特徴的で、そうしたことは他の曲でも行なっています。ピアノのペダルを使用したような効果を出しています。



なぜ埋もれてしまったのか、トロバの秘曲

モレーノ・トロバの「ソナタ~幻想曲」は世界初録音だそうで、私もこの曲の存在はこのCDで出会うまで知りませんでした。このCDの解説によれば、2001年にアンジェロ・ジラルディーノというギタリストがセゴヴィアの手書き譜の中から発見したそうです。

 この曲は3つの楽章からなる17分ほどの曲で、なかなか充実した曲だと思います。なぜこのような大曲が埋もれてしまったのかは不思議です。またなぜセゴヴィアはなぜこの曲を世に出さなかったのでしょうか。

 第1楽章は10分ほどあり、曲全体の比重が第1楽章に置かれているようです。この第1楽章に関する限りでは、他のトロバの曲のように明るく、軽快な感じはなく、また先のトゥリーナの曲のようにスペイン的な響きや、またフラメンコ的なリズムも聴かれません。どちらかと言えばシリアスな感じとか、文字通り幻想的といった感じの方が顕著です。

 第2楽章は1分半程の短い曲で、ユーモアのある感じ、第3楽章はロンドでスペイン的なリズムを感じる曲ということで、この二つの楽章はどちらもトロバらしい曲になっています。


トロバの音楽の魅力を十分に

 幻想曲に続いて「スペインの城」から2曲と「カスティーリャ組曲」を演奏しています。どちらもトロバの作品としてはよく演奏されるものです。「カスティーリャ組曲」はトロバの初期の作品で、セゴヴィアのSPにも録音されています。「スペインの城」は1960年代の作品で「トリーハ」の冒頭は山田耕作の「この道」に似ています。

 ビジェガスの演奏は張りのある音としっとりとした音を巧みに使い分け、トロバの音楽の魅力を十分に出しています。またテンポのとり方やリズムの刻み方も違和感なく自然に聴けます。



ロドリーゴの二つの作品~派手なパフォーマンスではないが

 次にロドリーゴの「小麦畑で」と「祈りと踊り」を演奏しています。「小麦畑で」は前述のように切れのよい音としっとりとした音を使い分けた演奏で、この曲の魅力を十分出していますが、派手なパフォーマンスは控え、真摯に作品と向かい合っている感じがします。

 「祈りと踊り」はマヌエル・ファリャを讃えた作品で、所々ファリャの作品が引用されています。またコンクールなどでもよく演奏され、若いギタリストが自らの技術と音楽性をアピールするための重要な曲にもなっています。また譜面は何通りかあるようで、私自身はアリリオ・ディアス版とホアキン・ロドリーゴ版を持っていますが、ビジェガスの演奏はそのどちらでもないようです。

 ビジェガスの演奏は的確な表現をしつつも、音量的にも音色的にもはみ出すことなく、清楚と言える演奏で好感が持てます。もちろん技術的にはかなり難しい曲ですが、そういったことを全く感じさせないなどということは、あらためて言うまでもないことでしょう。


ファリャとジェラルドの作品 

 次にマヌエル・ファリャの唯一のギター・オリジナル曲の「ドビュッシー賛」を演奏しています。もちろん先のロドリーゴの曲との関連でしょう。ドビュッシー → ファリャ → ロドリーゴ と言う構図なのでしょう。

 ロベルト・ジェラルドはスペイン生まれですが、ドイツ系スイス人の両親を持ち、グラナドス、ペドレル、シェーンベルクなどに音楽を学んだ作曲家だそうです。曲のほうはスペイン風というよりは、無調的な曲です。


セゴヴィアの作品、これも初演

 次にアンドレ・セゴヴィアの「5つの逸話」を演奏しています。この曲も世界初録音だそうで、確かに初めて聴く曲です。セゴヴィア自身でもあまり演奏はしていなかったのではと思います。それぞれ1~2分程度の短い曲で、トロバとポンセとテデスコを合わせたような曲、などというと、ちょっと安易な例えになってしまいますが、強いていえばテデスコの曲に一番近そうです。
 
 それぞれなかなかチャーミングな曲ですが、セゴヴィアの曲らしく、ギターのさまざまなニュアンスが表現できる曲、逆に言えばそうしなければよい音楽にならない曲といえるでしょう。ビジェガスの演奏を聴いていると、いつのまにかセゴヴィアが弾いているように錯覚してしまいます。ただし、かなり行儀のよいセゴヴィアですが。


何気なく弾いているが

 このシリーズではタレガ国際ギター・コンクールの優勝者は必ずタレガの曲をCDに収めることになっているようですが、このビジェガスは「マリーア(ガヴォット)」を選択しています。軽くさっと一筆書きにしたような演奏ですが、よく聴くとテンポの変化、音色、強弱などたいへん適切になっています。そうしたことがしっかりと身に付いたギタリストなのでしょう。
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