中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

Adriano Sel Sal  2009年タレガ国際ギタ・コンクール1位


新進演奏家 015


タレガ : アルボラーダ、アラビア風奇想曲、メヌエット、ゆりかご、ロシータ
ソル : 幻想曲作品7
モレーノ・トロバ : 特性的小品集
ロドリーゴ : 祈りと踊り
モリコーネ : ガブリエルのオーボエ


最新のCD~当ブログ最後の紹介

 いよいよ当ブログでの新進演奏家紹介の最後のCDです。このアドリアーノ・デル・サルのCDは2010年の8月に録音され、今年の2月に発売されたものです。2009年にタレガ国際ギター・コンクール優勝ということですから本来なら昨年に発売されるべきCDと思われますが、種々の理由で今年になったのでしょう。生まれた国、年などは記されていませんが、名前や学んだ学校などからすればイタリア人、おそらく30才前後くらいでしょうか。

 当ブログでは、このシリーズの最も古いものは1999年録音のアナ・ヴィドヴィッチ、そして一番新しいものはこの2010年録音のデル・サルのCDとなり、計14枚のCD、14人のギタリストを紹介しました。この期間だけとっても実際にはほぼ同数の、紹介できなかったCDが発売されていると考えられます。もちろんその中には優れたギタリストがたくさんいたに違いありませんが、とりあえずこのあたりで区切りをつけておきましょう。



オール・スペインのプログラム

 曲目は上記のとおり”ほぼ”オール・スペインで、最後の曲だけイタリア人の作曲家の作品となっています。タレガ国際ギター・コンクールの優勝者は必ずタレガの曲を録音することになっているらしいということは前にも書きました。その場合、ほとんどギタリストは小品を1~2曲程度、アンコール曲のような形でCDに収めていたのですが、このデル・サルは上記のようにタレガの曲を5曲まとめて演奏していて、演奏内容もそうした”いきさつ”だけでなく、かなり本格的に取り組んでいる印象があります。



イタリア人と言うと・・・・

 デル・サルの演奏は、一フレーズごと、あるいは一音ごとに音量や音色、テンポなどを考慮し、またコントロールして弾くような感じの演奏で、表情の変化や幅を出しています。かなり慎重で丁寧な演奏で、自らの感性や勢いで弾くタイプのギタリストからは最も距離のあるギタリストといえるでしょう。また表情のメリハリをきっちり付けて弾くのも特徴のようです。

 一般的にイタリア人というと、どちらかと言えば明るく大雑把な性格の人が多いように言われますが、こと音楽家に関しては、非常に几帳面なイタリア人も結構います。ピアニストのマウリッツィオ・ポリーニなどその典型的な人ですが、ギタリストではステファーノ・グロンドーナなどでしょうか。このデル・サルもそうしたタイプの音楽家かも知れません。



6分のアラビア風奇想曲

 「アラビア風奇想曲」は、ほぼ6分かけて演奏していて、かなり遅い演奏です。冒頭のスラーのパッセージも一音一音をしっかりと吟味しながら発音し、1回目と2回目のニュアンスも変えて弾いています。全体的にも各フレーズを一つずつ練り上げるように演奏していて、表情豊かとも言えますが、ここまでくると一種のストイックさすら感じられます。ほぼ4分で、小気味よく弾いているアナ・ヴィドヴィッチの演奏とは全く対照的な演奏と言えるでしょう。



幻想曲作品7~あまり全曲演奏されないが

 ソルの「幻想曲作品7」はハ短調の「ラルゴ・ノン・タント」とハ長調の「主題と変奏」からなる20分弱の曲で、たいへん優れた曲ですが、その長さが禍してか、同じ幻想曲でも「第6幻想曲作品30」や「悲歌風幻想曲」などに比べると演奏される機会が少なくなっています。ジュリアン・ブリームは前半の「ラルゴ・ノン・タント」に「メヌエット」や「ロンド」などのソルの別の作品を組み合わせて演奏していて、以後そのような形で演奏するギタリストも多くなりましたが、あまりよい習慣とはいえないでしょう。



モーツアルトの幻想曲ハ短調を彷彿させる

 デル・サルのこの曲の演奏はすばらしく、このCDの中では出色の曲ではないかと思います。「ラルゴ」においては前述のごとく一つ一つのフレーズ、あるいは一音一音に、細心の注意でアーテキュレーション、音量バランス、音色の変化を施していて、この曲を変化に富む、内容豊かな曲にしています。この「ラルゴ」を聴いていると、モーツアルトの傑作「幻想曲ハ短調k475」が彷彿されます。



ただ音楽だけが聴こえてくる

 また「主題と変奏」は10分以上かかる曲で、ともすれば聴いている人が途中で飽きたり、集中を欠いたりしてしまいそうな曲ですが、このデル・サルの演奏ではそうしたことを全く感じさせず、最後まで集中と好奇心をもって聴くことが出来ます。この演奏を聴いていると、ギターの演奏を聴いているというより室内楽かピアノの演奏を聴いているような感じになります。あるいは楽器の音が聴こえてくるではなく、ただ音楽が聴こえてくるといった感じでしょうか。

 細かいことですが、「主題と変奏」の第5変奏は「etouffez」と書かれており、この変奏全体をこの奏法で弾くことが指示されています。ソルが教本の中で言っているように”左手で軽く押さえる”弾き方ではこの変奏全体を演奏することは出来ないのは明らかです。デル・サルはいわゆる「ピッチカート奏法」で、しかもごくわずかミュートする感じで弾いています。妥当なところだと思います。



特性的小品集

 モレーノ・トロバの「特性的小品集」は「前奏曲」、「オリベラス」、「メロディア」、「ロス・マヨス」、「アラーダ」、「パノラマ」の6曲からなり、1930年頃の作品です。デル・サルの演奏は前述のとおりですが、「前奏曲」は”13の和音”から始まるのでしょうか、印象派的な響きです。「メロディア」はトレモロ奏法の曲ですが、デル・サルの音はトレモロの音でも通常の弾き方と同じような充実した音質です。低音もよく歌っていて、まさに2声の曲となっています。「パノラマ」では1、2曲目が回想されます。

 楽器は「マティアス・ダマン使用」と記されていますが、重厚でふくよか、さらに甘い響きもします。同じ杉の楽器でもスモールマンなどに比べると、ボリューム感などは同じですが、いっそうまろやかで、音色の変化の幅も大きいようです。デル・サルの演奏を聴いている限りでは、たいへんすばらしい楽器に思えます。


重厚で彫りの深いロドリーゴ

 ロドリーゴの「祈りと踊り」は前回のビジェガスに引き続いてということになりますが、デル・サルのほうはCDのほうに「ホアキン・ロドリーゴ版使用」とかいてあり、もちろんその譜面に忠実に演奏していますが、ごく一部分オクターブの変更を行なっています(妥当性のあるもの)。

 ビジェガスに比べると、デル・サルの演奏はこれまで書いたとおり、強弱の変化や音色、テンポの変化など大きくとった演奏です。また音質も音楽自体も重厚さが感じられ、いっそう彫りの深い演奏となっています。



最後のスイーツ

 最後にイタリアの作曲家のモリコーネの映画(The Mission)のための曲をギターにアレンジした「ガブリエルのオーボエ」を演奏しています。こちらはあまり気負わずさらりと美しく弾いています。濃厚な食事をした後なのでちょうどよいデザートとなっています。
 
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