中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

久々の東京国際、ラルースが出るというので

 今日(11月20日)、大手町(東京都中央区)日経ホールで行なわれた第54回東京国際ギター・コンクールを聴きに行きました。このところずっと、この東京国際をはじめ、東京で行なわれるコンクールには行っていませんでしたが、一週間ほど前、当ブログの「ナクソス新進演奏家シリーズ」で紹介し、なお且つ私が勝手にベスト1に選んだフランスの若手ギタリストのフローリアン・ラルースが出場するというので、急遽行くことにしました。

 予選通過者を確認しないで出かけてしまったので、ラルースが予選通過したかどうかは受付でプログラムを受け取るまでわからなかったのですが、3番目の得点で通過していました。無駄足にならなくてよかったです。



結果を聞かずに帰ってしまいまったが

 本選審査は課題曲の「エキノクス(武満徹)」の他、3つの時代(ルネサンス、バロック期の作品、 1750~1920年の作品、 1920年以降の作品)の作品を20~30分の範囲で演奏するといったもので、一人当たりの演奏時間は40分弱といったところです。最近は演奏時間も長くなったようですね、それを6人が演奏するわけですから、時間的に言えば通常のリサイタル3つ分くらいに当たります。

 審査結果を聞かずに帰ってしまったので、今現在、つまりこれを書いている時点ではどういった結果になったのかわかリません。もっともインターネットで調べればどこかに結果が出ているかも知れませんが、この際その結果を見ずにレポートしてしまいましょう。



Andrey Parfinovicch(Russia) ちょっと軽め? ロドリーゴを好演

 さて、最初の演奏者はAndrey Parfinovicch(Russia)で、バッハの「プレリュードとアレグロ BWV998」から始まりました。「プレリュード」はやや軽めだが、清楚な音で、バスの動きや和声にも十分気を配った演奏です。後半の一部分をかなりテンポを速めて弾いていましたが、ここは装飾的な部分と考えたのでしょうか。「アレグロ」は速めのテンポで演奏していて、ミスなどはあまりありませんが、音色のコントロールまでは気を配れていなかったようです。

 次にアグアードの「序奏とロンド作品2-3」を演奏しました。音の細さが若干気になりましたが、低音のメロディはよく歌っていました。全体に強弱の変化はかなりあり、音色の変化も多少あるのですが、全曲ほぼイン・テンポで、テンポやタイミングのコントロールで音楽を作ってゆくタイプではなさそうです。

 課題曲になっている武満徹の「エキノクス」は、武満独特の音楽世界、音響世界でいろいろな意味で難しい曲だと思います。Parfinovicchの演奏は一音一音はクリヤーに弾いているのですが、曲のイメージがイマイチ伝わりにくい演奏だったかなと思いました。Parfinovicchの「エキノクス」については他のギタリストの演奏聴いてからでないと判断出来ないかなと思いました。

 最後に演奏されたロドリーゴの「ソナタ・ジョコーサ」はそれまでの曲とだいぶ違った印象です。リズムにも柔軟性があり、また音色も変化に富んでいます。何といっても楽しそうに弾いています。今日演奏した中では最もこのギタリストと相性のよい曲だと思いました。



小暮浩史 ~エレガンスな演奏

 2番目は昨年のスペイン・ギター・コンクールでも1位をとっている小暮浩史さんです。「エキノクス」から演奏を始めましたが、前のParfinovicchに比べると”粘り気”のある音色で、若干不明瞭な音はあっても、音楽全体としてはむしろわかりやすい感じです。奥行きも感じられ、いっそう武満らしい音楽になっています。

 ムダラの「パヴァーヌとガリヤルド」はたいへんエレガンスな演奏で、カポタスト(2フレット)使用にもかかわらず柔らかく美しい音です。パガニーニの二つのソナタ(Op.3-1、3-6)では一転して明るく溌剌とした音で、またかなり速めのテンポ演奏していました。欲を言えば、パガニーニらしい”何か”が付け加わればさらによかったかなと思いました。

 次にブローウェルの「円柱の都市」が演奏されました。音色や音量の対比が際立つ、ブローウェルの作品らしい演奏でした。最後はピアソラの「チキリン・デ・バチン」でしっとりと演奏を終えました。



Oegmundur Thor Johannesson(Iceland) 余韻に酔いしれ?

 休憩を挟んで、3番目はOegmundur Thor Johannesson(Iceland)です。「エキノクス」から演奏を始めました。今日3回目の武満ですが、こうして聴いてみると武満の音楽は独自性のたいへん強いものだと感じました。武満の音楽は”響き”と言うものに力点が置かれているように思いますが、その響きは西洋音楽の”和声”とは全く違ったものに感じられます。和声の場合は基本的に「旋律の重なり」で、一つのところに留まることはなく、常に流れてゆくものなのでしょう。つまり西洋音楽的には音楽の主体は旋律であって、和声はその副産物的に出現するものかも知れません。しかし武満の”響き”は、それそのものが音楽の主体で、進んでゆくことの方が副次的なものかも知れません。

 話がそれてしまいましたが”余韻の楽器”と言われるギターには、武満の音楽がたいへんよく合う気がします。Johannessonの武満の演奏も、そのギターの響きをたいへん重じた演奏で、確かに「幽玄の世界」といったものを感じさせる演奏でした。

 次のフランチェスコ・ダ・ミラノの二つのファンタジアは、かなりの弱音で始められました。こちらは基本的に「線的」な音楽だと思うのですが、むしろ響きの方を重要視した感じに聴こえます。ヴェルトミュラーの「ソナタ作品17より」はナクソス・シリーズで確かクリヴォカピックも演奏していた曲だと思いますが、Johannessonの演奏には、やはり弱音を好む傾向があるようです。明暗の対比などはよく出ています。

 ゲルハルトの「ファンタジア」は同じ現代物でも、こちらは力強く(アポヤンド奏法使用?)、また対比もくっきりと付けながら演奏していました。これまでの演奏傾向からして、このギタリストがダンジェロの「二つのリデイア調の歌」(ラルースの弾く)を演奏曲目に選ぶのは納得がゆきます。確かにこのギタリストは余韻をたいへん重んじる傾向がるのだと思います。たいへん美しい演奏ですが、何かもう一つ何かが足りない・・・・ やはり次のラルースの演奏を聴いてみないと何とも言えないでしょう。最後の和音を弾いた後立ち上がるまでかなりの間(10~20秒くらい)をとっていました。



Florian Larousse ~ちょっと譜忘れ? でも共感度は高い 日本ツアーを逃したかも

 さて、いよいよフローリアン・ラルースの登場です。金髪で、遠めに見る感じでは、車椅子の天才物理学者、スティーブン・ホーキング博士に似ている感じもします。ブリッジを取り巻くように楕円形の縁取り様なものがある珍しいボディのギターを手にしています。ダウランドの「ファーウェル」から演奏を始めましたが、やはりたいへん美しい音です。CDでは少し硬質な感じもありましたが、こうして生で聴いてみると柔らかくてたいへん美しい音です。そういえばこの会場(日経ホール)はわりとクセの少ないホールのようです。

 しばらく聴き入っていると、おや? 様子がおかしい、どうやら譜忘れをしてしまったようです。また最初に戻ってしまいました。その後は問題なく弾いていましたが、やはり動揺はあったでしょう。次はナクソスのCDのも入れている「二つのリディア調の歌」で、おそらく得意曲でしょう。やはり前のJohannessonの演奏とはイメージの膨らみも奥行きも違うように感じます。

 CDの紹介の時には「来世から聴こえてく音楽」と例えましたが、こうして目の前で聴くと、もっと人間臭いというか、「現世の音楽」といった感じがします。CDでは全体にクールな感じに聴こえるのですが、生ではもっと熱い演奏に聴こえます。よく聴くとヴィヴラートのかけ方が私自身のもとちょっと近い(私を引き合いに出してはいけませんが)感じがします。確かに私には共感度が高いはずです。

 レゴンディの「序奏とカプリース」もたいへんラルースに合う曲だと思います。やはり色気というかセクシーさ(同じ意味だが)が感じられます。カプリースの方はCDに比べるとかなり速く演奏していました。確かに指もよく動いていて、テクニックのあるところは見せているのですが、表現の方はCDに比べ、かえって狭められてしまっているようにも思えます。これも最初の”つまずき”のせいでしょうか。

 ラルースはキャリア的に見れば出場者の中でダントツなのですが、もしかしたら今回は1位を逃してしまったかなとも思えます。1位になれば来年日本でツアーを行なうことになるのですが、実現は難しいかも知れません。しかし改めて、私にとっては、ラルースが好みのギタリストであることを確認出来ました。今回の結果にかかわらず(前述のとおり結果はまだ知らないので)21世紀を代表するギタリストの一人であることには間違いないでしょう。


藤元高輝 ~意思の強そうなギタリスト、バッハを好演 1位かな?

 5番目に演奏予定だったAndres Campanario(spain)は欠場とのことで、最後の演奏者は藤元高輝さんです。藤元さんはまだ10代で、私も小学生の頃その演奏を聴いたことがあります。またテレビにも出演していました。「エキノクス」から演奏を始めましたが、しっかりした演奏ながら、音楽の奥行きとか武満らしさはあまり感じ取れません。

 しかし次のバッハの「アダージョとフーガ BWV1005」になると、”水を得た魚”というか、文字通り”地に足の付いた”演奏といった感じでバッハの音楽をしっかりと構築しています。どうやらこのギタリストは感性よりも知性で音楽に臨むタイプのようです。バッハの音楽のように対位法や和声法でしっかりと裏付けられた音楽には滅法強いようです。もちろん技術も完璧です。

 次にラルースも弾いた「序奏とカプリース」で、たいへん整った演奏です。色香のようなものをこのギタリストに臨むのは見当はずれで、このギタリストはマジシャンのように何もない箱から鳩や花を出すようなことはしないでしょう。

 最後はヘンツェの「王宮の音楽より」でしたが、こちらは音楽そのものにいろいろ変化や対比が付けられていて、武満の音楽よりはずっと弾きやすそうに弾いていました。パーカッションの部分もなかなか面白く聴こえてきました。

 それにしても藤元さんはたいへん意思の強そうなギタリストです。すべての曲でミスらしいミスもなく、自分の指もメンタルも完全にコントロールしているような感じです。しいて言えばマウリツィオ・ポリーニのような音楽家といえるでしょうか。いろいろな意味でラルースとは対極的なギタリストと言えるでしょう。1位は十分にあり得るかな?
 
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