中村俊三 ブログ

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バッハ : シャコンヌ 4


 ではこの曲を最初から見てゆきます。話はオリジナルのバイオリンの譜面(音楽の友社)でしますが、ギターの編曲譜でも大丈夫だと思います。なお以下は一般論というより、私の個人的考えと理解して下さい。




<第1部 0~131小節>



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バッハのシャコンヌの冒頭部分、一つの変奏は4小節とも、8小節とも考えられる。 このように2拍目から始まるシャコンヌは決して多くはない。


アウフタクト

 冒頭のテーマは2拍目から始まるアウフタクト(不完全小節)となっています。 前述のとおりあまりたくさんのシャコンヌを知らないので、こうした始まりがシャコンヌとして一般的なのかどうかわかりませんが、.S.L.ヴァイスのシャコンヌをはじめ、 ヘンリー・パーセル、 ロベルト・ド・ヴィゼー、 コルベッタなどのシャコンヌを聴いた限りでは、2拍目から始まるものはないようです。

 シャコンヌが一般的にアウフタクトで始まるかどうかということについては、音楽辞典などには書いてありませんが、他の少ない例からすれば1拍目から始まるのが最も普通のようです。 場合によって8部音符などのアウフタクトが付くのではないかと思います。 

 少なくとも、このバッハのシャコンヌにおける2拍目からの開始は、一般的な習慣に従ってというより、バッハが何らかの意図、あるいは理由があってこの開始を採用したのではないかと思います。




ヴァイスは同じ和音が2小節続くのを嫌って、一つの変奏を7小節とした

 まずそのことの一つとして考えられるのは「小節数」ではないかと思います。 ヴァイスのシャコンヌはアウフタクトを持たず、1拍目から始まりますが、テーマおよび各変奏はは7小節で出来ていて、最後の変奏だけ終始の小節が付き、8小節になっています。

 各変奏を8小節にしなかった理由は、おそらく、8小節にすると次の変奏に移る時、前の変奏の最後の小節と、次の変奏の最初の小節は、それぞれ主和音になると思いますが、そうすると同じ和音が2小節続くことになります。

 ヴァイスの場合はそれを嫌って各変奏の8小節目になるはずの小節を省略し、各変奏の終止の小節が、次の変奏の最初の小節になるようにしたものと思います。


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ヴァイスのシャコンヌの冒頭部分、 1拍目から始まっている。 前の変奏の最後の小節が後続の変奏の最初の小節を兼ねるために、一つの変奏が7小節となっている。



バッハは4の累乗数にこだわった

 バッハという人は、数にはたいへんこだわる作曲家で、バッハのシャコンヌは、8×32=256小節と、4の累乗数になっています。バッハにとって音楽と数というのは何かとても神聖な関係があって、重要な作品はこうした小節数になならければならないという考えがあったのかも知れません。

 バッハのシャコンヌではアウフタクトを用いることより、巧みに同じ和音が2小節続かないようにすることも、全体を4の倍数の小節で構成することも実現されています。




いきなり

 もっとも小節数の問題は他にも解決方法があるでしょうから、この理由は仮にあったとしても付随的なものと思われ、他にもう少し大きな理由があるのではないかと思います。

 和声的に見てみると、最初の不完全小節は常識どおり下から「レ、ファ、ラ」の主和音となっていますが、次の小節(1小節目)の1拍目は「レ、ソ、シ♭、ミ」という不協和和音になっています。

 これは「レ、ソ、シ♭」のⅣの和音に6度の音の「ミ」を加えたもので(コード・ネームで言えばGm6)、ありえなくはないですが、「増4度」や「9度」の音程を含み、不協和度の強いものです。

 普通こうした不協和音に進むためにはなんらかの準備をしますが、なんの準備もないばかりか、「ラ」からいきなり「ミ」まで5度跳躍になっています。


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1小節目の1拍目の和音(〇印)はコード・ネームで言えばGm6だが、7度や減5度などの不協和音程を含み、緊張度の高い和音となっている。 この緊張感をいっそう強くするために2拍目から始まるのではと考えられる。




最初の小節の1拍目が最も緊張感が高い

 つまりこの1小節目の1拍目に和声上に強いアクセントが付き、このテーマの中では最も緊張感の高いところになっています。 この曲を聴く人はこの冒頭の部分を聴いただけでも何か 「凄そうな曲」 とか 「ただならぬ曲」 といった印象を受けると思います。

 バッハは冒頭から聴く人を自分の世界に引き寄せることを狙ったのでしょう。 バッハはこの和声上のインパクトをリズムの上からも支えるべく、このような不完全小節を採用したのではないかと思います。

 不完全小節の最後に置かれた8分音符も次の小節の1拍目に力点が置かれることに役立っているのもまた確かでしょう。 もっともこの8部音符はしばしば16分音符として演奏されますが、次の小節のインパクト度を増すためには有効でしょう。



どちらにしても

 以上のことは本当のバッハ自身の考えにどれだけ近いかはわかりませんが(相当遠いかも知れません)、バッハの作曲の仕方に 「なんとなく」 というのはなく、それぞれに意味があるのは確かでしょう。 またこの曲の冒頭を聴いただけでも「偉大な音楽」と感じられるのも確かでしょう。





0~23小節

 1小節目のところだけでもたいへん時間がかかってしまいました。 この調子で行ったらいつになっても最後まで行き着きません、以下手身近に話を進めましょう。

 4小節+4小節=8小節のテーマのあと、「第1変奏」と言いたいところですが、この表現はあいまいなので小節数で言いましょう。 

 8~15小節これは文字通りテーマの変奏で、テーマのリズムや和声などを大体残していて、さきほどの「レ、ソ、シ♭、ミ」の和音の他に 「レ、ファ、ラ、ミ」 という不協和音も出てきます。

 これは正式な和音ではなく「非和声音」を含む和音ということでしょうが、「長7度」つまり半音違いの音を含む、かなり不協和度の強い和音ですが、付点音符で刻まれるテノール声部の旋律と合わせて、曲の「威厳」とか「偉大さ」を演出しているように感じます。

 なお和音に「ミ」が加えられているのは「ミ」が開放弦になっている(ヴァイオリンの場合でも)こともあるでしょう。  次の8小節(16~23)も前の変奏の声部を入れ替えたような感じで、ここまでは大体ひとまとまりになっていて、冒頭の威厳に満ちた部分を構成しています。



24~47小節

 次の24小節目からは一転し、音楽は柔らかく、流動的になってきます。 明らかに前の部分の対比になっています。 リズムの要素はなくなり、低音だけがテーマから受け継がれます。

 上声部は8分音符や16分音符で流動的な感じになり、8小節単位という感じはまだ若干ありますが、後半の4小節は前半の4小節の「変奏」あるいは「装飾」といった感じになり、4小節単位といった感じも出てきます。

 また28~31小節では低音も省略気味になりますが、ギターへの編曲では付け加えている場合も多いでしょう。 32小節~39小節では低音が半音階的な動きに変更されています。

 「低音を主題に持つ変奏曲」といっても、その低音主題は多彩に変化していることが以下を見てゆくとよくわかります。 40~47小節では前半と後半の音階の上がり、下がりが反対になっています。

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