中村俊三 ブログ

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セゴヴィアのSP時代の録音


1928年5月15日

プレリュード(BWV999 バッハ)
アルマンド(リュート組曲第1番より バッハ)
フーガ(無伴奏Vnソナタ第1番 バッハ)
ファンダンギーリョ(カステーリャ組曲より モレーノ・トロバ)
プレリュード(モレーノ・トロバ




バッハのリュートのための曲を2曲録音

 セゴヴィアは初録音からちょうど1年後の1928年5月に上の5曲を録音しています。バッハのリュートのための曲が2曲録音されていますが、リュートのための作品はいつ頃からギターで演奏されるようになったのでしょうか。1900年頃完成された旧バッハ全集ではリュートのための作品は”認知”されず、現在バッハのリュートのための作品とされているものは”楽器不明の作品”として出版されていました。



今では当たり前だが、当時はどうだったのか?

 今日、これらのバッハのリュートのための作品をギターで弾くのは、ごく当たり前のことなのですが、この1920年代となると、だいぶ様子が違ってくるでしょう。おそらくこの時代では、これらの作品がギター用の譜面として市販されてはいなかったでしょう。セゴヴィアが演奏しているのは、セゴヴィア自身によるギターへの編曲ということですが、どのような譜面を基にして編曲したのでしょう。

 1921年に、ドイツのリュート研究者のハンス・D・ブルガーがバッハのリュートのための作品も楽譜を出版しています。これはリュート用の譜面なのですが、その譜面の前提となっているチューニングは、1弦から6弦まではギターと全く同じチューニングで、それに音階的に下る番外弦(開放弦として使用)が付いたもの、つまり”ギター的なチューニング”のリュートのための楽譜と言えます。



時代を先取りしていた

 セゴヴィアがこのブルガーの譜面を基にしたのか、あるいは旧バッハ全集の鍵盤譜をもとに編曲したのか、さらには別な譜面などが存在したのか・・・・・そうしたことはよくわかりませんが、少なくともこの時代にはこうしたバッハのリュートのための作品など知る人は決して多くはなかったのではないかと思われます。

 こうした点からもセゴヴィアが当時から深くて、広い音楽の知識を持っていたことを裏付けるものでしょう。セゴヴィアは常にアンテナを張り巡らし、最新の情報を追い求めていたのでしょう。今日ではギターでバッハの作品を弾く場合、これらのリュートのための作品が中心となっているわけですが、時代様式的にセゴヴィアのバッハの演奏には多少の問題があるとしても、時代を先取りしていたことは確かでしょう。

 

組曲全部を弾くことは念頭になかった

 「プレリュード」のほうはご存知のとおり原曲はハ短調で、セゴヴィアは「ニ短調」に移調して演奏しています
(例のごとく、回転数の関係によりそれより半音ほど高く聴こえる)。以後これが定着したのかも知れません。

 リュート組曲第1番の「アルマンド」のほうは、今日では原曲どおりホ短調で演奏されていますが、セゴヴィアはイ短調に上げて演奏しています。音域が高い分だけ華やかに聴こえますが、技術的にはやや難しくなります。

 1949年には同じ組曲の中から「サラバンド」と「ブーレ」を演奏していますが、こちらは原曲どおりホ短調となっています。この組曲を全曲続けて演奏するということはあまり念頭にはなかったのでしょう。

 「フーガ」の方は「リュート版」ではなく、無伴奏ヴァイオリン・ソナタの方からの編曲です。タレガのアレンジを参考にしているかも知れませんが、グリサンドなどは一切省いており、細部も異なります。



トロバの「プレリュード」って?

 カスティーリャ組曲の「ファンダンギーリョ」もおそらく作曲されて間もない頃なのでしょう。「プレリュード」のほうはなかなか良い曲なのですが、LP時代では録音されず、また楽譜もあまり出回らず(私が持っていないだけ?)、やや”埋もれた”曲となってしまっているようです(これも私が知らないだけ?)。単独の曲なのか、組曲などに属するのかもよくわかりません。





1930年 10月6~7日

 組曲イ短調 (発表時にはヴァイス作曲、実際にはマヌエル・ポンセの作曲) 
  プレリュード&アルマンド
  サラバンド
  ガヴォット
  ジーグ      

 セレナータ(マラッツ)
 夜想曲(モレーノ・トロバ)
 ソナタ第3番第1楽章(ポンセ)
 ポストリュード(ポンセ)
 スペインのフォリアによる変奏曲(ポンセ) 
 



獅子奮迅の活躍

 1929年には前述のとおり、来日しており、前回の録音の2年
後に以上の曲を録音しています。1929年は日本以外にも各地で積極的にコンサートを行ったのでしょう。この時代のセゴヴィアは、リサイタルにレコーディング、新しいレパートリーの開拓に、様々な曲の編曲と、まさにバイタリティ溢れる、獅子奮迅の活躍といった印象です。



ポンセの曲を中心に録音

 この年の録音の特徴と言えば、セゴビアにとって生涯の盟友というべきマヌエル・ポンセの作品の録音でしょう。ポンセの作品と言えばリョベットも録音していますから、その関係を師から受け継いだものなのでしょうか。



ポンセが作曲した「ヴァイス作曲『組曲イ短調』」

 まず「組曲イ短調」ですが、これもご存知のとおり、バロック時代のドイツのリューテスト、レオポルド・シリビウス・ヴァイスの作曲として発表されました。一般にはポンセ作品であることが知られるようになってからも、セゴヴィアは「ヴァイス作」としてプログラムに載せています。

 同様にポンセが「ヴァイス」の名で世に出した作品は、もう一つの組曲である「組曲二長調」の他、プレリュードホ長調、「バレー」などがあります。これらの作品は確かにバロック風ですが、ヴァイス風とは言えないでしょう。今現在なら怪しむ人もいるでしょうが、発表当時はヴァイスを知る人など、そう多くはなかったでしょう。



ヴァイスの名で演奏したポンセの作品は出版していない

 セゴヴィアはポンセのギターのための作品を多く出版していますが、これらの「ヴァイス作」とした作品は出版していません。またポンセはギターの作品の扱い(出版などの)はすべてセゴヴィアに任せていたようです。従って、今日出版されているこれらの作品はほとんどの場合セゴヴィアの演奏をもとにしていると思われます。


本物の偽者を組み合わせて

 セゴヴィアは一つの組曲やソナタを全曲通して演奏したり、録音したりすることは、少なくともこの時期ではあまりありませんが、この「イ短調組曲」は、この時期としては珍しく全曲録音しています。そうした意味でもセゴヴィアはこの組曲には思い入れが深いようです。ただしリサイタルなどでは全曲とおして演奏することはなく、主に「プレリュードホ長調」などの他の同様のポンセ作品や、時には”本物の”ヴァイスの作品などと組み合わせて演奏しています。


会社としては冒険?

 「スペインのフォリアによる変奏曲」(以前、ドキュメント・レーヴェルの10枚組には入っていないと言ってしまったかも知れませんが、ちゃんと入っています)は、完全な形で演奏すると20数分はかかる大曲ですが、セゴヴィアは変奏の数を半分ほどにして14:35で演奏しています。これでも当時のSP盤では裏表2枚は必要となるでしょう。

 新作でもあり、コアな内容の曲とも言え、レコード会社としては冒険だったと思いますが、セゴヴィアはこの時には、すでにどんな曲でも売れるギタリストになっていたのでしょう。あるいはセゴヴィアの強い意志があったのでしょうか。LP時代になってからのセゴヴィアによる再録はなく、貴重な録音といえるでしょう。因みに現在ではジョン・ウィリアムス、 オスカー・ギリア、 ティモ・コルホーネン、 山下和仁などのギタリストがこの曲の全曲録音をしています。


人気曲

 マラッツの「スペイン・セレナード」は、おそらく当時から、また現在でもクラシック・ギターの人気曲となっています。セゴヴィアも1950年代に再録もしていて、セゴヴィアの演奏の中でも特に人気の高い曲と言えます。私も学生時代によく聴きました。基本的にはタレガ編ですが、それを若干手直しして演奏しています。


 
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