中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

アンドレス・セゴヴィア・シャコンヌ  1954年録音

J.S.バッハ : プレリュード(リュートのための小プレリュードBWV999)
         ガヴォット(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番)
         シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番)
         ルール(実際は無伴奏チェロ組曲第3番のブレー)

F.ソル : メヌエットハ長調(ソナタ作品22の第3楽章)
      アンダンティーノ(6つの喜遊曲作品2第3曲、二短調)
      メヌエット二長調(12のメヌエット作品11第5曲、二長調)

F.メンデルスゾーン : カンツネッタ(弦楽四重奏ホ長調作品12より)

H.ヴィラ・ロボス : 前奏曲(5つの前奏曲集第3曲、イ短調)

J.ロドリーゴ : はるかなるサラバンド


縮IMGP0105



オリジナルどおりの復刻CDはない

 このLPは前回紹介した「プレイズ」とほぼ同じ頃録音されたものですが、このLP以後のものに関してはオリジナルどおりの曲順で復刻されたCDは現在発売されていません。私の場合は1980年代に各ジャンルや作曲家ごとに編集し直されたMCA盤で聴いていますが、このLPに含まれる曲は「オール・バッハ・プログラム」、「ロマンティック愛奏曲」など5枚のCDに分かれています。



現在はナクソス盤などで聴くしかない

 このMCA復刻CDシリーズは全部で17枚ありますが、現在入手不可能になっています。これから購入して聴く場合は、ナクソス盤で、1950年代の録音が10枚ほどのCDとなっていて、こちらを聴いていただくのがよいかも知れません。ただし、こちらもジャンルごとに再編集されており、このLPに収録された曲は複数のCD振り分けられています。

 また、一部の有名、あるいは人気曲については、いろいろなレーヴェルから多種の「ベスト・アルバム」が出ていて、特にシャコンヌなどはいろいろなCDで聴くことが出来ます。


まとまった内容のLPが多くなる

 小品集が主だったセゴヴィアのLPも、この頃からまとまった内容のものが多くなってきます。このLPもその一つで、バッハをメインにしたLPですが、後半(B面)は古典派から近代にかけての様々な作品となっています。セゴヴィアのLPはすべてを一つのテーマ、あるいは一人の作曲家の作品で埋めるというより、半分だけ、あるいは半分ずつといったことが多いようです。

 タイトルにもあるとおり、前半はシャコンヌを中心としたバッハの作品となっています。プレリュードとガヴォットはどちらも3度目となりますが、テンポなど基本的なところは以前のものと大きな違いはありません。もちろん音質は以前のものに比べて格段によくなり、編集作業なども丁寧に行われている様子も窺われます。



前の録音より若干遅くなったが、完成度はこちらのほうが上か

 シャコンヌはセゴヴィアの代名詞とも言える作品で、このシャコンヌの演奏によりセゴヴィアはギター界に留まらず、一般の音楽界でもその地位を確立したと言えます。1949年に続き二度目の録音ですが、演奏時間では前回のものより1分半以上長くなっています。

 勢いや緊張感の高さなどから、1949年の録音の方を取る人もいますが、録音状態は1954年のほうがずっとよく、また音の美しさや全体の完成度(編集作業も含めた)などから言っても、やはりこの1954年のものに軍配はあがるでしょう。



出だしは意外と大人しいが、アルペジオに向かう盛り上がりは聴きどころ

 冒頭のテーマは以外とイン・テンポで演奏され、ほとんどルバートがありません。セゴヴィアにしては端正と言ってもよい演奏かも知れません。続く付点8分音符と16分音符の組み合わせは、いつものとおり正確な長さでは弾かれませんが、音色、あるいは音色の変化のほうに強く意識がいっているのでしょう。

 曲が始まって4分ほどしてからの32分音符のスケールからアルペジオに至るところの盛り上がりは、やはりすばらしいものがあります。スケールはスラー奏法を適度に混ぜて弾いているのですが、スラー奏法による凹凸はほとんど感じられず、レガートにまたクリヤーに弾いていて、心地よく聴けます。。

 その後に続く長いアルペジオもたいへん美しく、これもクリヤーに、レガートに弾いています。またバスの流れもたいへん力強く感じられます。



ギターでのシャコンヌの名盤

 ニ長調となる中間部の16分音符の同音の連打では、均等に長さに演奏にないで、最初の音を長めにとっています。付点音符の嫌いな(?)セゴヴィアですが、ここでは逆に付点音符のように聴こえます。聴く人によっては違和感も感じるところかも知れませんが、セゴヴィアとしては何の変化も与えず4つの音は弾けなかったのでしょう。

 最後に現れるテーマをセゴヴィアは音の数を増やしてたっぷりと鳴らし、冒頭の部分との違いを際立たせています。最後に出てくる16分音符も低音弦を用いてたっぷりと弾いています。本来なら装飾的なパッセージなので、和声の流れを優先すべきところなのでしょうが、でも”こうでないと”セゴヴィアを聴いた気がしない? 全体を聴くと、当然のことながら、間違いなくギターにおけるシャコンヌの名演奏、名盤と言えるでしょう。



その”やばさ”で外されてしまった? ~ルール

 次の「ルール」は私の持っている1980年代のCDでは外されてしまって聴くことが出来ません(LPはあるが、再生装置をかたずけてしまった)。ナクソス盤や他のレーヴェルのバッハ・アルバムなどでは聴くことが出来ます。

 80年代のMCA盤から外されてしまった理由としては1961年に録音した「チェロ組曲第3番」全曲に同じ曲が収録されていると言う理由ではないかと思いますが、この「ルール」は若干”訳あり商品(小品?)”で、その”やばさ”からCDのほうに収録しなかったのではないかと思います。


タレガがルールの名で編曲した

 その”やばい”理由は皆さんもご存知かも知れませんが、この曲はもともと無伴奏チェロ組曲第3番の第4曲「ブレー」なのですが、なぜか「ルール」と言う曲名で録音されています。これはタレガがこの曲名で編曲し、1920年頃出版されたものをもとにセゴヴィアが演奏したからなのだと思います。



ルールとブレーはまるで違うのだが

 そのタレガがなぜこの曲をブレーでなくルールとして編曲したのかまったくわかりません。「ルール」とは音楽辞典で引くと、「①16,7世紀のバグ・パイプの呼び名。 ②17世紀の舞曲、4分の6拍子で付点のリズムを持ち、中庸なテンポ・・・・」となっています。どう聴いても、見ても(譜面を)このブーレとは結び付きません。

 ルールといえばリュート組曲第4番(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番)の第2楽章がこのルールとなっていますが(辞典にあるとおり4分の6拍子で、付点音符が目立つ曲)、この曲と取り違えられたともあまり考えられません。また仮に譜面の曲名が間違っていたとしても、録音の時に正しい曲名にすることも出来たはず?



バリオスもルールの名で録音

 セゴヴィアは当然その曲がチェロ組曲第3番のブレーであることは知っていたと思いますが、タレガの譜面を尊重したのでしょうか、その割にはLPに「タレガ編」とは表記されていません。因みにこの曲はバリオスも録音していますが、バリオスも曲名を「ルール」としています。一時期ギター界ではこの曲はルールの名で通っていたのでしょうか。


音域がかなり高く、演奏は難しいが、華やか

 そうしたことでこの曲が復刻CDから外されてしまったのかも知れませんが、その曲名のことを気にしなければ、これはこれでなかなかよい演奏、あるいは編曲です。最近これを聴いていないので記憶にたよるしかありませんが、この「ルール」は全曲版の方に録音されているブレーとはかなり違う感じがします。なんと言っても音域が高く、原曲はハ長調ですが、全曲版(デュアート編)はイ長調なのに対して、この「ルール」の方は二長調、つまり原曲からすると1オクターブ以上高くなっています。


シャコンヌの”シメ”として収録された?

 さらにセゴヴィアはこの曲をかなり速めのテンポで演奏していて、高い音域とあいまって、かなり華やかな演奏になっています(バリオスはややゆっくりめ)。おそらくセゴヴィアはシャコンヌの”シメ”としてこの曲をここに(前半の最後)置いたのではないかと思います。確かにシャコンヌの緊張感を開放させてくれる演奏だと思います。


この曲を外したのは80年代的発想か

 セゴヴィアとしてはこのバッハの4曲は一つの流れとして演奏、あるいは収録したのではないかと思いますので、やはりこの曲も省かず、なおかつこの曲順で復刻していただきたかったかなと思います。CDのトータル時間を見ても収録出来なかったわけではなさそうなので、この曲を外したのは、やはり1980年代的発想というべきなのでしょうか。


前半の曲だけで長くなってしまったが

 「ルール」の話で盛り上がり(勝手に)、話が長くなってしまったので、後半(B面)の曲の方はかいつまんで書きましょう。ソルの3曲(メヌエットハ長調作品22、アンダンティーノ二短調作品2の3、メヌエット二長調作品11の5)は軽快なメヌエット2曲に歌わせるアンダンティーノを挟む形で、これで一つのまとまりを示していると思います。それぞれ曲の特徴をよく出した演奏と言えます。


カンツォネッタも名演

 メンデルスゾーンの「カンツォネッタ」は弦楽四重奏曲(第12番)の中の1曲ですが、セゴヴィアの演奏した曲のなかでもたいへん人気のある曲で、現在でもよく演奏されます。学生の頃FM放送からセゴヴィアの弾くこの曲が流れてきて、感動した覚えがあります(当時はLPなど持っていなかった)。



ヴィラ・ロボスとロドリーゴの曲はバッハ因んで?

 次にヴィラ・ロボスの前奏曲集から第3番を収録していますが、この曲は当初「バッハへの賛歌」とされており、前半の関係で収録されているのでしょうか。

 ロドリーゴの「はるかなるサラバンド」は曲名どおり”大人しい”タイプの曲で、フラメンコ風というよりは懐古的な雰囲気となっています。解説によればビウェラ奏者のルイス・ミランをしのんで書かれたとありますが、ミランはサラバンドを1曲も作曲していないのでは? サラバンドは主にバロック時代に作曲されていたので、これも前半のバッハと関係があるのかも知れません。
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