中村俊三 ブログ

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ギターの巨匠アンドレス・セゴヴィア 1955年12月録音

F.ソル : 序奏とアレグロ
       メヌエットホ長調作品15-1、 イ長調作品11-6
       練習曲イ長調作品6-12、 ト長調作品29ー11、 ロ短調作品35-22、 イ長調作品6-6

F.タレガ : 華麗なる練習曲、 マリエッタ(マズルカ)、 前奏曲第2番、第5番、 マリーア(ガヴォット)、 マズルカト長調、 アラビア風奇想曲、 アランブラの想い出



ブログ 074


「ギターの巨匠」とはソル、タレガ、およびセゴヴィア自身

 「ギターの巨匠」というのは、フェルナンド・ソルとフランシスコ・タレガというスペインの2大ギタリスト兼作曲家を意味していますが、同時にセゴヴィア自身のことでもあるのでしょう。スペインのギター音楽を伝統を引き継ぐ、特にタレガの継承者であること自他共に認めるセゴヴィアですから、このアルバムは出るべくして出たアルバムといえます。


序奏とアレグロ(グラン・ソロ) ~多くのセゴヴィア・ファン、グランソロ・ファンを生み出した

 冒頭の「序奏とアレグロ(グラン・ソロ)」は、セゴヴィアの演奏した曲の中でも、当時たいへん人気のあったものと言えます。この演奏により多くのセゴヴィア・ファン、グラン・ソロ・ファンを生み出したのではないかと思います。


ジムロック版使用

 譜面のほうはジムロック版を使用しているとのことで、ヒューゲル版を基本としている現代ギター社版とは大きく異なります。私自身は実際にこのジムロック版を見たことがないので、どの程度セゴヴィアがこの版に忠実に弾いているかはよくわかりませんが、多少は手を加えて弾いているのではと思います。以前にはこのセゴヴィアの演奏に限りなく近い譜面が国内で販売されていて、山下和仁氏など、1980年頃まではその版で弾いている人が多くいました。


簡略化されている アグアード版はいっそう華麗

 この二つの版(ジムロック版のほうは推定ですが)で、最も異なるのが展開部で、ジムロック版ではかなり短くなっています。その他の部分についても、ジムロック版はヒューゲル版を簡略化した感じです。ヒューゲル版をさらに華麗に編曲したものがアグアード版で、最近ではそのアグアード版で弾く人も多くなりました。


曲のイメージに合った重厚な音

 この「グラン・ソロ」のセゴヴィアの演奏はやはりすばらしいもの。特にその音は曲の内容にふさわしい、クリヤーで重厚な音となっています。録音もモノラル録音とは言え、見事にセゴヴィアの音を捉えていて、この年代からすればかなりレヴェルの高い録音と言えます。


2つのメヌエット

 1曲目のメヌエットは、作品15-1の「スペインのフォリアによる変奏曲」のコーダにあたる部分で、本来は単独で演奏される曲ではないのでしょう。

 もう1曲のメヌエットは「12のメヌエット作品11」の「第6番イ長調」で、ソルのメヌエットの中ではたいへんよく演奏される曲です。セゴヴィアの演奏に影響受けた人の多くは、この曲をかなりルバート、あるいはテンポをデフォルメして演奏する傾向がありますが、よくこの演奏を聴いてみるとそれほど崩しているわけでもないようです。たしかにルバート等は使っていますが、セゴヴィアの演奏としてはすっきりしている方で、それほどは”ハメ”を外していないようです。


4つのエチュード ~かつては20のエチュード全曲を収めたLPが発売されていた?

 セゴヴィアは1945年に「ソル:20のエチュード」を出版したこともあって、ソルの練習曲は生涯に亘ってかなりの録音があります。この20のエチュードをすべて録音したかどうかはわかりませんが、ほとんどの曲は録音していると思います。記憶が交錯してしまっているかも知れませんが、かつてセゴヴィア演奏の「20のエチュード」全曲をまとめたLPが発売されていたような気がします。

 「作品31-22」はご存知の「月光」。

 「作品6-12」はイ長調、アンダンテでセゴヴィア番号14番。多声部的書法をとったメロディの美しい曲で、ソルの練習曲の中でも人気の高い曲です。

 「作品29-11」はト長調で、セゴヴィア番号17。なかなかの難曲ですが、セゴヴィアは爽快に弾いています。

 「作品6-6」はイ長調でセゴヴィア番号12。3度の和音で上行、下行を繰り返します。アレグレットの指示ですが、セゴヴィアはアレグロ、もしくはプレストといった感じで華麗に演奏しています。



タレガの作品9曲

 タレガの作品は、まず「アラールによる華麗なるエチュード」、そして「マリエッタ」、「前奏曲第2番」、「同第5番」、「マリーア」、「ト長調のマズルカ」、「アデリータ」と続き、最後は「アラビア風奇想曲」、「アランブラの想い出」となっています。

 これらのうち「華麗なるエチュード」は1935年に、「アランブラの想い出」は1927年に、「アラビア風奇想曲」は1970年代にも録音しています。「アランブラの想い出」は1927年のものに比べれば、音質は格段によくなっていて、演奏もずっとしなやかなものになっています。またリピート等の省略もなく完全に原曲どおりに弾いています。



これらの曲がタレガの代表作?

 私たちが何となく持っているタレガの作品のイメージとしては、まず代表的なものとして「アランブラの想い出」と「アラビア風奇想曲」、そして「マリーア」、「アデリータ」、「マリエッタ」などの小品、つまりこのLPに収録されている曲が、まさにタレガの代表作そのものといったものではないかと思います。



しかしタレガはこのような曲はリサイタルでは弾かなかった

 しかし以前お話したとおり、タレガ自身はこれらの曲をほとんどコンサートでは弾いてなく、少なくともこれらの曲をプログラムのメインにはしていなかったようです。

 「アラビア風奇想曲」はタレガの弟子たちもよく弾いていて、タレガの生存中から有名曲だったようですが、少なくとも「アラビア風奇想曲」としては自らのプログラムには載せていません。自作の「セレナータ」と言う曲がプログラムに載っていることがあり、その曲がこの「アラビア風奇想曲」であった可能性はあるようです。

 「アランブラの想い出」も「トレモロ練習曲」として演奏された可能性はありますが、本当に有名になったのはタレガの没後のようです。

 私たちがタレガの作品としてすぐに頭に浮かぶ「アデリータ」、「マリエッタ」などの小品は、基本的には生徒や一般愛好者のために書いた曲で、自らリサイタルで演奏することはタレガの念頭にはなかったようです。演奏したとしてもアンコール曲としてや、自宅などプライベートな場のみだったのではないかと思います。



タレガが頻繁に演奏したのは「グラン・ホタ」と「パガニーニの主題による変奏曲」および編曲作品

 タレガのリサイタルの曲目は、その残されたプログラムによれば、オリジナル曲として「グラン・ホタ」(曲名はそのつど変えていたようですが)と「パガニーニの主題による変奏曲」。他はほとんどショパンやシューマンなどの他の作曲家の作品の編曲作品となっています。


ここに収められた曲はセゴヴィアの愛奏曲 ~当たり前だけど

 つまり私たちが持っているタレガの代表作のイメージは20世紀半ばによく演奏されたタレガの曲、狭く言えばこのLPに収められた曲がタレガの代表作といったものになってしまっていますが、このLPに収められた曲は、あくまでセゴヴィアの愛奏曲であるのでしょう。


 
セゴヴィアはセゴヴィア?

 このLPでセゴヴィアは「アラビア風奇想曲」をかなりゆっくりめに、じっくりと歌うように弾いています。そうしたことから他のギタリストもセゴヴィアに近いテンポ、あるいはさらに遅いテンポで演奏する傾向があります(6分かけて弾くギタリストもいる)。

 しかし譜面のほうでは「アンダンティーノ」の指示があり、本来歌わせるだけでなく舞曲的な性質も持った曲ではないかと思います。おそらくタレガとしてはもう少し速いテンポを想定していたのではと思います。

 同様なことは「ト長調のマズルカ」にも言え、確かにタレガのマズルカは「アデリータ」や「マリエッタ」のように「レント」の指示があるものもありますが、この「ト長調のマズルカ」にはそういった指示はありません。テンポ指定がないとすれば、「マズルカ」である以上、ある程度の速さは必要になるのではと思います。

 もっともセゴヴィアが遅い曲を速く弾こうと、速い曲を遅く弾こうと、それは何の問題にもならないでしょう、それはセゴヴィアだからです。しかし私たちはセゴヴィアではないので、そういったことも十分考慮する必要はあるでしょう。


  
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