中村俊三 ブログ

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バッハ : シャコンヌ 7  ~最終回



擬似的な3楽章構成

 これまで楽譜に沿ってやや細かく話しを進めてきましたが、この曲を全体的に見ると大きく3つの部分に分けられます。 長さだけを見ると、だいたい3:2:1の比になっていて、これは3楽章構成の協奏曲など時間配分と一致します。 このシャコンヌは擬似的な3楽章構成で作曲されており、その3つの部分の性格もそれぞれ違っています。

 第1部は荘厳な感じで始まり、緊張感も全体的に高く、いかにもバロック音楽といった構築美が感じられます。 長調に変わる第2部は全体にリラックスした感じで、和声も比較的シンプルで、ゆっくりと歌う歌や、ユーモラスな感じや雄大な感じもあります。

 再び短調に戻る第3部ですが、ニュアンスは第1部とは異なるようです。 第1部をフォーマルな感じとすれば第3部は、何か内面的というか、感傷的な感じがさえします。

 第1部=バロック、 第2部=古典派、 第3部=ロマン派、 などというのはちょっと考えすぎでしょうが、第3部の最初の和音に付け加えられた6度の音などはなんとなくロマン派的な音楽を感じてしまいます。 もちろんバッハはロマン派の音楽なんて知らないはずですが。
 



シャコンヌの魅力は

 この曲を 「変奏曲」 と見た時、一般的な変奏曲とはかなり違っている点はありますが、逆に言えば一見変奏曲に見えなくても、やはりこの曲は 「低音を主題に持つ変奏曲」 ということもできます。

 普通変奏曲は各変奏が独立していて、作曲する時もそれぞれ別に作曲し、演奏効果などを考えてその変奏の順序などを決めたりします。 場合によってはその変奏の順序を変えて演奏したりすることもあり、それでもそれほど内容は変わらない場合が多いようです。

 しかしこのシャコンヌの場合は、いくつかの変奏を組み合わせて一つの部分を構成し、そしてそれらの部分から全体が構成されるように作曲されています。 全体の構成を考えた上でそれぞれの変奏が作曲されているので、変奏の順序を変えるなど全くの論外です。

 このシャコンヌが多くの人に好まれている理由の一つに、聴く人の興味や集中力をきらさない、この全体の構成があるのではないかと思います。 長い曲ですが、聴く人に 「次はどうなるのだろう」 という気にさせる曲だと思います。




イリュージョニスト?

 それにしても、バッハがなぜこの 「無伴奏ヴァイオリンのための6つの作品」 を書いたか、ということですが、バッハは言うまでもなくポリフォニー、つまり多声部的な音楽を作曲し、おそらくバッハ自身その技術にはかなりの自信を持っていたと思います。

 一方で無伴奏のヴァイオリンのために作曲するということは、多声部的な音楽にはかなりの制限が加えられるということになります。 また、バッハはこれらの曲を誰かにに依頼されたなど、何かの必要があってこれらの曲を作曲したのではなさそうです。 おそらく自発的な動機で、なお且つかなり意欲的に作曲されたものと考えられます。

 バッハはこうした一見作曲上の制限や困難、不都合などをまるで楽しんでいるようにも思えます。  無伴奏のヴァイオリンのために作曲するということ自体は、確かに他の作曲家も行っていますが、このように高度な和声法や対位法を織り込んだ作曲家はいなかったでしょう。

 バッハはそのことも十分に認識していて、この仕事ができるのは自分をおいて他にいないと考えていたでしょう。 この曲の楽譜はバッハ自身の手により丁寧に清書されており、同時代の人に弾かれるだけでなく、後世に「残す」ということもかなり意識していたように思います。

 バッハはこれらの曲では、非常に少ない音で複雑な和声進行を実現したり、一つの音を半音上げ下げすることにより、和声の流れをがらりと変えてしまったりもしています。 それはまるでイリュージョンのようでもあり、自らの手足を縛り、水中において鍵のかかった箱から脱出するような行為にも連想させられます。
 



どの譜面を使おうか

 この曲にはこれまで、様々なヴァイオリンの名手による演奏があり、またギターをはじめとして、リュート、ピアノ、チェンバロ、ハープ、オーケストラなどへの編曲もあり、それらについてもお話したいところですが、これはまたの機会にしましょう。

 本当に長くなりましたが、この曲に取り組んでいる人、あるいは取り組もうとしている人などにとっては、この曲のことをあらためて考え直すきっかけくらいにはなったのではないかと思います。

 編曲についてもあまり触れられませんでしたが、どんな編曲を使うかとか、どのように編曲するか、あるいはどのように弾くかということの前に、この曲がどんな曲なのかということを考えるのが第1歩ではないかと思います。




 *「名曲のススメ」として5曲ほど書いてきましたが(なんとまだ5曲しか書いていない!)、ここでこのシリーズは一休みにして、また「ギター上達法」に戻りたいと思います。再開の最初は「読譜力」についてです。

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