中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

 前回までで、セゴヴィアのスタジオ録音のLPの紹介は終了で、今回からリサイタルなどのライヴ録音のCD紹介です。セゴヴィアはその長い生涯に於いて、全世界で多数のリサイタルを行なっており、多くの場合その演奏は何らかの形で記録されていると思われます。

 そうしたもののうちいくつかは現在CDとして市場に出回っていると思いますが、私の手元にはそれらのうち4種類のCDがあります。おそらく今後さらにこれらの録音がCD、あるいはDVDなどの形で市場に出せれるのではと思います。

 


◎1955年 8月28日 エジンバラ音楽祭(イギリス)

ヴィンセンツォ・ガリレイ : 6つの小品
 Ⅰ.プレリュード、 Ⅱ.白い花、 Ⅲ.パサカリア、 Ⅳ.クーランテ、 Ⅴ.カンション、 Ⅵ.サルタレッロ

ロベルト・ド・ヴィゼー : 6つの小品(組曲第9番二短調、組曲第12番ホ短調*より)
 Ⅰ.メヌエット(ロンド)、 Ⅱ.アルマンド、 Ⅲ.ガヴォット、 Ⅳ.サラバンド、 Ⅴ.メヌエット、 Ⅵ.メヌエット*

J.S.バッハ : フーガ BWV1000、 ロンド風ガヴォット BWV10006

F.シューベルト : メヌエット

A.タンスマン : カヴァティーナ組曲
 Ⅰ.プレリュード、 Ⅱ.サラバンド、 Ⅲ.スケルツィオ、 Ⅳ.バルカローレ、 Ⅴ.ダンサ・ポンポーザ

H.ヴィラ・ロボス : 前奏曲第3番、 第1番 

C.テデスコ : セゴヴィアの名によるトナディーリャ、 タランテラ

グラナドス : スペイン舞曲第10番
 


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1955年のライヴだが、現在入手出来るかどうか微妙

 このCDは2003年の発売ですが、現在では入手出来るかどうかは、やや微妙なようです(可能性はなくはないと思いますが)。1955年のライヴ録音ということですが、音質はかなりよいといってよいでしょう、しっかりとセゴヴィアの音を捉えています。ノイズも年代からすればかなり少ない方だと思いますが、最後の方の曲でLPのキズのようなノイズが入るので、LPとして市場に出されていたこともあったのかも知れません。



まさに絶頂期の演奏

 セゴヴィア62歳の演奏ですが、勢い、緊張感、音色の美しさなど、たいへんすばらしい演奏で、まさに音楽性、技術共に絶頂期の録音と言えるでしょう。ライヴにありがちなミスや不明瞭な部分なども非常少なくなっています(完全にないわけではないが)。



ガリレオの叔父さんの作品?

 最初の「6つの小品」はヴィセンツィオ・ガリレイの作品となっていますが、一般には作者不明とされる作品でルネサンス時代のリュートのための作品をイタリアの音楽学者、キレソッティが現代譜に直したものとされています。

 この中ではっきり作者がわかっているのは「白い花」(チェザレ・ネグリ)のみのようですが、最後の「サルタレッロ」はそのヴェンセンツィオ・ガリレイの作とされることもあります。

 ちなみにこのヴェンセンツィオ・ガリレイは有名なガリレオ・ガリレイの叔父にあたるそうで、確かにリュート奏者で、いくつかの作品は残されているようです。しかし、少なくともこの6曲すべてがこのV.ガリレイの作ではなさそうです。

 個々の曲名の方もあまり聞かれない表記になっていますが、おそらくセゴヴィアはこのような形では主催者に告げなかったのではと思います。もちろん演奏はすばらしいもの、また、この曲はスタジオでも1955年に録音しています。

 因みに、その有名な”ガリレオ”自身でもリュートを弾いたそうで、ルネサンス人というのは芸術も科学も音楽も、すべてできなければならなかったそうです。



ド・ヴィゼーはフランスのバロック時代のギタリストだが

 ド・ヴィゼーの「6つの作品」のほうもこのCDの曲名表記はちょっと気になります。かなり丁寧に「組曲第9番二短調より」となっていて、6曲目の「メヌエット」は「組曲第12番ホ短調」となっています。また最初の「メヌエット」にはカッコ付きで「ロンド」となっていますが、この曲を「ロンド」するのはやや強引ではと思います。

 原曲ではこの最初の「メヌエット」と5曲目の「メヌエット」は両方で一つの曲(メヌエットⅠ-Ⅱ-Ⅰのようにダ・カーポして演奏される)となっています。また「ガヴォット」は「ブーレ」の間違いですが、セゴヴィアはコステ編に准じて冒頭の本来の二つの8分音符を4分音符で弾いており、確かに聞いた感じではガヴォットに聴こえるかも知れません。



作曲者名も曲名も調も全部間違っている!

 もっと凄いのは最後の「メヌエット」で、前述のとおりこのCDの表記ではド・ヴィゼー作曲、組曲第12番ホ短調より、「メヌエット」とされていますが、実はこれらすべてが間違い、つまりこの曲は、ド・ヴィゼー作曲でもなく、組曲第12番でもなく、ホ短調でもなく、さらにメヌエットでもありません。

 それにしても、曲名や調性、作曲者名などすべて間違いで、何一つ当たっていないと言うのも珍しいのではないかと思いますが、この「メヌエット」の正しい曲名の表記は

 マヌエル・ポンセ作曲 : 組曲二長調より「クーラント」

ということなります。因みにこの組曲のプレアンブロ(前奏曲)はヴァイス作曲として、ガヴォットはアレクサンドロ・スカルラッティ作曲として発表されています。

 このような誤記はまず、セゴヴィアが曲名は作曲者名などについて詳しいことを主催者側に告げなかったことによるものと思われます。これはセゴヴィアにとってはいつものことで、特にポンセのバロック風の作品は常にヴァイスやド・ヴィゼーなどのバロック時代の作曲者の作品として主催者に書き送っているようです。


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このCDでは”ド・ヴィゼー作曲「メヌエット(6曲目の)」とされた曲。実際はマヌエル・ポンセ作曲「クーラント」~組曲二長調より。  どう見てもメヌエットには見えない(聴こえない)。またホ短調などでは全くありえない。



一般のクラシック音楽には詳しいのかも知れないが

 そうした不十分な曲名表記のプログラムを見て、このCDの制作スタッフはより詳しい表記を試みたようです。シューベルトの「メヌエット」には「ピアノ・ソナタト長調D894より」と記していたりするので、このスタッフは一般の音楽には詳しかったと想像されます。

 しかしこの「メヌエット」は実際には二短調で演奏されているわけですから、「ト長調」とあえて記するのもどうかと思います。同様にイ短調で演奏されているバッハの「フーガ」もト短調と記しています。

 どうやらこのスタッフは一般のクラシック音楽には詳しいのだが、残念ながらギターについてはほとんど知識がなかったようです、特にセゴヴィアについては  ・・・・・・・・まあ、よくあることですが。 




速すぎず、遅すぎず

 ちょっと脇道にそれてしまいましたが、そのバッハのフーガはやはりすばらしい、若い頃ほど速くなく、また遅いと言うこともなく、まさに絶妙なテンポと言え、各声部の弾き分けもすばらしい。ガボットも軽快で力まず、緩まずといった感じ。 ・・・・・・ガヴォットでは一瞬記憶が曖昧になったのか若干迷走しています。といっても流れを止めたりせずに弾いていて、曲を知らないと、もしかしたら間違ったことには気付かないかも知れません。巨匠のちょっとした愛嬌といったところでしょうか。



1954~1955年頃に録音した曲目が中心

 タンスマンの「カヴァティーナ組曲」は1954年に録音しています。また”作者不詳”の「6つの小品」、 バッハの「フーガ」、 テデスコの「セゴヴィアの名によるトナディーリャ」は1955年に録音しており、この時のリサイタルにはこの前後に録音し、LPとして発表された曲が並んでいます。当然といえば当然かも知れません。



スタジオ録音より演奏の美しさはいっそう伝わってくる

 この「カヴァテーナ組曲」は1954年のスタジオ録音に比べると、バルカローレがやや速い以外はほとんど同じテンポで演奏しています。ライヴということを考えると比較的落ち着いた演奏といえるでしょう。

 観客の咳など、若干のノイズは入るものの、音色などはスタジオ録音に比べてこのライヴのほうが美しく聴こえます。また奥行きも感じられ、ニュアンスの変化もよく聴き取れます。セゴヴィアの演奏のすばらしさは、このライヴ録音のほうがより伝わってくるように思います。

 

自分の耳で確かめて下さい

 シューベルト、ヴィラ・ロボス、テデスコも、すべて名演ではありますが、是非、ご自分の耳で確かめてください。テデスコの「タランテラ」には前述のとおり、LP盤のキズのようなノイズが入ります。複数の音源からこのCDを制作しているのかも知れません。



待つ価値は十分にある

 グラナドスの「スペイン舞曲第10番」でこのCDが終わりますが、この曲はアンコール曲かも知れません。セゴヴィアらしいたいへん美しい演奏です。

 このCDは一つのリサイタルをまるごとCDにしたものなので(おそらく)、CDとしてのまとまりもたいへんよく、特にお薦めのものです。入手出切るかどうかは若干ありますが、待つ価値は十分あるものだと思います。
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