中村俊三 ブログ

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タレガの愛弟子たちの録音

 前回は「セゴヴィアと同時代のギタリストたちVol.12」のCDからタレガ自身による蝋管録音の紹介をしましたが、今回はタレガ音楽的DNAを受け継ぐダニエル・フォルティア、ホセフィーナ・ロブレドなどの録音を紹介しましょう。



「リョベット、及びセゴヴィアの演奏から三角測量的に・・・・」と書いたが

 以前「タレガの演奏スタイルはリョベット、及びセゴヴィアの演奏から三角測量的に推し量るしかない」と書いたことがあります。しかしリョベットはタレガと出合った時にはすでに自分の演奏スタイルを確立していて、リョベット自身も「タレガからは若干のアドヴァイスを得ただけ」と言っていますし、セゴヴィアに至っては直接タレガの演奏を聴いてはいないし、合ってもいません。

 リョベットやセゴヴィアはタレガの弟子というより、同時代のギタリスト、あるいは強く影響受けたギタリストと言うべきで、測量データとしてはやや信頼度の低いものになってしまいます(それでも有用なものだが)。

 今回このCDが発売されたことによって、直接タレガの演奏が聴けるわけなので、これまでのように間接的に推し量る必要もなくなるはずですが、しかしいかに貴重な録音であれ、この断片の寄せ集めの「マリーア」の演奏からタレガのスタイルを知るには、さすがに情報量が少なすぎます。



より精密な数値が得られる

 しかしこのCDには、まさにタレガの愛弟子と言うべく、幼少時からタレガからきめ細かい指導を受けていたホセフィーナ・ロブレド、またタレガの晩年のリサイタルでは、タレガの二重奏の相手も務めたダニエル・フォルテアの録音が収められており、これらのギタリストの演奏を聴くことで、そうした情報量の少なさを補うことが出来ます。

 つまり、このCDにより、タレガの演奏スタイルの正確な位置や質量を測定するためのデータが、これまでよりは格段に精密な数値で得られるということです。





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ダニエル・フォルテア(1882~1953)

 ダニエル・フォルテアは、プジョールによればフォルテアが20歳の時に、嵐の中、ずぶぬれになりながらタレガの演奏に聞き入り、それがきっかけとなり入門したそうです。タレガの晩年には二重奏の相手を務めていましたから、タレガも信頼を寄せていた弟子だったのでしょう。

 そのフォルテアの演奏は、自作2曲とタレガの「アラビア風奇想曲」、グラナドスの「スペイン舞曲第5番」がこのCDに収められています。1932年の録音とされており、SP盤として市場に出されたものと思いますので、この演奏を聴いたことのある方や、何らかの形でこの音源を所有している人もいるかもしれません。

 私もどこかでこの録音を聴いたことがあるように思いますが、演奏内容などはあまり覚えてなく、実質初めて聴く感じです。音質はこの時代の録音としてはなかなかよいもので、鑑賞する上では全く問題ありません。


イントロの32分音符はあまり正確な音価にこだわらなくても

 「アラビア風奇想曲」はSP録音と言うこともあって、リピートなどは省略し、3:13で演奏しています。テンポは全体にやや速めですが、イントロの最後の32分音符のスケールはそれほど速くは弾いていません。タレガの初稿では32分音符ではなく16分音符で書かれていたようですが、この部分は厳密に音価をまもる必要はなさそうです。

 グリサンドは速いものからゆっくりしたものまでいろいろ使い分けているようで、おそらくタレガもそうしていたのではないかと思われます。「スペイン舞曲第5番」は現在よく演奏されるリョベット編ではありません。






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ホセフィーナ・ロブレド  デビー時(15歳)の写真と思われる



ホセフィーナ・ロブレド(1897~1972)

 ホセフィーナ・ロブレドは少なくとも1904年(7歳)にはタレガのレッスンを受けていたようで、15歳ではコンサート・デビューしています。天才美少女ギタリストの元祖とも言えるでしょうか。私たちが知るタレガの弟子としては、最も若い、あるいは幼い時からタレガの指導を受けていたギタリストと言えるでしょう。



最も感性豊かな時期に間近でタレガの演奏を聴いて育った

 多感な時期に間近でタレガの演奏聴いて育ったわけですから、タレガの音楽は体に浸み込んでいると考えてよいのではないかと思います。おそらくタレガの演奏スタイルを最も忠実な形で後世に伝えた人と言ってよいのではと思います。

 ロブレドはタレガの死後アルゼンチンに渡り、1924年には再びスペインに戻りましたが、スペインにもどってからはコンサート活動をしていません。


自宅でのプライヴェートな録音

 そのロブレド演奏録音からは、タレガの「前奏曲第1、2、5番」、「アラビア風奇想曲」の4曲が収められています。これらはロブレドの夫が自宅でプライヴェートに録音したものだそうです。録音は1959年だということなので、おそらく磁気テープ・レコーダー(モノラル)によるものと思われます。

 残念ながらあまり音質のよいものではありませんが(SP盤に比べても)、このタレガの演奏のDNAを確実に継承していると考えられる女流ギタリストによる、たいへん貴重な録音と言えるでしょう。これまで市場に出されたことのあるものかどうかはわかりませんが、どのような形であれ、このギタリストの録音が残されたのは幸運でしょう。

 「アラビア風奇想曲」は演奏時間4:56で、セゴヴィアよりはやや速く、中庸なテンポと言えるでしょう。聴いた印象としてもたいへん自然なテンポです。イントロの32分音符をそれほど速く弾いていないところはフォルテアと同じですが、グリサンドの仕方などは若干違っています。



グリサンド奏法に関しては必聴!

 イントロが終わって、最初のテーマが出てくるところは①弦の1フレット(ファ)からグリサンドするのではなく、③弦の2フレット(ラ)から弦をまたいでグリサンドしています。また二長調のところで、再度テーマが出てくる直前にスラー奏法によりパッセージがありますが、そのパッセージの最後の音(ラ)からテーマの最初の音(2弦の「ラ」)にかけてはスラー奏法ではなく、グリサンド奏法で弾いています。

 タレガは様々なニュアンスのグリサンドを使い分けていたと言われていますが、このロブレドの演奏を聴くことによって、そうしたものを推察することが出来るように思います。



タレガの生き写し?

 このロブレドのタレガの4曲の録音を聴くと、確かに音質の関係で詳しいことはわからずとも、たいへんすばらしい演奏で、本当にタレガが演奏しているような錯覚を覚えます。スケールや半音階はたいへんレガートに演奏され、全体に気品溢れる演奏といってよいでしょう。



ミスらしいミスもない

 編集などは考えられない録音ですが、ミスらしいミス、あるいはミスとは言えるかどうかのちょっとしたコントロール・ミスもほとんど感じられません。この時点(1959年)で、30年以上にわたってコンサート活動から遠ざかっていたギタリストとは思えない演奏です。

 この時、ロブレドは62歳になるはずですが、年齢による技術の衰えも全く感じさせません。音楽性だけでなく、演奏技術もかなり優れていたギタリストのようです。

 もし、このギタリストがその生涯にわたって演奏活動を持続し、録音なども多数残していたとしたら、ギター史も少し変っていたかも知れません。
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