中村俊三 ブログ

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<バッハ・シャコンヌ再考 15   バッハの無伴奏曲 4>



話を戻して

 前回は無伴奏のほうではなく、伴奏付きのヴァイオリン・ソナタのほうに話が行きましたが、もちろん本題の無伴奏曲のほうの話がまだ済んではいない。 再びバッハの無伴奏ヴァイオリン曲において、バッハらしいところ、バッハしか書かないことについて話を進めましょう。



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無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調第1楽章「グラーヴェ」



よく似ているのに、第1番は「アダージョ」で、第2番は「グラーヴェ」。 どう違うの?

 今度はソナタ第2番の「グラーヴェ」ですが、 前々回譜面を載せた第1番の「アダージョ」とよく似た感じです。 調は違いますが、譜面の見た目といい、聴いた感じといいよく似ています。 使っている音符の種類など、ほぼ同じではないかと思います。

 もちろん中身、特に和声法的な部分ではかなり違うのかも知れませんが、演奏の仕方、特にテンポなどはほぼ同じになるのではないかと思います。 その似たものどうしで、なぜこちらが「グラーヴェ」で、第1番のほうが「アダージョ」なのかは、私にはよくわかりません。


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無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番の「アダージョ」 前にも載せたが、比較のために。 調は違うものの、雰囲気は確かによく似ている。 



曲の感じを表していると思われるが

 この「アダージョ」と「グラーベ」は一般に速度標語と言われ、その曲の演奏するテンポを指示しているのですが、この両者の場合は絶対的な速度の差、つまりどちらが速いかとか遅いか、といったことではなく、曲の感じを表しているものと思われます。

 つまりどちらも「非常に遅く」なのですが、グラーヴェは重厚で、アダージョは繊細となるでしょうが、聴いた感じや、譜面を見た感じからは、そうした違いは見出すことが出来ません。

 強いて言えば、グラーヴェのほうは低音が順次進行することが多いのに対して、アダージョのほうが少ない、つまりグラーヴェのほうがバス・ラインがしっかりしていて、その分、重厚さが感じられるといったところでしょうか。



チェンバロ編曲では「アダージョ」

 この第2番のソナタにはニ短調に移調されたチェンバロへの編曲譜も残されています。 これはバッハ自身の編曲なのか、他の音楽家のてによるものなのかは、判別出来ないようですが、バッハ自身でないにしても、弟子や息子たちなど、バッハの影響力が及ぶ音楽家ではないかと思われます。


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バッハ:チェンバロのためのソナタBWV964 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調BWV1003からの編曲だが、バッハ自身の編曲かどうかは判明しない。 第1曲目は「Adagio」となっている。



結局どっちでもよかった?

 譜面を見てお気づきの通り、第1曲目は原曲のように「グラーヴェ」ではなく、「アダージョ」となっています。 書き間違えなのか、あえて変更したのかわかりませんが、この編曲者もグラーヴェとアダージョはだいたい同じもので、どちらも大した違いはないと思ったのかも知れません。 あるいはこの曲が、特に重厚な音楽とは思えず、アダージョのほうが相応しいと、積極的に変更した可能性もあるでしょう。 



中身のほうでは

 さて、タイトルに気を取られてしまいましたが、 この曲の中身で気になるところといえば、まず13小節目です。 この13小節目の音階は最初のほうではファとソに#が付きますが、上行して先に進むとそれぞれナチュラルとなり、シに♭が付きます。 




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13小節目 この音階の最初の方ではファとソに#が付くが、最後の方(高い方)ではナチュラルとなり、さらにシに♭が付いている。 次の属9の和音の出現を予告していて、強い力でニ短調へと進む





一つの音階の中で#が付いたり、取れたりする

 最初のほうでファとソに#が付くのはこの曲がイ短調だからで、これはいわば常識的なことです。 普通ならそのままオクターブ上がったとしても同じ音に#が付くはずですが、 オクターブ上がるとナチュラルになり、さらにシに♭が付いています。

 その後を見るとニ短調、あるいはイ短調の下属和音(つまりDm)となるので、それを先取りしてこのようになっていると思われます。



一つの音階の中で転調する?

 つまり一つの音階の中で転調をしているような感じになっています。 転調というのは間違いでしょうが、この後ニ短調に進むことを予告しているのではないかと思います。 こうした曲では、普通、音階は装飾的な扱いで、和声法上は重要ではない場合が多いのですが、ここでは大変重要な扱いをされ、 ”和音がなくても和声がわかる” と言った感じなっています。 



バッハは短調の属9の和音を好んで使った

 音階の最後のほうで出てくるシ♭は次の和音にも出てきて、これが属9の和音を形成します。 この短調の属9の和音はバッハが特に好む和音で、いろいろな場面に登場します。 普通の属7の和音よりもさらにいっそう主和音 (この場合ニ短調の主和音=Dm)、つまり5度低い和音に進む傾向があります。 二反長への転調を強く示す和音と考えられるでしょう。



根音を抜くと減7と同じ、 独特の不協和音

 この短調の属9和音は、根音(この場合はラ)を省くと減7の和音となります。 減7の和音は不協和音ですが、独特の響きをし、クラシックからポピュラー音楽に至るまで、たいへんもよく用いられます。 音楽が盛り上がる部分によく使われ、ベートーヴェンなども好んで使っています。

 子供の頃ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「月光」を聴いて、とても印象的な部分があったのですが、後からそこに減7の和音が使われていることがわかりました。

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