中村俊三 ブログ

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<バッハ・シャコンヌ再考 17   バッハの無伴奏曲 6>



100年早いが

 「次回はフーガの話をします」 などと前回書いてしまいましたが、改めて書こうとすると、当然のことながら、とんでもないことを言ってしまったものだなと、後悔しています。 やはりバッハのフーガを語るのは、私には100年早いと言うところでしょう。

 しかし言い出してしまった以上、やむを得ないので、あくまで素人目線の、表層的なことしか言えませんが、やるだけやってみましょう。  まず、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ3曲の、それぞれ中心楽章となっている、3つのフーガを比較してみます。




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「ソナタ第1番ト短調BWV1001」のフーガ。 ト短調だが、例のごとく♭は1個になっている。



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「ソナタ第2番イ短調BVW1003」のフーガ



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「ソナタ第3番ハ長調BWV1005」のフーガ




番号の順に曲が長くなってゆく

 本当に外見的なことから言うと、「第1番」のフーガが94小節、 「第2番」が289小節、 「第3番」が354小節となっていて、だんだん長いものになってゆくのがわかります。 つまりバッハは主に、フーガの規模の関係で3つのソナタの番号を決めたことがわかります。

 小節数だけを見ると、第2番、3番に比べて、第1番が極端に短くなっていますが、第2番、3番がそれぞれ4分の2、2分の2拍子となっているのに対して、第1番は4分の4なので1小節あたりの音符の数はほぼ2倍となっているので、第1番の小節数は2倍の ”188小節” と計算してもよいかも知れません。 それでも第1、2、3番の順で長くなってゆくことには変わりありません。



第1番のテーマは、類似したものがよくあり、当時からも親しみやすかったのでは

 このうち、第1番のフーガは私たちにとって最も親しみやすいもので、古くはタレガの時代からギターで演奏されてきました。 1小節の非常に簡潔なテーマですが、これに近いフーガのテーマはテレマンにもあり、またバッハ自身も平均律曲集などで似たようなテーマを使っています。

 それらのことから、このフーガは当時から親しみやすいものだったのではと思います。 バッハはこのフーガをオルガン用にもアレンジしています(プレリュードとフーガニ短調BWV539)。



あまり変形されずに何度も出てくる

 この第1番のフーガが親しみやすいもう一つの理由として、この1小節のテーマはあまり変形されることなく何度も現れることにもあるでしょう。 つまり同じメロディが1曲の中で何度も、それもわかりやすい形で聞えてくるということになります。 それに比べ第2番、3番のものではテーマが逆転されたり、分解されたりなど、変形されています。

 調的には、他のフーガ同様に主調=属調から始まり、下属調、平行調など一通り転調しますが、それでもテーマは、はっきりと聴き取れます。 また、和声法的にも他の2曲よりはシンプルに出来ているように思います。 いろいろな意味で、バッハの深遠なフーガの世界の入り口として、最も相応しい曲ではないかと思います。








第2番のテーマは2小節だが、原型のまま出てくることは少ない

 第2番のフーガは2小節のテーマを持ちますが、この2小節のテーマが完全な形で出現することはわりと少なく、前半の16分音符の部分のみを用いて展開してゆくことが多いようです。 そうしたことで、第1番のフーガに比べると、確かにわかりにくい感じはあります。



テーマが上下逆転。 主題労作っぽい

 主要呈示部、嬉遊部、副呈示部(平行調)と一通り進んだ後、このテーマは上下逆転され、さらにもとの形のテーマと交錯するように絡み合います。 前述のようにテーマを分解して用いるなど、のちのベートーヴェンの”主題労作”を彷彿させるところもあります。



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第2番のフーガの中間部 4段目のところからテーマが上下逆転される。 その後は”順”のテーマと、”逆”のテーマが交錯するようになっている。




非常にレヴェルの高い器楽的フーガ

 この2小節のテーマには、1オクターブの跳躍があり、まさに声楽的というよりは完全に器楽的なもので、バッハとしては、思う存分自らの作曲技法を展開しているのではと思います。 バッハのフーガというものは、ただ同じテーマが別の声部に表れるだけのものではなく、そこに非常に複雑な和声関係が持ち込まれます。 

 全く同じ音程で現れたテーマも全く違った和声法的処理がなされるなど、 先行のグラーヴェと同様、この第2番のフーガは、非常にレヴェルの高い音楽だと言えるでしょう(特に和声法的に)。
 


 
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