中村俊三 ブログ

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<バッハ・シャコンヌ再考 20  これまでのまとめ>



城本体が大きいために、外堀も広くて、深い

 <バッハ・シャコンヌ再考>と言うタイトルで書き進めてきましたが、まだ本当にバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番のシャコンヌ(正確にはチャコーナ)の話にまではいっていません。 まだ外堀を埋めている段階ですが、何分、お城本体がとても大きいため、外堀もそれだけ広くて、深いといったところでしょう。

 外堀が埋まったかどうかはともかく、そろそろ本丸へ、ということですが、その前にこれまで書いてきたことを一旦まとめておきましょう。 





≪シャコンヌ(チャコーナ)の起源とひろまり≫



当初は庶民的なもの

 シャコンヌは17世紀初頭に新大陸からスペインに渡ったもので、ギター伴奏と歌を伴う踊りでした。 その世紀のうちにイタリア、フランス、ドイツなどに広まりましたが、当初はかなり庶民的な内容のもので、あまり上品でないために、禁止令も出たほどだったようです。



基本は変奏曲だが、ロンド形式のものもある

 17世紀当時のフランスではリュートが盛んで、老ゴーティエ(エヌモン・ゴーティエ)などのリューティストがシャコンヌを作曲しています。 さらにクラブサン奏者のフランソワ・クープラン (大クープランと呼ばれたルイ・クープランの伯父) などもシャコンヌを作曲していますが、クープランのシャコンヌは変奏曲形式ではなく、ロンド形式になっていて、バッハのチャコーナなどとは全くの別物になっています。



ドイツにはイタリア風のチャコーナがひろまった

 イタリアではシャコンヌはチャコーナと呼ばれますが、イタリアのチャコーナはすべて変奏曲形式で、バッハ、ヴァイス、ケルナーなどのドイツの音楽家はすべてイタリア式の「チャコーナ」を作曲しています。 つまりバッハだけでなく、ヴァイスやケルナーも曲名を「チャコーナ」としています。



舞曲的な要素は薄められた

 イタリアからドイツに伝わったチャコーナは舞曲的な要素は薄められ、パッサカリア同様、基本的に変奏曲形式の一つとして考えられていたようです。 

 チャコーナ、及び変奏曲形式になっているシャコンヌは、中庸なテンポの3拍子の曲となっていて、ほとんどの場合、1拍目から曲が始まり、アウフタクト(弱起)を持ったり。バッハのチャコーナのように2拍目から始まるものはほとんどありません。



パッサカリアとの区別は難しい

 また、パッサカリアとの区別は難しく、特にドイツの作曲家の場合はほとんど同じといってよいでしょう。 ヴァイスのチャコーナとパッサカリアも全く区別が付けられません。 「パッサカリアは重厚で厳密、シャコンヌはやや自由」といったイメージはバッハの二つの作品(無伴奏ヴァイオリン・パルティータの「チャコーナ」と、オルガンのための「パッサカリアとフーガハ短調」)によって付けられたと言ってよいでしょう。

 バッハ自身がどのようにこの二つを区別していたかは、よくわりませんが、仮にこの2曲の曲名が入れ替わったとしても、当時の人たちには大きな違和感はなかったのではないかと思います。



ドイツの作曲家の場合は、同じ和音の小節が重複するのを避け、一つの変奏が7小節となっている

 普通、一つのフレーズは4、または8小節で作られることが多いのはご承知のとおりと思いますが、ヴァイスやケルナーなどのチャコーナは一つの変奏やテーマが7小節で出来ています。

 これは先行の変奏の最後の小節が後続の変奏の最初の小節を兼ねているからなのですが、 なぜこのような形をとったかと言うと、おそらく同じ和音(主和音)が2小節続くのを避けたためと思われます。 ヴァイスの場合は「パッサカリア」の場合も全く同じようにしています。 

 これはドイツの作曲家だけのこだわりのようで、イタリアなどの作曲はこうした方法は取っていません。 ドイツ以外の作曲家の場合、一つの変奏は4小節、または8小節で、各変奏の最初の小節と最後の小節は共に主和音となっています。 つまり変奏が変わるところでは同じ和音が2小節続くわけですが、特にそのことを避けようとはしていません。



バッハの場合は

 バッハは数字に対して、いろいろこだわりのある作曲家で、一つの変奏が7小節という中途半端な数字には我慢ができなかったようです。 しかし、かと言って同じ和音の小節が続くことにも我慢が出来なかった。 バッハの場合はあることをして、一つの変奏が4、または8小節となっても、同じ和音の小節が2小節続かないようにしている訳ですが、それについては ”本丸” のほうで説明しましょう。






≪バッハの変奏曲≫



バッハはチャコーナなどの変奏曲が嫌いだった?

 バッハはチャコーナや、パッサカリアなどの変奏曲は音楽的レヴェルが低いものと考え、フーガなどに比べるとあまり積極的に作曲しなかった。 初期の習作的な作品などを除くと、バッハの主要な変奏曲はチャコーナ(無伴奏Vnパルティータ第2番)、 オルガンのための「パッサカリアとフーガ」、 チェンバロのための「ゴールドベルク変奏曲」の3曲しかありません。

 特にチャコーナやパッサカリアのように決まった低音主題で作曲するとなると、和声や調性などが大きく制約され、レヴェルの高い音楽は作曲しにくいと考えたのでしょう。 



素人でも作曲できる?

 逆に言えば、低音主題の上に装飾的なパッセージを載せるというのは、それほど高度な作曲技術かなくても出来ると言うことで、どちらかと言えば、作曲より演奏の方が得意な音楽家にとっては都合がよく、比較的簡単に作曲できるというこでもあります。 その一例として、私が適当に作ったチャコーナ・モドキの譜面も掲載しました。



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以前掲載した、私がテキトーに作ったチャコーナ・モドキ。  




ありきたりのチャコーナなど作曲する気は毛頭なかった

 バッハは、結果的にはレヴェルが低いと思っていたチャコーナとパッサカリアを、それぞれ1曲ずつ作るわけですが、バッハは自分がこうした曲を作曲する場合は、誰もが作曲するような”ありきたり”のチャコーナやパッサカリアを作曲する気など毛頭なかったでしょう。

 自分が作る以上は、誰も作曲出来ないようなチャコーナやパッサカリアでなければならないと考えていたと思われます。 バッハのチャコーナを理解する上では、こうしたことは充分に考慮しておかなければならないことと思われます。




音楽史上最大、最高の変奏曲「ゴールドベルク変奏曲」もあるが

 なお、バッハには音楽史上最大の規模と内容を誇る 「ゴールドベルク変奏曲」 がある訳ですが、この曲についてコメントするのは私の力量をはるかに超えたことなので、皆さんは、ぜひ直接この曲をじっくりと聴いたり、また解説書などを読んでみて下さい。

 ゴールドベルク変奏曲がこんなにすごい曲になったというのも、バッハが 「普通の変奏曲は作りたくない」 と思っていたからなのかも知れません。







≪バッハの無伴奏ヴァイオリン曲≫



1台のヴァイオリンでフーガなどを作曲したのは、バッハだけではない

 1台のヴァイオリンでフーガなどの複旋律の曲を作曲したのはバッハの専売特許のように思われがちですが、当然のことながら同じことをやっていた音楽家は当時も必ずいたはずです。 そうした音楽家として、バッハに影響を与えたとされているワイマールの宮廷ヴァイオリストヴェストホフなどの名前が挙がっていますが、実際に譜面などが手に入ったのはテレマンの12の幻想曲だけでした。



極めて高度な和声法を駆使し、オルガン曲に迫る充実したフーガ

 では、他の作曲家のものとバッハの無伴奏ヴァイオリン曲では何が違うのかというと、まずバッハの曲の場合はたいへん高度な和声法を駆使しているという点で、その和声進行には”5度進行”と言うことが大きなポイントとなっています。 またフーガの場合はヴァイオリン1台で演奏するにもかかわらず、オルガン曲に匹敵するような充実したフーガを作曲しています。

 3曲の無伴奏ヴァイオリン・ソナタは、それぞれのフーガが中心楽章となっていますが、1番、2番、3番と番号が先に進むほど規模の大きい曲となっていて、第3番(ハ長調)のフーガは354小節となっています。 その構成も主要呈示部、喜遊部、副呈示部、喜遊部、対呈示部、喜遊部、主要呈示部と大掛かりなものとなっています。 またフーガにおいても和声法は非常に重要な要素となっています。



作曲上の制約を楽しんでいる

 このような充実した内容で、規模の大きいフーガを作曲するのであれば、何も1台のヴァイオリンで演奏するより、チェンバロでもオルガンでも、あるいは合奏曲のような形で作曲すればよいと思うのですが、バッハはこうした作曲上の制約を逆に楽しんでいるような”ふし”があります。 こうした点もチャコーナを考える上で考慮しておくべきでしょう。





≪いよいよ、総攻撃≫

 一応これで外堀は完全に埋まった(?)のでは、ということで、いよいよ次回からは陣を整え、本丸総攻撃とゆきたいと思います。 堅牢な城壁に跳ね返されないよう、十分に心してかからねばなりません。

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