中村俊三 ブログ

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<音楽基礎講座 on Blog>   速度標語  2


Adagio(アダージョ)

音楽辞典 :  「くつろぐ」の意味から出た語で、アンダンテとラルゴの間のおそい速度。 おそい速度で書かれた楽章、特に交響曲やソナタなどのおそい楽章。

伊和辞典 :   ①ゆっくりと、静かに、 ②注意深く、慎重に  ③ゆっくり
   

<例>
  ロドリーゴ : アランフェス協奏曲 第2楽章「アダージョ」
  アルビノーニ : 弦楽とオルガンのためのアダージョ
  メルツ : 愛の歌「アダージョ・カンタービレ」




音楽辞典では 「ラルゴとアンダンテの間」 と言っているのが

 音楽辞典では 「ラルゴとアンダンテの間」 と言っているので、少なくともアダージョはラルゴよりも遅いということになりますが、前にも言った通り、ラルゴやアダージョ、レントなどの標語による相対的な速度の違いははっきりしたものではありません。

 当然アダージョで書かれた曲のほうが遅いということも頻繁にあるわけで、前にも言った通り、これらの言葉の違いは絶対的なテンポの違いというより、曲想の違いと言った方がよいようです。



その違いは実際の曲で

 では、アダージョとラルゴの違いはどういうところにあるのか、というと、これは実際の曲を聴いてみるのが一番よいでしょう。 アダージョとして私たちに一番身近な曲といえば、まず何といってもアランフェス協奏曲の第2楽章でしょう。 アランフェス協奏曲は非常に多くのギタリストが録音していて、私のCD棚にも⒑数種類ありますが、ナルシソ・イエペスの1979年の録音を聴いてみましょう。


≪ ホアキン・ロドリーゴ作曲 アランフェス協奏曲第2楽章「アダージョ」 ≫  演奏 ナルシソ・イエペス  指揮 ナバロ  フィルハーモニアO.



新世界の「ラルゴ」より遅く弾いている

 当然かも知れませんが、これまで聴いたラルゴの曲とだいぶ感じが違うでしょう。 テンポは 4分音符=36 くらいで、新世界の「ラルゴ」よりはかなりゆっくりです。 譜面の方には 4分音符=44と書かれていますが、ほとんどのギタリストはこれより遅く弾いています。 ジョン・ウィリアムスの場合はイエペスよりも遅く、 4分音符=33 くらいで弾いています。



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アランフェス協奏曲の第2楽章  細かい音符が目立つ


 譜面の方を見ると、その違いがもっとよくわかるかも知れません、やたらと音符が細かいですね。 ラルゴの方がシンプルなことが多いようです。 アダージョは「くつろぐ」という意味の言葉からきた、とされていますが、リラックスした感じというより、繊細で、ちょっと神経質といった感じもありますね。 少なくとも、おおらかと言った感じはありません。



アダージョには ”秘めた情熱” のようなものがある

 アダージョには、なんとなく秘めた情熱みたいのが感じられますね。 あまり心穏やかと言った感じではないようです。 ではもう一つ有名な曲で あるびのーにの「弦楽とオルガンのためのアダージョ」を聴いていただきましょう。



≪ トマソ・アルビニーニ作曲  弦楽とオルガンのためのアダージョ ≫   イ・ムジチ合奏団



プレスティ&ラゴヤも弾いている

 この曲は本当にアルビノーニが作曲した曲ではなく、アルビノーニの作品を基にジャゾットと言う人が編曲した曲だそうですが、1960~70年代ころにはたいへん人気のあった曲です。 伝説のデュオ、プレスティ&ラゴヤがギター二重奏でも演奏していましたね。 やっぱりラルゴじゃなくて、アダージョですね、この感じは。




 さて次はまたギターの演奏を聴いていただきましょう。 メルツ作曲 「吟遊詩人の調べ」より 「愛の歌」 です。 私の演奏では、曲の中でテンポが揺れ動きますが、平均すれば、 4分音符=50 と言ったところでしょうか。 私以外のギタリストもだいたい同じくらいですが、奇才パヴェル・シュタイドルのCDではテンポの揺れが大きすぎて、計測不能と言った感じです。


≪ メルツ作曲 「吟遊詩人の調べ」より 「愛の歌」 ≫




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メルツ作曲 「吟遊詩人の調べ」より 「愛の歌」   ゆっくり歌う曲だが、”秘めた情熱” を感じさせる演奏が望まれる



あまり幸せ過ぎては”愛の歌”にならない

 どうです、「秘めた情熱」って感じするでしょ。 ”お風呂につかって一杯” といったリラックスした感じはないですよね。 だいたい「愛の歌」と言う場合、あまり幸せすぎてはいけない。  「あなたが好きです」  「はい、私も好きです」  「じゃ、お付き合いしましょう」  「はい、わかりました」  ・・・・・こんな感じじゃ、歌にはならないですね。



私には十分

 伝えたくても伝えられない気持ち、 なかなかふり向いてくれない、 愛が返ってこなくても自らの愛は貫き通す・・・・・ そんな苦い、あるいは屈折した気持ちがないと ”愛の歌” にはならないですね。 つまりモテモテの人生を送っている人には”愛の歌”は歌えない、 そういう意味では、私の過去の人生からすれば、”愛の歌” を歌う権利は十分にあると思います。  まあ、ここにいる皆さんもだいたい大丈夫かな? 十分に歌えそうですね。



速度標語にも作曲家の好みがある

 ところで、同じ遅い曲でもラルゴとするか、アダージョとするかは、作曲家によって好みがあるようです。 特にラルゴの場合、同じ古典派の作曲家でもハイドンの場合は前述の曲のように、特に多いと言うほどではありませんが、ラルゴとした曲が結構あります。 それに比べ、ほぼ同時代で、同じオーストリアで活動していたモーツァルトの方は、”ラルゴ” と記された曲はほとんど、あるいは全くありません。



モーツァルトはラルゴが嫌い?

 モーツァルトはあまり遅い曲が好きではなかったらしく、協奏曲や交響曲の第2楽章でもアンダンテとかラルゲット (ラルゴはないが、ラルゲットはある) とすることが多いようです。 アダージョとした曲はある程度ありますが、ラルゴとした曲はモーツァルトの主要な作品からは1曲も見つかりませんでした。

 つまりモーツァルトの音楽と、 「幅広く、ゆったり」 と言った言葉とは、合い入れないものなのでしょう。 一般には”癒し系の音楽”といったイメージのあるモーツァルトですが、実際はゆったりと落ち着いた音楽よりは、激しく、情熱的な音楽を好んだということなのでしょう。 モーツァルトという音楽家に関しては、その作品の内容も、なた人柄も、私たちは誤解している部分がかなりあるように思います。

 因みに、ベートヴェンもラルゴは全く書かなったわけではないにせよ、非常に少ないのは確かです。 やはりベートーヴェンの音楽も、ラルゴとは相性がよくなかったのでしょう。



ショパンはアダージョを書かなかった

 一方、アダージョのほうは、バロックからロマン派くらいまでの作曲家は、ほとんど書いていますが、唯一書かなかった作曲家がショパンです。 後からお話するように、ショパンの場合、遅い曲は 「Lento」 とすることが多いのですが、それでも Largo のほうは、かずは少ないですが作曲しています。

 しかし当時の作曲家なら誰もが書いたと思われる「アダージョ」は主要な作品では見当たりませんでした。 これは何を意味するのでしょうか。 おそらく、アダージョという速度標語には、何か、どろどろした情念のような意味合いが含まれるのと、何といってもドイツ・ロマン派的な香りがするからかも知れません。 ショパンはそういった音楽を好まなかったのでしょう。




両派に分けると

 つまりアダージョというのは粘度の高い音楽なのでしょう。 同じ遅さでもラルゴの方はさらさらしている・・・・・・  18世紀から19世紀半ば頃までの大作曲家を 「アダージョ派」 と 「ラルゴ派」 に無理やり分けると、下のようになるでしょうか。



<アダージョ派>

モーツァルト
ベートーヴェン
ブラームス
バッハ

・・・・・・・

ドボルザーク
ヘンデル
ハイドン
(ショパン)
ヴィヴァルディ

<ラルゴ派>




作曲家の傾向がわかると同時に、アダージョとラルゴの違いも分かる

 アダージョ派の筆頭は、おそらくラルゴを1曲も書かなかったモーツァルトでしょう。 次いでベートーヴェン。  ブラームスは作品の数があまり多くないのでなんとも言えないところもですが、やはりラルゴとした作品は少ないようです。 バッハの場合はラルゴは、なくはないのですが、ヘンデルに比べると少ないようです。

 ドボルザークの場合、ラルゴとした曲は多くはありませんが、何といっても新世界のラルゴが有名です。 ヘンデル、ハイドンはラルゴが多いというほどでもありませんが、それなりにあります。 最もラルゴを書いたのはヴィヴァルディかも知れません。協奏曲の第2楽章はほとんどラルゴとなっています。

 ショパンの場合はラルゴ派というより、アンチ・アダージョ派とでも言うべきでしょう。 このように分けると、やはり作曲家の傾向がわかりますね。 同時にまたアダージョとラルゴの違いもよくわかると思います。
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