中村俊三 ブログ

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<音楽基礎講座 on Blog >  速度標語  3


Grave(グラーヴェ)


音楽辞典  :  重々しく、荘重に、おそく

伊和辞典  :  ①重大な、深刻な、容易ならぬ、危険を伴った、耐え難い、②重たい、重量のある、比重の大きい、③重々しい、重厚な、重苦しい、ゆったりとした、④厳粛な、荘重な、威厳のある、真面目な、本気の、落ち着いた、物静かな


例  :   ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」 第1楽章「グラーヴェ」
       バッハ : 管弦楽組曲第2番 序曲「グラーヴェ~アレグロ」




ベートーヴェンの悲愴

 Grave は、英語でも同じ綴りで、「重大な」と言ったような意味ですが、「墓」と言った意味もあります。 代表的な例としてはベートヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第1楽章が挙げられるでしょう。 早速、20世紀の半ば頃、ベートヴェンなどの演奏で評価のたいへん高かった、ウィルヘルム・バックハウスの演奏で聴いてみましょう。



≪ベートヴェン作曲 ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第1楽章≫   演奏 ウィルヘルム・バックハウス


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最初の和音から、まさに「悲愴」

 テンポは揺れているので、はっきりとはわかりませんが、だいたい 4分音符=40 くらいです。 これから非常に深刻なことが始まると言った感じが良く出ていますね、まさにベートヴェンらしい音楽です。


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 最初の和音からしてまさに「悲愴」と言った感じでが、特別な和音を使っている訳ではなく、普通の短和音なのですが、音の配置や音域の関係でこんな風に聴こえるのですね、さすがベートベンです。 このあとアレグロの速い楽章が始まるのですが、そのアレグロとの対比が、またいいですね。

 もうひとつ別のCDも聴いていただきましょう。 これは私が特に好きな、ラドゥ・ルプー と言うピアニストの演奏です。


≪ベートヴェン作曲 ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第1楽章≫   演奏 ラドゥ・ルプー



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ベートーヴェンの音楽を真正面から捉えている

 凄い遅さですね、次の音がいったいいつ始まるんだろうと言った感じです。  大御所、バックハウスの演奏は、巨匠の余裕で、わりとあっさり弾いているのですが、 ルプーはベートーヴェンの音楽を真正面からとらえ、こうしたテンポで始めたのでしょう。 強弱の変化も、テンポの変化も非常に大きく取っています。

 バックハウスの演奏以上にテンポは測りにくいのですが、強いて言えば 4分音符=25 くらいです。 個人的にはとても好きな演奏なのですが、一般にはあまり高くは評価されないようですね、”若気の至り” てきな捉え方をされているのでしょう。 でもベートヴェンの演奏は”余裕しゃくしゃく”で演奏するよりは、 こんな ”切羽詰まった” 感じのほうが感動的ですね。



ルプーはもともと繊細な表現が特徴だが

 ルプーはもともと音の美しい、繊細な表現のピアニストで、シューベルトやシューマンなどの評価は高いです。 このような情熱的というか、激情的な演奏はこれ以外にはあまりないようです。 またベートヴェンのソナタも、これ以外(同時に「月光」、「ワルトシュタイン」を録音している)は録音していません。 ぜひ録音してほしかったところですが。



グラーヴェはバロック時代の序曲などによく用いられる

 もう一つグラーヴェの曲で、バッハの管弦楽組曲第2番の「序曲」を聴いてもらいましょう。 グラーヴェという速度標語はどちらかと言えば、バロック時代によく使われていました。 特にこうした組曲などの序曲で、アレグロ楽章と対で用いられていました。



≪バッハ作曲 管弦楽組曲第2番より「序曲」≫  演奏 カール・リヒター指揮 ミュヘン・バッハ管弦楽団



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 かなりゆっくり目ですね、4分音符=40 くらいです。 1960年代の録音ですが、この頃までのバッハの演奏はゆっくり目に演奏する傾向がありました。 もう一つ別の演奏も聴いてください。 トン・コープマン指揮、アムステルダム・バロック管弦楽団の演奏です。


≪バッハ作曲 管弦楽組曲第2番より「序曲」≫  演奏 トン・コープマン指揮 アムステルダム・バロック管弦楽団



最近のオリジナル楽器系の演奏団体では、比較的速く演奏される

 だいぶ速いですね、テンポはだいたい4分音符=60 くらいです。 さらに細かい音符はより短く弾いて、グラーヴェにしては結構軽い感じですね。 楽器も当時のもの、あるいはそのレプリカを使っています。

 最近のバロック音楽の演奏は、こうしたオリジナル楽器系の演奏が主流となっています。 バロック時代は遅い楽章でもそんなに遅くしなかったという研究から、こうしたテンポとなっています。 楽器だけではなく、いろいろな意味で当時演奏されていたと思われるスタイルで演奏しています。

 1960年代では、バッハの演奏で圧倒的な人気と評価をえていたカール・リヒターの演奏ですが、最近ではこのような演奏をする人は少なくなりました。 しかし演奏というものは時代とともに移り変わって行くもの、リヒターのような演奏も、あってよいのではないかと思います。



グラーヴェとアダージョは近い関係?

 グラーヴェといえば、当ブログで 、「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番」 と 「同第2番」 のそれぞれの第1楽章はたいへんよく似ていながら、第1番はアダージョ、第2番はグラーヴェとなっています。 またその第2番もチェンバロへの編曲ではアダージョと曲名が変更されています。

 そのあたり理由はよくわかりませんが、アダージョとグラーヴェは比較的近い関係にあるのでしょう。 しかしベートヴェンの「悲愴」は、間違ってもアダージョではありえませんね、ラルゴはそれ以上にあり得ません。 やはり悲愴の出だしはグラーヴェ以外にはないでしょう。

 

グラーヴェのギター曲はあまりない

 ところで、「グラーヴェ」とされたギター曲はあまりないので、ギター演奏の方はありません。 グラーヴェとギターもあまり相性が良くないのでしょう。




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