中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

<音楽基礎講座 on Blog>    速度標語 14


速度標語のまとめ




冗談ぽくなってしまったが、

 修了試験の方はやや冗談ぽくなってしまいましたが、気を取り直して、最後にこれまで話したことをまとめておきましょう。 結論としては本文中に何度もいったと思いますが、Andante とか Allegro といった速度標語は絶対的なテンポを表す、ということよりも、その曲の性格を表すということです。 



メトロノームの数字ではない

 かつてのメトロロームにはそれぞれの速度標語に、メトロノームの数字を対応させたものがありましたが、そのように速度標語は、はっきりとした数字で表せるものではありません。 また Largo と Adagio で、どちらが遅いかなどといったことが音楽辞典に記されていますが、そう言ったことは全く意味がありません。  それでは、改めて速度標語について、遅い方からまとめてゆきます。



<最も遅いクラスの速度標語> 「Largo」  「Adagio」   「Grave」  「Lento」



その性格が違うだけであって、絶対的なテンポの違いではない

 この4つの速度標語は最も遅いクラスのものと言えます。 この相対的な順位などに付いて語っている辞典や書などもありますが、私が実際に演奏されている曲については、全く順位は付けられません。 また同じ速度標語の中でも曲によって、作曲家によって、その作品の時代によって、、また演奏者によってかなり異なります。
  
 しかしだからといって、これらの速度標語は何でも良いと言う訳ではありません。 これらの速度標語には全く違う個性があると言うことです。 特にこの4種類の速度標語はその違いがはっきりしているようです。

 ですから、作曲家が、自らの作品に「『ラルゴ』 としようか、 それとも 『アダージョ』 としようかなど、迷うことはありえないということです。 ラルゴを作曲する時の気持ちと、アダージョを書こうかと思う気持ちでは全く異なるということです。 

 音楽辞典や伊和辞典等の記載については、以前書きましたが、以下は私の個人的見解です。 一般的に言われていることと異なることもあると思いますが、皆さんもいろいろな音楽を聴いて、以下のことを検証してみることをお薦めします。






おおらかで、癒し系の Largo 
  

 おおらかで、癒し系の曲。 どちらかと言えば4部音符などの長い音符の使用が多く、16分音符や32分音符などの細かい音符は少ない傾向にあります。 曲調や、気分の変化などはあまり多くなく、落ち着いた感じが特徴です。 



バロック時代ではそんなに遅くなかった

 バロック時代から使われていましたが、バロック時代ではそれほど遅く演奏されなかったと考えられます。 しかし19世紀半ば以降の作品はそれよりもかなり遅く演奏された。

 それに従い、バロック時代の作品でも19世紀から20世紀半ば頃まではかなり遅く演奏されるのが普通でしたが、20世紀末からのオリジナル楽器系の演奏団体では、おそらくバロック時代に演奏されていたと思われるテンポ、つまり速めのテンポで演奏されることが多くなりました。

 あくまでもおおよその目安ですが、 4分音符を1拍として演奏される曲においては、 バロック時代(17世紀~18世紀前半)の Largo は60~70、 古典派時代(18世紀後半~19世紀初頭)では50~60、 ロマン派時代(19世紀半ば以降)では40~50 といったところでしょう。




繊細で、真面目、秘めた情熱の Adagio 

 Adagio には、繊細で、真面目な感じ。 内に秘めた情熱を感じます。 ラルゴに比べると、16分音符や32分音符などの細かい音符が多く、表情の変化に富む場合が多いようです。



絶対的なテンポとしてはLargo と同じと考えてよい

 バロック時代から20世紀に至るまでたいへんよく使われた速度標語で、 絶対的なテンポとしてはラルゴとほとんど同じと考えてよく、バロック、古典、ロマン派と時代を経るごとにだんだん遅くなるのも同じです。



ラルゴ派とアダージョ派に分かれる

 この Largo と Adagio では作曲家によって使われ方に違いがあることも本文中で言いました。 言ってみれば ”ラルゴ派” と ”アダージョ派” に分かれるわけです。

 ラルゴを好んだ作曲家としては、まずヴィヴァルディ。 ヴィヴァルディの協奏曲の第2楽章の多く、あるいはほとんどがラルゴとなっています。 ヘンデル、ハイドン、ドボルザークと言った作曲家もラルゴの名曲を残しています。



モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスにはラルゴはない

 それに反して、モーツァルトには1曲もラルゴという速度標語のついた作品がありません。 多作家のモーツァルトですから、よく探せば1曲くらいはラルゴが見つかるかも知れませんが、少なくとも交響曲や協奏曲などの主要な作品にはラルゴは見当たりません(ラルゲットはあるが)。 




        img-mozart.jpg
モーツァルトには死ぬまで ”のんびりした” 曲は書けなかった



 おそらくモーツァルトにはのんびりした曲とか、表情の変化のない曲というのは書けなかったのでしょう。 同様にベートーヴェンや、ブラームスにも、ラルゴの作品はほとんどありません(全くのゼロではないかも知れませんが)。 やはり音楽には表情の変化や、秘めた情熱が絶対に必要と考えていたのでしょう。




ショパンはなぜアダージョを書かなかったのか?

 Adagio の方については、ゆっくりした曲の速度標語としては非常によく使われるもので、アダージョの作品を書かないという作曲家はほとんどいませんが、 唯一、ショパンのみ、アダージョの作品を書いていません。 ショパンはゆっくりした曲の場合、ほとんど Lento を用いていましたが、Largo の方はそれなりに使っています。 




        chopin.jpg
なぜショパンはアダージョを書かなかったか? 音楽史上、最大のミステリーといってもよいのでは




 ショパンの音楽には ”表情の変化” も ”秘めた情熱” も十分にあるはずなのですが、なぜショパンはアダージョで作品を書かなかったのでしょうか? 

 これは、あくまで私の推測ですが、ショパンにとってはアダージョという言葉の中に、非常に強いドイツ・ロマン派の香りを嗅ぎとったのではないかと思います。 当時ヨーロッパ全土に拡まるナショナリズムの影響もあったかも知れませんし、またアダージョのイメージにはなにか粘着質のようなものも感じていたのかも知れません。 



速度標語の使い方で作曲家の特徴、あるいは速度標語の意味合いがよくわかる

 こうした理由は明らかではありませんが、ただ、ショパンが Adagio の曲を書かなかったのは確かです。 そして、これが最も大事なことですが、 このことによってショパンの音楽と、 Adagio という速度標語の意味がよく理解できるのではと思います。 




Grave   バロック時代に、組曲の第1曲目としてよく用いられた


 グーラヴェという速度標語は、バロック時代の組曲の第1曲目によく用いられ、その後、交響曲などの序奏として用いられるようになりました。 グラーヴェの序奏を最初に置く意味合いとしては、その音楽をいっそう偉大なものにするため、いわば ”権威付け” のようなものと言えます。 また、その後に続くアレグロ楽章を引き立たせる役割もあったでしょう。 



ベートーヴェンがグラーヴェを悲劇的に仕立てた

 しかしベートヴェンのピアノ・ソナタの「悲愴」などでは、単なる ”序奏” でも ”前口上” でもなく、このグラーヴェが ”悲劇” そのものを非常に強烈に表しています。 何となく私たちに、「グラーヴェ=悲劇的」 といった印象があるのは、このベートヴェンの作品によってなのかも知れません。
 
 ロマン派以降では交響曲などに序奏自体が付く事が少なくなったせいか、グラーヴェとされた曲はあまりありません。 グラーヴェは主にバロック時代に使われた速度標語と考えてよいようです。 



グラーヴェとアダージョは近い関係

 また、グラーヴェとアダージョは比較的近い関係にあるということも言いました。 バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタの「グラーヴェ」がおそらく自らの手で編曲したと思われるチェンバロ版では、「アダージョ」 と書き換えられています。 強いて違いを言えば、グラーヴェの場合は音量的に大きく演奏されることが多いのに対して、アダージョの場合は音量的には控えめのことが多いようで、まさに”秘めた情熱” と言ったところでしょう。 
 




ショパンが好んだ Lento  自虐的な意味があるのかも

 レントは本来(イタリア語)の意味に、「のろま」 とか 「締まりがない」と言った意味があるので、古典派時代にはそれほど用いられていませんでした。 モーツアルトやハイドン、ベートーヴェンなどの作品にはレントはありません。 前述のとおり、ショパンは好んでこのレントを用いたわけですが、自虐的な意味も含まれていたのかも知れません。




無味無臭

 ギターの方ではそれほど多くないとしても、ソルなどが用いていますので、パリなどでは一般的だったのかも知れません。 音楽的な意味としてはただ単に ”遅い” と言うこと以外の意味はなく、いわば ”ニュートラル” なイメージがあります。 そいいった点もショパンが好んだ理由かも知れません。 ショパンは速度標語のイメージに縛られるのが嫌だったのでしょうね。

 おそらく、ショパンの影響で、それ以降のフランスの音楽家(ラヴェル、ドビュッシーなど)を始め、多くの作曲家がこの Lento という速度標語を用いて作曲しています。 したがって、Lento とされた曲は、ほぼ19世紀半ば以降の作品と考えてよいようです。

 
  
        

 
スポンサーサイト
コメント
コメントする
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する