中村俊三 ブログ

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<音楽基礎講座 on Blog>  速度標語  15

まとめ 2



アンダンテ ~ちょっと厄介なテンポ


 前回に引き続き、音楽基礎講座のまとめを行っています。 前回は最も遅いクラスの Largo Adagio Grave Lento について書きましたが、今回は Andante からです。  このアンダンテは 「中庸なテンポ」 のクラスと言えますが、 音楽辞典の記述も若干迷走しているとおり、ちょっとやっかいなものです。

 その音楽乃友社の音楽辞典では中庸なテンポではあるが、「速い速度に属するか、遅い速度に属するかは意見が一致しておらず」と言っている訳です。 



”歩く速さ” と言うけれど

 また、一般にアンダンテは 「歩く速さ」 と解釈され、学校での音楽の教科書等にもこのように書かれているのではないかと思います。 しかし実際に歩くといっても、ゆっくり歩く場合と、速く歩く場合では、速度が2倍以上は異なるでしょう。

 さらに、素朴な疑問といえるかも知れませんが、歩くと言った場合、1拍、つまり4分音符1個で片方の足なのか、それとも両足で1拍なのか、といった疑問もあります。

 このように一般に言われていたり、記述されていることを読んだりしただけでは、アンダンテがどのようなテンポかと言うことはわかりません。 そうなると、実際にアンダンテの曲はどう書かれ、どう演奏されているかを様々な曲で聴いてみるしかないでしょう。



モーツァルトは明らかにアンダンテを遅いテンポと考えている

 実際の講座ではモーツァルトのピアノ協奏曲第21番ハ長調K467の第2楽章を聴いてもらいました。 内田光子、ジェフリ・テイトの演奏では、 4分音符=56 くらいで、かなりゆっくりです。



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内田光子、ジェフリ・テイト のモーツァルトピアノ協奏曲集



 この演奏は特に遅いと言う訳でもなく、現在出されているCDとしては平均的なテンポと考えられます。 これくらいのテンポだと、ラルゴやアダージョなどともあまり変わらないでしょう。

 モーツァルトの場合、交響曲や協奏曲の第2楽章は、ほとんどアンダンテとなっています。 おそらく9割くらいはアンダンテとなっているでしょう。 残りはアンダンティーノ、ラルゲット、アレグレットとなっています。

 この時代の第2楽章は、基本的にゆっくりした楽章、つまり緩叙楽章となるので、少なくとも、モーツァルにとっては、アンダンテは「ゆっくり」 といったイメージなのではないかと思います。

 ただ、いろいろな状況からすると、モーツァルト自身はかなり速く演奏したようなので、今現在演奏されているよりは速めに演奏していたかも知れません。  また、「やや速く」 と言った意味のアレグレットも、場合によっては ”ゆっくりした曲” 扱いになるようです。



数字上ではもっと遅く演奏される場合もある

 その他、いろいろな作曲家の作品の演奏を聴いても、やはりアンダンテは中庸というより、”遅い曲” といった感じになっているようです。 私たちが演奏する際にも、そのように理解してもよいのではないかと思います。 講座のほうでは、バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番の「アンダンテ」も聴いてもらいました。

 この曲は拍子記号としては 「4分の3」 となっていますが、バスが8分音符の刻みになっていて、実際には4分音符ではなく、8分音符で拍子を取る感じになります (おそらく、ほとんどの演奏者はそうしていると思いますが)。  

 私もそうですが、他のヴァイオリニストも、8分音符=60~70 くらいで演奏しています。 そうでないと32分音符のところなどもの凄く速くなって演奏出来なくなったり、演奏出来たとしても相当せわしく、落ち着かないものになってしまいます。

 このテンポを4分音符1拍とすれば、30台となりますから、これはもうラルゴ、アダージョ・クラス、あるはそれ以下となるでしょう。 どう考えても中庸なテンポとは言えません。




アデリータとラグリマのテンポ

 ギターのほうでは、よくタレガの、アデリータ(Lento) と ラグリマ(Andante) のテンポが問題になります。 確かにタレガはこうした速度標語を厳密に考えて付けていたわけではなく、自分で演奏する時にもかなり感覚的にテンポを取っていたのではなかと考えられます。 

 しかしだからと言って、これらの速度標語を無視してしまってはタレガの音楽を正しく聴衆に伝えることは出来ないでしょう。 やはりレントとアンダンテの違いをよく考え、感じるべきだと思います。

 この2曲を著名なギタリストがどのようなテンポで演奏しているかと言うと、

<デビット・ラッセル>          アデリータ=78、  ラグリマ=76
<マリア・エステル・グスマン>     アデリータ=74   ラグリマ=70 
<ベルグストローム>          アデリータ=74   ラグリマ=74  




レントよりもアンダンテのほうが遅い?

 このようになっています。 本文中でも書いたたとおり、これではレントのアデリータとアンダンテのラグリマが、同じテンポ、あるいは逆転したテンポで演奏していると言えます。 これらのギタリストはタレガの付けた速度標語を無視しているのでしょうか? 

 そう言ったことも考えられなくはありませんが、講座の中でもやったとおり、アデリータとラグリマを全く同じテンポで弾くと、ラグリマの方が速いテンポに感じられます。 これはアデリータが4分音符中心で、ラグリマは完全に8分音符で刻んでいるので、そう感じるのだと思います。



ワルツ同様、1小節1拍?

 もう一つ考えられることとしては、 ショパンのワルツに「Lento」とされたものがありますが、これらの曲をほとんどのピアニストは 4分音符=130くらいで演奏しています。 この速さは普通に考えるとほとんどアレグロの領域ですが、ワルツの場合、4分音符=1拍 ではなく、1小節、つまり付点2分音符が1拍と感じられます。

 そうすると1拍=40 くらいとなり、確かにレントの範囲となります。 因みに速いワルツ、たとえば「子犬のワルツ」などは、一般に4分音符=300くらいで演奏されます。

 アデリータは「マズルカ」とされていて、マズルカはワルツよりは遅いですが、比較的速いテンポの踊りです。 ワルツと同様に1小節=1拍 と考えると、1拍=20台 ということで、かなりゆっくりなものになります。 




私自身はもっと遅く弾いている

 しかし、アデリータを1小節=1拍 で取るのはちょっと強引すぎると思います。 それではこの曲がかなり早く終わってしまい、聴く人にあまり印象を残さず終わってしまうことになります。 やはり、アデリータをじっくり聴いてもらうとすれば、4分音符=1拍 でよのではないかと思います。

 私自身ではアデリータを 4分音符=64、  ラグリマを68 くらいで演奏しています。 生徒さんにも同じくらいの速さ、またはそれよりも少し遅く弾くように指導しています。 プロのギタリストがアデリータやラグリマを速く弾いているからといって、一般愛好者の皆さんが同じようなテンポで弾くのは、あまりお薦め出来ません。



アンダンテの性格は?

 ところで、ラルゴとアダージョは全く性格が違うということでしたが、このアンダンテの性格とはどんなものなのでしょう。 一般にそうした”アンダンテの性格” などということはあまり語られることはないのですが、やはり性格があるのではないでしょうか、どんなひとにも性格があるように。

 一般に言われている、”歩く感じ” というのはちょっと微妙だと言いましたが、しかしやはりモーツァルトの曲を聴いていると、”そこに留まっている” 感じではありません。 確かに先に進んでゆく感じです。 もう少し具体的言いますと、伴奏を8分音符などで刻んでいる場合が多いようです。



遅いけれども、時間は先に進んでゆく。 私たちの人生のように・・・・

 確かに、それを”歩くような感じ” と言えなくもないのですが、歩くと言っても本当に右、左と足を出す感じではなく、何か、抽象的に時間が先に、先にと進んでゆく感じと言った方がよいかも知れません。  つまり遅いけれども、同じところに留まっているわけではない。 モーツァルトのアンダンテを聴くとそんな風に感じられます。

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