中村俊三 ブログ

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<バッハ・シャコンヌ再考 22>



8×32=256 バッハは小節数にこだわった

 今回からバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番第5楽章「チャコーナ」全256小節を、具体的に考えて行きます。 といっても2008年に記事と重複する部分はかなりありますが、改めて書いてゆきます。

 全部で256小節と言うのは、8小節のテーマ、および変奏が32で、計256小節になるということです。 ゴールドベルク変奏曲も32小節×32なので、チャコーナの4倍の1016ということになりますが、バッハはこのように4、または8の累乗数にこだわることがあります。



音楽には基本原理があると考えていた

 もちろんすべての曲についてではありませんが、重要な曲ではこのような傾向があります。 バッハ以外の同時代の音楽家で同様な傾向のある人がいるかどうかは、よくわかりませんが、決して多いとは言えないでしょう。 これは、バッハが、音楽とは、ただ耳を喜ばせるものではなく、絶対的な原理のもとに成り立つものと考えていたのでしょう。

 その ”絶対的な原理” を ”神” と呼べば、たしかにそうなのかも知れませんが、しかしその ”神” とは日本の神様のように人間的なものではなく、あくまで概念上のものと考えられます。 



実際は4×64と考えた方がよい

 数字的に見れば、チャコーナは8小節のテーマに30の変奏が続き、最後にまた8小節のテーマに戻ると見えますが、しかし実際にこの曲を見てゆくと、8小節ではなく、4小節のテーマ、および変奏と考えたほうがよさそうです。 そして、場合によっては、その4小節のテーマ、および変奏が、2つ対になって8小節単位になることもあります。

 曲の長さからすれば、4小節のテーマというのは短かすぎるように思いますが、もちろんそれはバッハが必要上、あえてそうしたものでしょう。 



短調⇒長調⇒短調 というのはよくある

 チャコーナ全体を見ると、最初から132小節の1拍目までがニ短調、 そこから208小節の1拍目までがニ長調、そこから最後までが再びニ短調で、短調⇒長調⇒短調 という構成になります。

 これは特別なものではなく、他の作曲家も長いチャコーナなどは、このように短調、長調を入れ替えて作曲していたようです。 ただ、どちらかと言えば、チャコーナの場合、 長調⇒短調⇒長調 のほうが多かったようです。



長さの比は、ほぼ3:2:1

 3つの部分に分けられるといっても、数字からわかるように均等に3分割しているわけではなく、最初の短調が最も長く、順に短くなってゆきます。 だいたいで言えば、 3:2:1 の関係になっています。 

 これは3楽章の協奏曲などの比率と同じで、このチャコーナは疑似的に3楽章形式になっているといってもよいでしょう。 したがって、単に短調、長調が入れ替わるだけでなく、それぞれの部分がはっきりした ”まとまり” や、個性を持っています。



2拍目から始まるシャコンヌは特に一般的ではない

 さて、皆さんもご存じのとおり、このチャコーナは1拍目からではなく、2拍目から始まります。 私もかつては、当時のシャコンヌはすべてこのように2拍目から始まり、また付点音符のリズムを持ったものと、漠然と思っていました。 CDなどの解説にも「シャコンヌとはスペイン起源の、付点音符を含むリズムの舞曲」 と言ったような内容がよく見られます。

 しかしこれまで見てきたとおり、チャコーナ、及びシャコンヌが常に付点音符を持つわけでもなく、まして、2拍目から始まるものも、ほぼ皆無といってよいでしょう。 確かにフランスのフランソワ・クープランのシャコンヌは付点音符を持つものが多く、中にはバッハのチャコーナ同様、2拍目から始まるものもあります。



あくまでもイタリア風。 だから ”シャコンヌ” ではなく ”チャコーナ” と書いた

 解説書などには、「バッハのチャコーナは、フランソワ・クープランの影響を受けている」 と書いてあるものもあります。 しかしよく考えてみると、フランソワ・クープランのシャコンヌは、バッハのチャコーナのように変奏曲形式ではなく、ロンド形式で出来ています。

 どう考えてもバッハのチャコーナはクープランなどのフランスの音楽の影響を受けているというより、やはりイタリア式のものです。 だからバッハは自らの作品に 「シャコンヌ」 ではなく、 「チャコーナ」 とタイトルを付けている訳です。 



舞曲的な要素は少ない

 また、 「バッハのシャコンヌは基本的に ”舞曲” であるから、まずシャコンヌの踊り方がわからなければ、あるいは実際に踊れなければ、この曲の正しい演奏は出来ない」 と言ってる人もいます。

 確かにシャコンヌは、元々舞曲ではありましたが、しかしバッハはチャコーナを舞曲としてではなく、変奏曲の一つの形式と考えていた方が大きいのではないかと思います。

 明確な根拠を述べるのは難しいですが、ただバッハの性格として、自らの作品で踊ってもらうより、じっと静かに聴き入ってほしいと考えていたほうが自然な感じがします。 バッハのチャコーナは、それで踊るよりも、イスに座って集中し、じっと聴き入った方がずっといいと、誰しも思うでしょう。 そのことは当時も、今現在もあまり変わらないのではと思います。



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チャコーナ(シャコンヌ)がこのように2拍目から始まり、付点音符を持つのは、特に一般的とは言えない。 バッハの深い意図があって、このような形になったと考えられる。



チャコーナのテーマが2拍目から始まり、付点音符を含むのは深い意図があってのこと

 結論として、バッハがこの曲を2拍目から始め、付点音符を含むテーマにしたというのは、決して慣例に従ったものではなく、非常に強い意志でこの音型を選んだと言えるのではないかと思います。 バッハは何の考えもなく音符を書ける人ではない、と私は勝手に思っています。
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