中村俊三 ブログ

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<バッハ・シャコンヌ再考 25>



4小節単位か、8小節か?



 バッハのチャコーナのテーマは8小節か、4小節かと言うことは前にも若干触れましたが、もう一度考えておきましょう。 この曲の出だしの部分を聴いてみると、4小節のフレーズがほぼ繰り返しのようになっていて、8小節でひとまとまりとなっているように聴こえます。 全体の小節数を見ても、 8小節×32(テーマが最初と、最後に表れ、変奏が30)=256小節  となります。

 ゴールドベルク変奏曲は、明らかにテーマ及び各変奏は16小節で、計 16×32=1024小節 となっています。 ヴァイスなどのチャコーナやパッサカリアも7、または8小節なので、バッハのチャコーナも8小節単位と考えるのが自然なようです。



最初の方だけ見ると、確かに8小節だが

 これで決まりかといえば、もちろんそうではありません。 確かに、最初のテーマと、次の二つの ”8小節” (0~23小節)を見ると、前半の4小節と後半の4小節はほぼ同じものになっていて、確かに8小節で一つのテーマ及び変奏の形になっています。 この部分だけを見れば、間違いなく8小節のテーマ、および変奏と考えられます。



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この譜面では、冒頭の不完全小節を ”1” としているので、本文中の小節数と異なる



いつの間にか4小節単位、見方によっては16小節単位にも

 その後の16小節(24~39)も、後半の4小節は前半の4小節の変奏のようになっていて、やはり8小節単位と考えられます。 しかし次の小節(40小節)あたりから微妙になり、4小節ずつ独立しているようにも見えます。 特に48~63小節の16小節は、次の64~79小節で変奏され、ここでは16小節単位のようにもなっています。

 その先を見ていっても4小節ずつ対になっているものはほとんど見られず、4小節ずつ独立しているように見えます。 つまり4小節ずつ対になっていて、8小節ひとまとまりの形になっているものは、冒頭のテーマから5回のみで(最後にもう一度テーマが出てくるが)、他は4小節単位と考えられます。



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4小節はしっかりとまとまっていて、分解されることはない

 逆に言えば、4小節は必ず一つのまとまりを示していて、これが2小節ごとに分解されるようなことはありません。 和声進行などはそれぞれ若干異なりますが、4小節の中で、主和音で始まり、主和音で終わり、必ず完結しています。



構造を作るためには、材料は小さい方が良い

 バッハのチャコーナが一般の変奏曲と最も異なる点は、各変奏を組み合わせて、”構造” を形成しているところにあると思いますが、そのために8小節ではなく、4小節単位としたのでしょう。 4小節単位というのはちょっと短すぎる感じがしますが、そうした理由があるのではないかと思います。



一般の変奏曲とは全く概念が違う

 一般的に変奏曲というのは、各変奏ごとに音楽的には完結されていて、他の変奏とは比較的緩やかに結合されていることが普通です。 確かに変奏の順番は、動きの活発なものと、落ち着いたものを交互にするとか、だんだん盛り上がるようにするとか、同じようなものが続かないようにするなど、ある程度考慮しますが、多少変奏の順番を入れ替えたとしても、それほど違いがないことが多いようです。

 タレガの「グランホタ」や「ベニスの謝肉祭」などはタレガ自身が異なるバージョンをいくつか残しています。 おそらく実際に演奏する場合は、変奏を入れ替えたり、省略したり、順番を変えたりなど、自由に演奏していたものと思われます。

 もちろんそうした一般的な変奏曲とバッハのチャコーナは全く違う作品です。 バッハのチャコーナに於いて、変奏を入れ替えるとか、省略するとか、新たに付け加えるなどと言ったことは、全く考えることが出来ないでしょう(幸いにもそうしたものを聴いたことはありませんが)。



縦にならないから、横にした?

 バッハのチャコーナは4本しか弦がない、1台のヴァイオリンのために作曲されているので、当然のことながら、同時にたくさんの音や旋律を鳴らすことが出来ません。 つまり ”縦” にはあまり構造が出来ないということです。 縦に作れないら、横に作ればよい、それがバッハの考えだったのではと思います。 

 1台のヴァイオリンのために書かれたバッハのチャコーナは、縦に構造が作れないために横に構造を作った。 しかし原則、この曲は変奏曲なので、4小節という和声的なまとまりは厳守した。

 以前の記事で、「生命体が分子からタンパク質を作り、たんぱく質から細胞、細胞から組織・・・・」 といったようなことを書きましたが、4小節の変奏が、まるで生命体の細胞のような役割をし、そして組織が作られると言ったようなことが連想されます。



でも、やはりテーマなどの冒頭では8小節単位になるようにした

以上のように、バッハは基本的に4小節のテーマでチャコーナを作曲したが、しかしせっかくインパクトの強いテーマも4小節ではさすがに印象が弱くなる。 したがって冒頭ではその4小節を繰り返して8小節のまとまりとし、一見8小節のテーマに見えるようにした。 

 もちろんバッハはこのテーマを大事にし、それに続く8小節×2は最初のテーマをなぞる形にしてある。 仮に8小節のテーマとすると、それに続く第1、第2変奏は文字通り、テーマの変奏と言うことになります。 その後もある程度は8小節のまとまりを意識しながらも4小節が独立したようになり、アルペジオ部分では完全に4小節単位の変奏となってゆきます。 徐々にその本性を表すわけですね。


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これもバッハ・マジック?

 つまり聴いているほうからすれば、8小節のテーマとその変奏だなと、感じる訳ですが、実質はそうではない。 最後にもう一度8小節のテーマが表れるので、 特に気にするか、よほど注意深く聴かないと、この曲が4小節の変奏曲であることがわからない。

 別の言い方をすれば、当時の人も、何気なくこの曲を聴いていると、多少変わった感じではあるが、まあ、形的には普通のチャコーナかな、と聴こえるのではないかと思います。 相変わらずバッハは手品みたいなことをしますね。
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