中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

<バッハ・シャコンヌ再考 33>



ヘンリク・シェリング(1918~1988)  1967年録音



1960年代的な演奏の代表

 バッハの演奏は、20世紀になってから出来るだけ客観的に考えるようになりました。 今現在(21世紀)では、バッハの時代にはどのように演奏されたかということを最も重んじますが、1960年代では、前回お話したとおり、バッハの残した譜面に出来るだけ忠実にといった考えが一般的で、その代表が、このシェリングの演奏でしょう。 


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 シェリングは、ウィスキーのCMではありませんが、「何も加えず、何も引かず」 と、譜面に書かれていないことは、一切やらないといった姿勢です。 前回のグリュミオーの演奏もそうしたものですが、 このシェリングの演奏などは、さらに徹底しているようです。



ランキング1位

 このシェリングのバッハの演奏は、録音当時から現代まで、音楽雑誌のランキングでは、常に1位、または上位にランキングされており、 専門家からも、一般愛好家からもたいへん高く評価されています。 

 シェリングの演奏は、1音1音を書かれた音符の長さいっぱいに響かせ、短い音符もおろそかにすることなく、しっかりと鳴らしています。 テーマの付点4分音符の後の8分音符も短くすることなく、しっかりと半拍分伸ばしています。

 そう言えば、この8分音符に低音を添えて弾くヴァイオリニストと、そうでないヴァイオリニストがいますが、 シェリングはこの8分音符にも低音を添え、重厚さと力強さを出しています。


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肉厚で美しい音、威厳に満ちたバッハ演奏の標準形

 強弱やアーテキュレーションなどを全く付けていないわけではないのですが、たいへん控えめで、ちょっと聴いた感じではどの音も同じように発音されています。 演奏時間は 14:24 と、中庸、やや遅めといったところですが、聴いた感じではもっと遅く感じます。 1音1音をしっかりと鳴らしているせいでしょう。 また音色も肉厚でたいへん美しい音です。

 久々に聴くと、やはり素晴らしい演奏で、感動的でもあります。 おそらく私たち世代のバッハ・ファンにとっては、バッハのシャコンヌの標準形、この演奏によってバッハのチャコーナのイメージが作られたのではと思います。 まさに威厳に満ちたバッハの音楽の象徴のような演奏です。 

 このシェリングのような演奏スタイルは、今日ではやや影を潜めていますが、やはり不朽の名演奏といってよいでしょう。





 
ナタン・ミルシテイン(1904~1992)  1973年録音

 ミルシテイン69歳の頃の録音ということで、ミルシテインとしては晩年の録音ということになります。 演奏の基本スタイルとしては前述のシェリングと同じですが、ミルシテインの場合はやや自由に弾いています。 


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無骨で硬派な演奏

 音色はあまり美しいとは言えませんが、力強く、また躍動感も感じます。 あまり極端ではありませんが、シェリングに比べると短い音符は短く、速いところはより速く、つまりややヴィルトーゾ的な方向性といえるでしょう。 アーティキュレーションもやや自由に行っています。 無骨で硬派な演奏といえるでしょうか。






チョン・キョンファ(1948~ )  1974年録音

 韓国出身のヴァイオリニスト、チョン・キョンファ は無伴奏ソナタとパルティータの全曲は録音していませんが、このチャコーナが含まれるパルティータ第2番とソナタ第3番を、20代で録音しています。 


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しなやかなヴァイオリンの音

 この演奏の特徴は、何といってもヴァイオリンの美しさと、歌心でしょう。 長い音符などは音の出だしよりも後の方を膨らすと言った感じで、楽器の音を美しく響かせると言ったことに重点が置かれているようです。 

 強弱やの変化やアーテキュレーションも積極的に付け、各部分の表情の変化をしっかりと表現しています。 どちらかと言えば、バッハを聴くというより、チョン・キョンファのヴァイオリンを聴くといった録音ですが、ヴァイオリンの好きな方、あるいはチョン・キョンファ・ファンにはたまらない1枚でしょう。 かく言う私も20代の頃、彼女のヴァイオリンの音に酔いしれた一人です。

 




ジャン・ジャック・カントロフ(1945~)  1979年録音


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爽やかで美しい音

 カントロフのヴァイオリンの音は、透明感のある美しいものと言えるでしょう。 特定の音を強く弾いたり(弱音はあるが)、スタッカートを使ったりなど極端なことはあまりせず、全体にレガートに、また品よく演奏しているといった感じです。

 その分、やはりどこか ”ひ弱さ” のようなものを感じてしまうのは私だけでしょうか。 音楽の内容もちょっと伝わりにくいような気もします。 ・・・・個性的な演奏を聴き過ぎたせいかも知れない。  

 カントロフの演奏には気負った感じが全然しませんが、そう聴こえるのは技術的には非常に高いものを持っているということでしょう。  爽やかで、なめらか、肩の凝らないバッハといった感じで、好みに合う人は決して少なくないでしょう。
 
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