中村俊三 新春コンサート 曲目解説
1月20日(日) 14:00 ひたちなか市アコラ
フェルナンド・ソル : 序奏と 「私が羊歯だったら」 による主題と変奏 作品26
あの娘が敷いて座っている羊歯になりたい?
ソルには 「モーツァルトの『魔笛』による主題と変奏」、 「『マールボロは戦争に行った』による主題と変奏」 などの変奏曲を書いています.。
この「私が羊歯だったら」の変奏曲は、それらよりも若干 ”小ぶり” なもので、序奏も短く、変奏も4つで、コーダもなく、第4変奏がコーダの代わりとなっています。
主題となった「私が羊歯だったら」 という曲は当時フランスで流行した歌だそうです。
「私が、あの娘がその上で体を休める羊歯だったらいいのに」 といったような歌のようです。
しっとりとしたテーマで、最後は軽快に
序奏とテーマはイ短調で 「アンダンテ・ラルゴ」 と書かれ、しっとりとした曲ですが、第1、2変奏は若干速めのテンポを取るのではないかと思います。
第3変奏は長調に変わり、「レント・カンタービレ」と書かれ、よりゆっくり歌うようにとされています。
第4変奏は、前述の通りコーダの代わりともなっているので、「アンダンテ・アレゴロ」と書かれ、速めのテンポをとることが指示されています。
コンパクトにまとまっていて、なかなか聴きやすいだと思います。
エイトール・ヴィラ=ロボス : ブラジル民謡組曲
マズルカ・ショーロ
ショティッシュ・ショーロ
ワルツ・ショーロ
ガヴォット・ショーロ
ショリーニョ
ヴィラ=ロボスはかなりの多作家
私たちギターをやるものにとって、ブラジルの作曲家、エイトール・ヴィラ=ロボス はたいへん馴染みのある作曲家です。
ヴィラ=ロボスのギター作品はそれほど多くなく、独奏曲だけならCD1枚に収まってしまうくらいですが、ヴィラ=ロボスの残した作品は、交響曲などのオーケストラ曲から室内楽、協奏曲、ピアノ曲、各種器楽曲、声楽曲と多岐にわたり、ほぼクラシック音楽のほとんどのジャンルを網羅しています。
作品の総数も多く、多作家の一人といえるでしょう。
またその作風もブラジル音楽一辺倒ではなく、ロマン派的なものから印象派的なもの、あるいはストラヴィンスキー的なものまで、たいへん幅広く、なかなか一言では説明できない作曲家だと思います。
「ブラジル民謡組曲」は比較的初期の作品
この5曲のショーロからなる 「ブラジル民謡組曲」 は1908~1912年にかけて作曲され、ヴィラ=ロボスのギター曲としては初期の作品です。
ヴィラ=ロボスはリオデジャネイロの出身で、小さい頃から正統的な音楽を学びましたが、若い頃よりブラジルの民族音楽には強い興味を持っていたそうです。
ヴィラ=ロボスは後にフランスで音楽を学び、印象派、あるいは近代の音楽の影響を受け、ギター曲でも 「12の練習曲」=1929年作曲 などはそうした影響がみられます。
そういった意味では、この 「ブラジル民謡組曲」 は作曲技法的には、まだ古典的、あるいはロマン派的な音楽の範疇に入ると思われます。
ヨーロッパの音楽とブラジル音楽の融合
「ショーロ」とは19世紀においてブラジルのポピュラー音楽、あるいはそれを演奏する楽団を意味する言葉で、この組曲においては、その言葉に、ヨーロッパ各地の舞曲である「マズルカ」、「ワルツ」、「ガヴォット」などの言葉がかぶせられています。
ブラジルの民族音楽とヨーロッパの伝統音楽の融合といったところでしょうか。
因みに 「ショティッシュ」 とはスコットランド風と言った意味です。
実際に聴いた感じでは、あまりブラジル的な感じはせず、通常のクラシック音楽、つまりヨーロッパ的な音楽といった感じがします。
もっとも、ヴィラ・ロボスの場合、ブラジル的といってもサンバとかボサ・ノバとかといったものではなく、アマゾンの奥地に住む原住民の音楽からインスパイアーされたものであるようです。
一般にブラジル音楽というと、軽快なリズムが特徴ですが、ヴィラ=ロボスの ”ブラジル” は力強く、始原的なエネルギーに満ちたものと言えるでしょう。
「ショリーニョ」 は小さなショーロ
5曲目の「ショリーニョ」ですが、意味としては 「小さなショーロ」、 あるいは「ショーロぽい曲」 といったものですが、この曲のみ、確かに私たちが知っているブラジル的な音楽になっています。
つまりシンコペーションが多く、軽快なリズムの曲となっている訳です。 ただし軽快なテンポなのは中間部のみで、その前後にはシンコペーションは多用しているものの、ゆっくりとしたテンポで演奏されます。
ジュリアン・ブリームはこの曲のみ録音しなかった
かつてジュリアン・ブリームは 「音楽的効果が低いから(つまり内容がイマイチだから)」 といった理由でこの曲をレコーディングしませんでした。
おそらくブラジルのポピュラー音楽ぽいところがブリームにとっては拒絶反応に繋がったのでしょう。
しかし今現在のクラシック・ギター愛好家も、またギタリストも南米系のポピュラー音楽には日頃から馴染むようになっていて、最近ではそうした違和感を感じる人は少なくなったのではと思います。

ジュリアン・ブリームの1978年のLPで、ヴィラ=ロボスの「12の練習曲」と「ブラジル民謡組曲」を収録しているが、「ショリーニョ」だけは外している。 収録時間の問題ではなく、明らかに”嫌って”いる。
どこかで聴いたことがある
さて、この ”ノリのよい中間部” ですが、以前からどこかで聴いたことがあって、その時には 「ヴィラ=ロボスはここからメロディを持ってきたのかな」 と思っていたのですが、いつの間にか、それがどの曲だか忘れてしまいました。
私が持っているCDの中にあるのは間違いないので、心当たりをいろいろ探していたのですが、やっと見つかりました。
それはソプラノ歌手のキャスリン・バトルとギタリストのクリストファー・パークニングが1985年に録音したCDでした。
この中にヴァルジマール・エンリーケ作曲の「ボイ・ブンバ」という、ブラジルのポピュラー・ソングが含まれ、そのメロディがショリーニョの中間部によく似ている訳です。
完全に同じではありませんが、無関係でもないでしょう。
しかしこのエンリーケという作曲家は1905年生まれだそうで、ヴィラ=ロボスがエンリーケの曲を引用したということではなさそうです(その逆も考えにくい)。
おそらくこのメロディはその当時(20世紀初頭)ブラジルでく流行っていたメロディで、それを基に、二人のが別個に作曲したということなのではないかと思います。

キャスリーン・バトル(ソプラノ)とクリストファー・パークニングが共演した1985年のCD。 この中の「ボイ・ブンバ」がショリーニョの中間部によく似ている。
当ブログだけの耳よりの情報
因みに、この話、CDの解説やウィキペディアなどには載っていないので、当ブログだけの耳よりの情報です!
1月20日(日) 14:00 ひたちなか市アコラ
フェルナンド・ソル : 序奏と 「私が羊歯だったら」 による主題と変奏 作品26
あの娘が敷いて座っている羊歯になりたい?
ソルには 「モーツァルトの『魔笛』による主題と変奏」、 「『マールボロは戦争に行った』による主題と変奏」 などの変奏曲を書いています.。
この「私が羊歯だったら」の変奏曲は、それらよりも若干 ”小ぶり” なもので、序奏も短く、変奏も4つで、コーダもなく、第4変奏がコーダの代わりとなっています。
主題となった「私が羊歯だったら」 という曲は当時フランスで流行した歌だそうです。
「私が、あの娘がその上で体を休める羊歯だったらいいのに」 といったような歌のようです。
しっとりとしたテーマで、最後は軽快に
序奏とテーマはイ短調で 「アンダンテ・ラルゴ」 と書かれ、しっとりとした曲ですが、第1、2変奏は若干速めのテンポを取るのではないかと思います。
第3変奏は長調に変わり、「レント・カンタービレ」と書かれ、よりゆっくり歌うようにとされています。
第4変奏は、前述の通りコーダの代わりともなっているので、「アンダンテ・アレゴロ」と書かれ、速めのテンポをとることが指示されています。
コンパクトにまとまっていて、なかなか聴きやすいだと思います。
エイトール・ヴィラ=ロボス : ブラジル民謡組曲
マズルカ・ショーロ
ショティッシュ・ショーロ
ワルツ・ショーロ
ガヴォット・ショーロ
ショリーニョ
ヴィラ=ロボスはかなりの多作家
私たちギターをやるものにとって、ブラジルの作曲家、エイトール・ヴィラ=ロボス はたいへん馴染みのある作曲家です。
ヴィラ=ロボスのギター作品はそれほど多くなく、独奏曲だけならCD1枚に収まってしまうくらいですが、ヴィラ=ロボスの残した作品は、交響曲などのオーケストラ曲から室内楽、協奏曲、ピアノ曲、各種器楽曲、声楽曲と多岐にわたり、ほぼクラシック音楽のほとんどのジャンルを網羅しています。
作品の総数も多く、多作家の一人といえるでしょう。
またその作風もブラジル音楽一辺倒ではなく、ロマン派的なものから印象派的なもの、あるいはストラヴィンスキー的なものまで、たいへん幅広く、なかなか一言では説明できない作曲家だと思います。
「ブラジル民謡組曲」は比較的初期の作品
この5曲のショーロからなる 「ブラジル民謡組曲」 は1908~1912年にかけて作曲され、ヴィラ=ロボスのギター曲としては初期の作品です。
ヴィラ=ロボスはリオデジャネイロの出身で、小さい頃から正統的な音楽を学びましたが、若い頃よりブラジルの民族音楽には強い興味を持っていたそうです。
ヴィラ=ロボスは後にフランスで音楽を学び、印象派、あるいは近代の音楽の影響を受け、ギター曲でも 「12の練習曲」=1929年作曲 などはそうした影響がみられます。
そういった意味では、この 「ブラジル民謡組曲」 は作曲技法的には、まだ古典的、あるいはロマン派的な音楽の範疇に入ると思われます。
ヨーロッパの音楽とブラジル音楽の融合
「ショーロ」とは19世紀においてブラジルのポピュラー音楽、あるいはそれを演奏する楽団を意味する言葉で、この組曲においては、その言葉に、ヨーロッパ各地の舞曲である「マズルカ」、「ワルツ」、「ガヴォット」などの言葉がかぶせられています。
ブラジルの民族音楽とヨーロッパの伝統音楽の融合といったところでしょうか。
因みに 「ショティッシュ」 とはスコットランド風と言った意味です。
実際に聴いた感じでは、あまりブラジル的な感じはせず、通常のクラシック音楽、つまりヨーロッパ的な音楽といった感じがします。
もっとも、ヴィラ・ロボスの場合、ブラジル的といってもサンバとかボサ・ノバとかといったものではなく、アマゾンの奥地に住む原住民の音楽からインスパイアーされたものであるようです。
一般にブラジル音楽というと、軽快なリズムが特徴ですが、ヴィラ=ロボスの ”ブラジル” は力強く、始原的なエネルギーに満ちたものと言えるでしょう。
「ショリーニョ」 は小さなショーロ
5曲目の「ショリーニョ」ですが、意味としては 「小さなショーロ」、 あるいは「ショーロぽい曲」 といったものですが、この曲のみ、確かに私たちが知っているブラジル的な音楽になっています。
つまりシンコペーションが多く、軽快なリズムの曲となっている訳です。 ただし軽快なテンポなのは中間部のみで、その前後にはシンコペーションは多用しているものの、ゆっくりとしたテンポで演奏されます。
ジュリアン・ブリームはこの曲のみ録音しなかった
かつてジュリアン・ブリームは 「音楽的効果が低いから(つまり内容がイマイチだから)」 といった理由でこの曲をレコーディングしませんでした。
おそらくブラジルのポピュラー音楽ぽいところがブリームにとっては拒絶反応に繋がったのでしょう。
しかし今現在のクラシック・ギター愛好家も、またギタリストも南米系のポピュラー音楽には日頃から馴染むようになっていて、最近ではそうした違和感を感じる人は少なくなったのではと思います。

ジュリアン・ブリームの1978年のLPで、ヴィラ=ロボスの「12の練習曲」と「ブラジル民謡組曲」を収録しているが、「ショリーニョ」だけは外している。 収録時間の問題ではなく、明らかに”嫌って”いる。
どこかで聴いたことがある
さて、この ”ノリのよい中間部” ですが、以前からどこかで聴いたことがあって、その時には 「ヴィラ=ロボスはここからメロディを持ってきたのかな」 と思っていたのですが、いつの間にか、それがどの曲だか忘れてしまいました。
私が持っているCDの中にあるのは間違いないので、心当たりをいろいろ探していたのですが、やっと見つかりました。
それはソプラノ歌手のキャスリン・バトルとギタリストのクリストファー・パークニングが1985年に録音したCDでした。
この中にヴァルジマール・エンリーケ作曲の「ボイ・ブンバ」という、ブラジルのポピュラー・ソングが含まれ、そのメロディがショリーニョの中間部によく似ている訳です。
完全に同じではありませんが、無関係でもないでしょう。
しかしこのエンリーケという作曲家は1905年生まれだそうで、ヴィラ=ロボスがエンリーケの曲を引用したということではなさそうです(その逆も考えにくい)。
おそらくこのメロディはその当時(20世紀初頭)ブラジルでく流行っていたメロディで、それを基に、二人のが別個に作曲したということなのではないかと思います。

キャスリーン・バトル(ソプラノ)とクリストファー・パークニングが共演した1985年のCD。 この中の「ボイ・ブンバ」がショリーニョの中間部によく似ている。
当ブログだけの耳よりの情報
因みに、この話、CDの解説やウィキペディアなどには載っていないので、当ブログだけの耳よりの情報です!
スポンサーサイト