中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

Pablo Sainz Villegasu  2003年タレガ国際ギター・コンクール1位


新進演奏家 014


トゥリーナ : セビーリャ幻想曲、 タレガを讃えて
モレーノ・トロバ : ソナタ~幻想曲、 トリーハ、シグエンサ、 カスティーリャ組曲
ロドリーゴ : 小麦畑で、 祈りと踊り
ファリャ : ドビュッシー讃歌
ジェラルド : 幻想曲~カンタレスの間奏
セゴヴィア : 5つの逸話
タレガ : マリア(ガヴォット)


オール・スペイン

 新進演奏家シリーズもしばらくぶりになりましたが、今回は少し古くなって、2004年5月に録音されたパブロ・サインス・ビジェガスのCDの紹介です。ビジェガスは1977年スペイン生まれということで録音当時27歳、今年34歳になります。

 上の曲目リストでもわかるとおり、このCDはオール・スペイン物で、またかなり盛りだくさんの内容になっています。収録時間も他のCDは60分前後のものがほとんどだったのですが、このCDは75分余りとなっています。



キレのよいラスゲアード

 最初のトゥリーナの「セビーリャ幻想曲」の冒頭は、スペインのギタリストらしく切れのよいラスゲアードで、16分音符もきれいに16分音符になっています。また歌わせるところの音色は、とてもギターらしい美しい音になっていて、リズムのキレも、しっとりとした表情もどちらもたいへんよく出ています。

 また音階的な部分の音を、各音の余韻を重ねて弾いているのが特徴的で、そうしたことは他の曲でも行なっています。ピアノのペダルを使用したような効果を出しています。



なぜ埋もれてしまったのか、トロバの秘曲

モレーノ・トロバの「ソナタ~幻想曲」は世界初録音だそうで、私もこの曲の存在はこのCDで出会うまで知りませんでした。このCDの解説によれば、2001年にアンジェロ・ジラルディーノというギタリストがセゴヴィアの手書き譜の中から発見したそうです。

 この曲は3つの楽章からなる17分ほどの曲で、なかなか充実した曲だと思います。なぜこのような大曲が埋もれてしまったのかは不思議です。またなぜセゴヴィアはなぜこの曲を世に出さなかったのでしょうか。

 第1楽章は10分ほどあり、曲全体の比重が第1楽章に置かれているようです。この第1楽章に関する限りでは、他のトロバの曲のように明るく、軽快な感じはなく、また先のトゥリーナの曲のようにスペイン的な響きや、またフラメンコ的なリズムも聴かれません。どちらかと言えばシリアスな感じとか、文字通り幻想的といった感じの方が顕著です。

 第2楽章は1分半程の短い曲で、ユーモアのある感じ、第3楽章はロンドでスペイン的なリズムを感じる曲ということで、この二つの楽章はどちらもトロバらしい曲になっています。


トロバの音楽の魅力を十分に

 幻想曲に続いて「スペインの城」から2曲と「カスティーリャ組曲」を演奏しています。どちらもトロバの作品としてはよく演奏されるものです。「カスティーリャ組曲」はトロバの初期の作品で、セゴヴィアのSPにも録音されています。「スペインの城」は1960年代の作品で「トリーハ」の冒頭は山田耕作の「この道」に似ています。

 ビジェガスの演奏は張りのある音としっとりとした音を巧みに使い分け、トロバの音楽の魅力を十分に出しています。またテンポのとり方やリズムの刻み方も違和感なく自然に聴けます。



ロドリーゴの二つの作品~派手なパフォーマンスではないが

 次にロドリーゴの「小麦畑で」と「祈りと踊り」を演奏しています。「小麦畑で」は前述のように切れのよい音としっとりとした音を使い分けた演奏で、この曲の魅力を十分出していますが、派手なパフォーマンスは控え、真摯に作品と向かい合っている感じがします。

 「祈りと踊り」はマヌエル・ファリャを讃えた作品で、所々ファリャの作品が引用されています。またコンクールなどでもよく演奏され、若いギタリストが自らの技術と音楽性をアピールするための重要な曲にもなっています。また譜面は何通りかあるようで、私自身はアリリオ・ディアス版とホアキン・ロドリーゴ版を持っていますが、ビジェガスの演奏はそのどちらでもないようです。

 ビジェガスの演奏は的確な表現をしつつも、音量的にも音色的にもはみ出すことなく、清楚と言える演奏で好感が持てます。もちろん技術的にはかなり難しい曲ですが、そういったことを全く感じさせないなどということは、あらためて言うまでもないことでしょう。


ファリャとジェラルドの作品 

 次にマヌエル・ファリャの唯一のギター・オリジナル曲の「ドビュッシー賛」を演奏しています。もちろん先のロドリーゴの曲との関連でしょう。ドビュッシー → ファリャ → ロドリーゴ と言う構図なのでしょう。

 ロベルト・ジェラルドはスペイン生まれですが、ドイツ系スイス人の両親を持ち、グラナドス、ペドレル、シェーンベルクなどに音楽を学んだ作曲家だそうです。曲のほうはスペイン風というよりは、無調的な曲です。


セゴヴィアの作品、これも初演

 次にアンドレ・セゴヴィアの「5つの逸話」を演奏しています。この曲も世界初録音だそうで、確かに初めて聴く曲です。セゴヴィア自身でもあまり演奏はしていなかったのではと思います。それぞれ1~2分程度の短い曲で、トロバとポンセとテデスコを合わせたような曲、などというと、ちょっと安易な例えになってしまいますが、強いていえばテデスコの曲に一番近そうです。
 
 それぞれなかなかチャーミングな曲ですが、セゴヴィアの曲らしく、ギターのさまざまなニュアンスが表現できる曲、逆に言えばそうしなければよい音楽にならない曲といえるでしょう。ビジェガスの演奏を聴いていると、いつのまにかセゴヴィアが弾いているように錯覚してしまいます。ただし、かなり行儀のよいセゴヴィアですが。


何気なく弾いているが

 このシリーズではタレガ国際ギター・コンクールの優勝者は必ずタレガの曲をCDに収めることになっているようですが、このビジェガスは「マリーア(ガヴォット)」を選択しています。軽くさっと一筆書きにしたような演奏ですが、よく聴くとテンポの変化、音色、強弱などたいへん適切になっています。そうしたことがしっかりと身に付いたギタリストなのでしょう。
 このカテゴリもしばらく休みになってしまいましたが、そろそろ再開しましょう。予定ではこのCDを含めてあと3枚紹介しようと思っています。




Goran Krivokapic   セルビア出身 2004年GFA優勝


新進演奏家 012


フランツ・ヴェルトミュラー : ソナタイ長調作品17
J.S.バッハ : ソナタ第3番ハ長調BWV1005(無伴奏ヴァイオリンのための)
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタK.162、K.208、K209
デュシャン・ボグダノヴィッチ : ギターのためのソナタ第2番


 今回のCDは2005年の4月に録音された、セルビアのベオグラード出身のギタリスト、ゴラン・クリヴォカピッチのものです。クリヴォカピッチは1979年生まれということで今年で32歳になりますが、東ヨーロッパ諸国からは優れたギタリストが多数現れています。

 これまで紹介したCDは、バッハの作品を除けばほとんどギターのオリジナル作品でプログラムが構成されていました。このシリーズのCDは実質上の国際デビューということもあって、そうした形になっているのではないかと思いますが、そうした中にあって、珍しくこのクリヴォカピッチのCDは編曲作品が多くなっており、最後のボグダノヴィッチの「ソナタ」を除いてすべて編曲作品となっています。



ヴェルトミュラーのソナタ = 聞いたことのない作曲家だが

 最初の曲はヴェルトミュラーの「ソナタ」ですが、ヴェルトミュラー(1769~1841)はベートーヴェンと同世代の作曲家で、名前からすればオーストリア生まれと思われますが、残念ながら詳しいことはわかりません。ギターへのアレンジは演奏者自身のものではなく、19世紀のオーストリアのギタリスト、Franz Pfeiferのものとなっています。

 この曲は3つの楽章合わせて13分ほどの、おそらくピアノのためのソナタと思われますが、大曲というより、どちらかと言えば練習曲的なソナタのようです。ただしこれをギターで弾くとなると、結構難しい曲になるのではと思います。第1楽章は3分ほどで、音形は当時音楽によくある感じですが、展開部は調がいろいろ変えられています。再現部は型どおりには再現されず、かなり変化しています。雰囲気としては同時代の作曲家(兼出版業者)のアントン・デアヴェリの曲を連想させます。


バッハの「ソナタ第3番」は2度目の登場

 次はバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調」ですが、この曲は4人目に紹介したフランスのギタリスト、ガブリエル・ビアンコも収録していました。この曲も最近の若いギタリストには人気があるようです。


全体に速め

 演奏時間はビアンコに比べると全体で3分ほど速くなっています。特に第1楽章の「アダージョ」はビアンコが4:21に対して、クリヴォカピッチは2:55と1分以上も速くなっていますが、ビアンコの演奏も決して遅いテンポではありません。多くのヴァイオリニストは4~5分くらいで演奏しており、イ・ムジチのメンバーだったフェリックス・アーヨは6分くらいかけていたように思います。

 この楽章は付点音符による音形がずっと続く曲で、「アダージョ」となっていますが、確かにテンポ設定の難しい曲でしょう。その「アダージョ」の指示に従って遅めのテンポをとると、確かに重厚な雰囲気は出るのですが、聴衆には集中と、場合によっては忍耐も要求することになります。その逆に、テンポを速めにとれば聴きやすくはなるが、重厚さや敬虔さのようなものは薄れてしまうでしょう。

 2曲目のフーガは長大なもので、聴く人に集中を要求する音楽と言えるかも知れません。クリヴォカピッチの演奏は速めのテンポで(7:55)、なおかつ音の「キレ」もよく、快適に聴けますが、同時にやや落ち着かない感じもします。

 第3楽章の「ラルゴ」は一般的な速さに近く、しっとりと歌わせています。第4楽章はビアンコより40秒ほど速く演奏演奏していますが、もともと速く演奏するように曲が出来ているせいか、違和感はありません。かなりの速さにもかかわらず、若干低音も追加していて、気持ちよく聴けます。



スカルラッティの演奏はすばらしい

 次にドメニコ・スカルラッテイのソナタを3曲弾いています。スカルラッテイのソナタは数百曲もあるので、当然知らない曲のほうが多いのですが、幸いにこの3曲はどこかで聴いたことのある曲です。とはいっても具体的にどこで聞いたかまでは覚えていないので、K番号(カークパトリック番号~かつてはL《ロンゴ》番号で表記されていた)を頼りに探してみました。

 1曲目のK162はアサド兄弟が二重奏で弾いていました。またホロヴィッツのCDにも収められています。5分を越えるやや長い曲で、「アンダンテ」とありますが、実際はゆっくりな部分と速い部分が交互に出てきます。クリヴォカピックの演奏は明るく、軽快な演奏といった感じですが、アサド兄弟の演奏は表情やテンポの変化に富む演奏になっています。


ギターでよく弾かれる曲~4度高く

 2曲目のK208はさらによく聴く曲で、ジョン・ウィリアムスが以前から弾いていましたが、バルエコやAttademo(ブリランテの25枚組)、さらに1970年代にブローウェルも録音していました。日本語のオビにはイ長調「Andante et cantabile」となっており(原文のほうには調名は記されていない)、確かに原曲はイ長調で、多くのギタリストはこれを1オクターブ下げる形で原調で弾いています。


 クリヴォカピッチの演奏は、他のギタリストの演奏に比べかなり音域が高い感じで、実際は二長調で弾いているようです。技術的には難しくなっていると思いますが、聴いた感じではすっきりと、美しい感じで、移調されてはいますが、原曲とのギャップもかえって少ないようです。また繰り返しの際に装飾をかなり加えているのも印象的です。

 K209のほうは前の208とセットになっているようで、この2曲を続けて演奏するギタリスト(ピアニストも?)が多いようです。こちらは「Allegro」で速い曲になっています。クリヴォカピッチの音はスカルラッティの音楽によく合っていて、ギターによるスカルラッティの演奏としてはかなり優れたものではないかと思います。


ボグダノヴィッチのソナタ

 最後はこのCD唯一のオリジナル作品として、同じベオグラード出身のデュシャン・ボグダノヴィッチの「ソナタ第2番」を演奏しています。この曲は河野智美さんも演奏していたでしょうか。

 4つの楽章からなりますが、全体的にメロディックというか音階的に聴こえます。またリズム的な要素は強いものの、対位法的、複旋律的でもあります。

 第1楽章はホ短調のように聴こえます。ホ短調と言っても本当の短調(旋律的短調)ではなく、自然短調というもので、モード・ミュージック的ともいえるかも知れません。他の楽章も特に、3,4楽章などはリズム的な要素は強いですが、いわゆる前衛的な作品ではなく、打楽器的な奏法などの特殊奏法もあまり使われてなく、旋律的、対位法的な処理が目立ちます。


同郷の作曲家への深い共感

 そういえばクリヴォカヴピッチの演奏は、特に最初のヴェルトミュラーの曲などでは明るく、軽快な演奏だったのですが、このボグダノヴィッチの曲では一転して陰影のの深い演奏になっているように感じます。オリジナルの作品のせいでしょうか、あるいは同郷の作曲家への深い共感がそうさせているのでしょうか。いずれにしてもまだまだいろいろな面を持っているギタリストかも知れません。

Jerome Ducharme  2005年GFA優勝 アメリカ生まれでモントリオールで学ぶ


新進演奏家 011



韻を踏んだ?

 今回のCDは2006年3月に録音されたジェローム・ドゥシャームの演奏です。韻を踏むような名前ですが、原語でもJerome Ducharme となっていて、確かに韻を踏んでいるのでしょう。1978年、シカゴの近くのジョリエットと言う町に生まれ、モントリオールでギターを学んでいます。今年33歳になるのでしょうか、USA出身のギタリストも今回初めてということになります。  


ひげと笑顔

 写真のひげからすると、豪快な演奏をしそうにも見えますが、そのひげの間から見える笑顔のとおり、とても優しい演奏です。このギタリストもまた、たいへん美しい音を持っています。


コープランドの「アパラチアの春」の続編?

 1曲目のマシュー・タン作曲、「アパラチアの夏」はコープランドの「アパラチアの春」に因んだ曲なのでしょうか。アルペジオの伴奏にのって民謡風のメロディが奏でられますが、曲は5つの部分からなるようです。それぞれ同じ素材を用いているようで、変奏曲のようになっているのかもしれません。

 最初の部分は前述tのとおり、ゆっくりとしたメロディックな部分ですが、第2の部分はテンポが速くなり、ややアサドの「アクアレル」風。第3の部分は再びゆっくりとした部分になります。第4の部分ではメロディと伴奏が通常の8分音符(たぶん?)と3連符という、異なる音価の音符で奏されます。最後の部分は活発な部分となって曲が終わります。全体としては比較的耳に馴染みやすい曲で、ドシャームの優しく、美しい音によく合っています。


カナダの作曲家の曲

 次はカナダの作曲家、Lacques Hetu(ジャケス・エテュ?)の組曲作品41で、前奏曲、夜想曲、バラード、夢想、終曲の5曲からなる15分ほどの曲です。「アパラチアの夏」よりは無調的ですが、鋭い響きや特殊奏法などを使う曲ではなく、繊細な感じの美しい曲です。終曲のみ活発な感じの曲になっています。 


ヴァイオリニストでもあったマネンの唯一のギター曲

 ホアキン・マネン(1883~1971)は若い頃は優れたヴァイオリニストとして活動したが、後に作曲を主にするようになり、オペラや管弦楽曲などを作曲しました。ギター曲としては1930年頃に、セゴビアのために書かれたこの曲のみのようです。この「幻想的ソナタ」は、細かく見れば6つの部分からなりますが、切れ目なく演奏され、全体で20分弱の曲です。

 「ミ」「シ」「レ」「ラ」という5度関係の音による和音で始まり、テンポの速い第2、第4の部分(楽章といってもよいのかも知れませんが)ではスペイン的なリズムも聴かれますが、全体的には外見上、特にスペイン風とかフラメンコ風にしてはいなようです。5音音階なども使用し、どちらかと言えば印象派的といえるでしょうか。

 この曲は1950年代にセゴビアも録音していて、なかなか内容のある曲ですが、曲が大きすぎるのかあまり演奏される機会は少ないようです。ある意味貴重な録音と言えるでしょうか。



スペインの風のような3つの小品

 次はロドリーゴの「スペイン風3つの小品」で、たいへんよく演奏される曲です。「小品」とはなっていますが実際には高度な技術が要求される曲で、出場者が自らの技術の完成度をアピールすべく、コンクールなどでもよく演奏されます。

 しかしこのドゥシャームの演奏では、そういった「自らの技術をアピールする」ような感じは全くありません。ともすれば気負いがちな1曲目の「ファンダンゴ」も、むしろ歌わせることに気持ちが行っているようです。2曲目の「パッサカリア」も重たくなりすぎず、「サパテアード」も力むことなく、全体として爽やかな「スペインの風」といった感じです。ドゥシャームにとってこの曲は文字通り「スペイン風3つの小品」なのでしょう。



再び登場、ヒナステラの「ソナタ」

 次はトーマ・ヴィロトーも弾いていたヒナステラの「ソナタ」です。作曲者はギタリストでないにもかかわらず、ギターの特殊奏法のオン・パレードの曲ということで、これまでの曲とはちょうっと毛色の違った曲といえます。ヴィロトーの演奏に比べると基本的なところではそれほど決定的な差はなく、テンポも曲によって若干違いがありますが、トータルするとどちらも13分台とほぼ同じです。

 強いて言えばヴィロトーの方が強弱の差が若干大きく、ドシャームの方は弱音でも不明快にならず、強音でも音を歪ませることなく弾いているということでしょうか。もちろん使用している楽器の違いからくる音色や音質の違いはあります。

 第2.第4楽章は共にテンポも速くリズム系の曲ですが、第2楽章の方は常に3拍子系、あるいは3連符系で、特殊奏法はいろいろあってもリズム的にはシンプルですが、第4楽章のほうは8分の5、8分の6、8分の7拍子などが入り混じる複雑なリズムの曲になっています。



”閉め”はドビュッシー賛

 最後はファリャの「ドビュッシー賛」で、しっとりと閉めていますが、スタッカートなどのニュアンスに繊細な気配りをしている演奏です。

ニルセ・ゴンザレス  ヴェネズエラ出身 2006年タレガ国際ギター・コンクール優勝



  新進演奏家 010


Nirse Gonzalez 

アントニオ・ホセ : ソナタ
マヌエル・ポンセ : 主題と変奏、終曲
J.S.バッハ : 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番
ホアキン・クレルチ : ヴォロにて、和音の練習、レガートの練習
フランシスコ・タレガ : アデリータ、マズルカト長調



ラテン的な温もり

 今回紹介するのは2007年1月に録音された、ニルセ・ゴンザレスののCDです。ニルセ・ゴンザレスは1981年、ヴェネズエラの生まれということで、今年で30歳、これまで紹介したギタリストの中で、中南米出身は初めてということになります。国籍や出身地でそのギタリストに先入観を持ってはいけないとは思いますが、やはりこのギタリストの音色はラテン系を感じさせます。

 もっとも 「音楽を総合的に学び、その作品が要求することを自らのギターで表現する」 といったことはこシリーズの他のギタリストと全く同じで、演奏技術が高いということも、もちろん同じです。そういった点では現在は世界中で国境や地域差がなくなっているのでしょう。しかしそのい一方で、音色のようなものには、やはり伝統とか、民族性のようなものは残っているのかも知れません。



ホセの「ソナタ」は3人目

 1曲目は、アントニオ・ホセの「ソナタ」ですが、この曲はこのシリーズで他にフローリアン・ラルース、イリーナ・クリコヴァが録音しています。前の二人がとてもすばらしい演奏をしていただけに、私の耳的には若干高いハードルとなってしまいました。

 ゴンサレスの演奏は二人に比べてどの楽章もやや速めに演奏しています。音量の幅や音色の変化などはあまり極端には付けていませんが、音色的にはとても自然で、ギターらしい音になっています。神秘性とかシリアスさというより、気さくで、日常的な感じ。聴いて疲れない演奏とも言えるでしょう。



ギター好きに好まれそうな音、演奏

 録音の関係もあるでしょうが、このゴンザレスの音は余計な響きがなく、とてもギターらしい音がします。ギター好きには好まれる音、あるいは演奏ではないかと思います。第2、3楽章もとても自然な音でゆったりとした気分で聴けます。第4楽章は速めのテンポで、あまり細かい表情付けにはこだわらない演奏ですが、決して即物的ではなく、音楽はあくまで自然で、耳に馴染みやすい演奏です。そういえば、この第Ⅳ楽章では第1楽章が回想されているのですね。


やはりポンセとの相性はよい

 次はポンセの名曲の一つ、「主題と変奏、終曲」で、8分前後くらいの曲ですが、ポンセの魅力がよく出た曲
です。ヴェネズェラとメキシコはもちろん違う国ですが、このギタリストとポンセの音楽はとても相性がよいようで、理屈抜きで楽しめます。テンポも速いとも遅いとも感じない、と言うことは適切なテンポで演奏しているということでしょう。


バッハはリュート的アプローチ

 次はバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番」ですが。これはペトリック・チェク(7回目に紹介)も演奏しており、はやり最近のギタリストの中では人気の高い曲なのでしょう。チェクの場合は、特に最初の「グラーヴェ」で、低音を追加して「協奏曲の第2楽章のように」演奏していましたが、このゴンザレスの場合は、低音はあまり追加せず、その代わりに装飾音をふんだんに付けています。要するにリュート奏者などがよくやるような演奏法なのですが、こちらの方が現在では主流でしょう。つまり、チェクの場合は鍵盤楽器的なアプローチ、ゴンザレスの場合はリュート的なアプローチといえるでしょう。 

 第2楽章の「フーガ」も、もちろんバッハの音楽様式に的確に従って演奏していますが、演奏があまり分析じみていないところがよい点でしょう。繰り返すようですが、音楽が自然に耳に入ってくるのが、このギタリストの最大の特徴なのでしょう。第3楽章の「アンダンテ」もヴァイオリンの譜面をそのまま演奏(結果的に1オクターブ下)していますが、反復後は装飾音をかなり付けています。またリピートや後半に移る部分などの”つなぎ”のパッセージもとても自然です。

 第4楽章の「アレグロ」はチェクより若干速めに弾いていますが、適切な範囲といえ、決して”指まわり”をアピールするような演奏ではありません(こうした表現は蛇足ですが)。控えめに追加された低音もなかなか効果的です。



ホアキン・クレルチ門下

 以前紹介したホアキン・クレルチの作品を3曲弾いていますが、このゴンザレスもクレルチ門下なのでしょう。クレルチ門下からは、こうした若い優れたギタリストが育っているようです。

 ヴォロ( Volos)はギリシャにある美しい町で、毎年ここでギターのサマー・スクールが開かれるそうです(現代ギター誌でも取り上げられていた?)。1曲目はその時の印象を曲にしたものなのでしょう、メロディックな曲ですが、現代的な和声が付けられています。

 2曲目は「和音の練習曲」で、ヴィラ・ロボスの「練習曲第4番」に若干似ています。3曲目は”de ligados”ということでスラー奏法の練習曲になっています。


ソルへのマズルカ?

 最後にタレガ国際ギター・コンクール優勝ということでタレガの曲を2曲(アデリータ、マズルカト長調)を弾いています。ところで、このナクソスのCDには日本語のオビが付けられていて、あまり英語などの外国語に弱い私としてはとても助かっています。

 このCDの日本語のオビに、タレガ作曲「ソルへのマズルカ」 と言う曲名があります。「ソル」といえばギター界ではあのフェルナンド・ソルしかいません。伝記などによればタレガはソルの曲を弾いていたという記述はなく、ましてソルに因んだ曲の存在は聴いたことがありません。一瞬 「タレガの幻の作品の発見?」 と思ったのですが、原文表記を見ると何のことなく”Mazuka en Sol” 有名な「マズルカト長調」ではないか。

 なんと「Sol」が「Sor」になってしまったわけですが、このオビを書いた人は”それなりに”ギターのことを知っていたので音名の「Sol」を「Sor」と勘違いしてしまったのでしょうね。私なども「R」と「L」の区別が付かない方ですが、でもこの訳者がもう少しギターに詳しく、タレガとソルの関係などを知っていたらこうした間違いも起こりにくかったでしょうね。

 また語学的にみても”Mazuruca en Sol”が「ソルへのマズルカ」とはなりにくいと思いますが、どうやらこの訳者には、この曲は「タレガが同国の大先輩、フェルナンド・ソルにささげた曲」という強い思い込みがあったようです。でも本当にそんな曲が発見されれば嬉しいですね。


この日本語のオビなかなか面白いのですが

 この添えられた日本語のオビには他にも面白いことがいろいろあるのですが、その話はまた後にしましょう。このオビを作るのもなかなかたいへんだろうと思います、特にクラシック・ギターなどというマニアックな世界では。過去から現在にいたるまで、クラシック・ギターについて相当詳しくないと書けないでしょうし。



多くの人に受け入れられる演奏では

 話がそれてしまいましたが、このニルセ・ゴンザレスのCD、最初に聴いた感じでは、あまり際立った特徴が感じとれなかったのですが、何度か聴いているうちになかなかすばらしい演奏ではないかと思うようになりました。強烈に自己アピールするタイプでも、また曲の解釈の独自性を強調するわけでもないのですが、何度も書いたとおり音楽がとても自然で、またたいへんギターらしい音で、聴いていて和みます。おそらく多くの聴衆に受け入れられる演奏ではないでしょうか。
当スタジオCDコンサート「21世紀のギタリストたち」 

 このシリーズも今回で9人目のギタリストの紹介になります。もちろんこのシリーズのすべてのギタリストを紹介することも出来ないので、2005年以降の録音のあと数人、つまり合計で10数人程度紹介したいと思っています。しかし文章でCDを紹介するのは文字通り「絵に書いた餅」。仮に私がどんなに文章力があったとしても正確に伝えるのは無理な話。まして私の鑑賞力や文章力からすれば言わずもがなというところでしょう。

 そのうち一段落つたところで、ささやかながら私のスタジオでCDコンサートでもやろうかと思っています。もちろんあまり広いところではないので、10人前後ということになりますので、対象は私の教室に近い人や、よほどの物好きの方に限ることになりますが、特に私の教室の関係者でなくてもよいと思っています。

 ここで紹介しているギタリストたちは、間違いなく21世紀のギター界を背負って立つ人々で、これらの演奏を聴くことによって”ギターの明日”が見えてくるでしょう。時期的にはいろいろな行事等の関係もありますが、4~5月くらいかなと思っています。日にちなど決まったらまたブログに書きます。



新進演奏家 009


Thomas Viloteau   フランス出身 2006年 GFA優勝

ミゲル・リョベート : ソルの主題による変奏曲
アレキサンドル・タンスマン : カヴァティーナ組曲
レオ・ブリーウェル : オリシャスの祭礼
アルベルト・ヒナステラ : ギターのためのソナタ作品47
ローラン・ディアンス : トリアエラ



 今回紹介するのは1985年、フランス生まれのトーマ・ヴィロトーです。フランス生まれですが、13才よりバルセロナでアルバロ・ピエッリなどに師事しています。2006年にアメリカのGFAで優勝している他、数々のコンクールで入賞しているのはこのシリーズの他のギタリストと同じです。



スモールマン使用

 楽器はガブリエル・ビアンコと同じくスモールマンを使用していますが、この楽器は低音、高音ともよく鳴り、ノイズの少ないクリヤーな音が特徴でしょう。伝統的なギターの音色というより、ピアノの近い感じといってもよいでしょうか。よく鳴る分だけ音色の変化、微妙なニュアンスなどは逆に出しにくいようです。



透明度の高い演奏

 最初のリョベートの曲はそるの作品15の「スペインのフォリアによる変奏曲」の主題を使用したもので、ソルの原曲よりいっそう技巧的になっています。ヴィロトーの演奏は、その技巧上何の問題もないのは当然のことながら、音色的にも、音楽の構造的にもたいへん透明度の高い演奏と言えるでしょう。


 タンスマンの「カヴァティーナ組曲」は後に追加された「ダンサ・ポンポーザ」を含めない「プレリュード」、「サラバンデ」、「スケルツィーノ」、「バルカローレ」の4曲となっています。タンスマンの曲はどちらかと言えば、ピアノ曲的なところがあり、あまり派手ではないがギターでその音楽を忠実に再現するのはなかなか難しいところもあります。

 しかし、この演奏ではそうした「ギターの都合」といったものは全く感じさせず、古典的に作曲されているタンスマンの音楽を忠実に、クリヤーに、また端正に再現しています。



ブローウェル : オリシャスの祭礼

 ブローウェルの「オリシャスの祭礼」は1993年にアルバロ・ピエッリのために書かれた作品ということで、ヨルバ族の祭礼と舞踏を題材にした作品です。ヨルバ族とは前にも出てきましたが、アフリカのナイジェリアによく住む部族で、多くのキューバ人のルーツになっています。

 曲は、Ⅰ.Exordium-conjuro (イントロダクション)と Ⅱ.Danza de las negras (黒人の神々の踊り)からなり、Ⅰの冒頭は「舞踏礼賛」によく似ています。ヴィロトーの演奏は、前のタンスマンの曲とは一転して、強弱の変化などをはっきり付けています。「弱」の部分でも不明瞭にならず、「強」の部分でも雑音にならず、しっかりとした芯の強い音を出しています。



ヒナステラのソナタ 

 アルベルト・ヒナステラはアルゼンチンの作曲家で、このソナタは1976年にギタリスト、カルロス・バルボサ・リマのために作曲されています。10年くらい前にテレビでヒナステラの交響曲を聴いたことがありますが、なかなか面白い曲でした。この「ソナタ」に若干似ている感じです。


ギタリスト以上にギターに詳しい?

 この曲を聴いていると、ギターの糸倉を弾き鳴らしたり、弦を擦る音、各種ハーモニックス、グリサンド奏法、指板やボディーを叩くなどの各種パーカッション奏法、ラスゲヤードやミュート奏法、おまけに冒頭はギターの6本の開放弦による和音など、どう聴いてもギタリストの作品にしか思えないのですが、ヒナステラは全く(少なくともステージなどでは)ギターを弾かない作曲家。信じがたい気がします。

 結局ヒナステラはギターのための作品をこの1曲しか書かなかったのですが、この作品を書くにあたっては、ギターの技法を徹底して研究したそうです。ギタリスト以上にギターの技法に詳しい作曲家かも。またこの曲は最近ではコンサートやコンクールなど、多くのギタリストによって演奏されます。



特殊技法のオン・パレード

 曲は4つの楽章からなります。Ⅰ、Ⅲ楽章は叙情的な楽章で、Ⅰは前述のとおりギターの6本の開放弦の和音で始まります。Ⅲは「愛の歌」ということで美しい楽章ですが、一般的な意味では、メロディックな曲ではありません。

 Ⅱ、Ⅳ楽章は無窮動的で、リズムを主体として、前述のとおり、各種の特殊奏法をふんだんに使った楽章です。Ⅱでは糸倉の弦を弾く奏法、グリサンド、バルトーク・ピチカート、打楽器的奏法など初めて聴いた人でもとても楽しめます。Ⅳも同様の楽章ですが、パーカッションを織り込んだラスゲヤード奏法が中心で、聴く人の興奮を誘う音楽になっています。

、ヴィロトーの演奏はそれらの特殊奏法を効果的に演奏し、特に最後はエキサイティングに盛り上げていますが、その一方でリズムやテンポをしっかりとキープし、暴走や音楽の崩れなどは一切見せません。



Three come ?

 最後の曲は「タンゴ・アン・スカイ」や「リブラ・ソナチネ」で知られているフランスのギタリスト兼作曲家(生まれはチュニジア)のローラン・ディアンスの作品(2001~2002年)で、「Triaela」です。この曲名はギリシャ語で「3」を表す「Tria」と「come」を表す「ela」を合成した造語だそうです。

 題名どおり3つの楽章からなりますが、1曲目は「Light Motif ~Takemitu au Bresil」となっていて、日本の作曲家、武満徹へのトリビュートということで、武満の音楽にブラジルの「サウダージ」の要素を加えたものだそうです。確かにハーモニックスの部分は武満のギター曲を思わせます。「ライト・モチーフ」とはワーグナーが用いた「示導動機」ということですが、確かに同じ音形が繰り返して現れます。ところで「au」は何の意味なのでしょうか、どうも英語ではなさそうです。まさか「合う」ではないとは思いますが。



6弦=ラ?

 2曲目は「Black Horn ~when Spein meets Jazz」となっています。冒頭のところはスペイン風というより何となくブローウェル風にも聴こえますが、後半は確かにブルース風になります。3曲目は「Clown Doun ~Gismonti au cirque」となっていて、ブラジルのジャズ・ギタリスト、エグベルト・ジスモンチへのオマージュだそうです。「cirque」は「サーカス」のことで、ジスモンチのヒット・アルバムの「Circense」からきているようです。特殊奏法、特に親指で弦を叩く奏法などが使われ、なかなか盛り上がる曲になっています。

 言い遅れましたが、この曲は特殊調弦が用いられていますが、かなり低い音まで聴こえてきます。おそらく6弦を「ラ」、つまり5弦の1オクターブ下にしているようです。なかなか面白い曲で、今後いっそう演奏されるようになるのではと思います。



クリヤーな音質と大きな強弱の差で、音楽全体をしっかりと構成する

 このヴィロトーの演奏の印象をまとめると、まず一つはこれまで紹介してきた新進ギタリストの特徴の大部分を持っているということでしょうか。各部分にも細かい注意を払いながらも、音楽全体をしっかりと見通している、また古典から現代に至る様々な様式の音楽を的確に演奏い分ける、自分の演奏スタイルよりも作品の内容を優先させる・・・・・・など。

 とは言ってもそれぞれ「生身」のギタリストですから、音色とか、微妙なニュアンスとかいったものはそれぞれ異なるのは当然です。このギタリストの場合は、使用している楽器の影響もありますが、クリヤーで、透明感のある音色、微妙なニュアンスで勝負するタイプではなく、どちらかと言えば音楽を大きく捉えるタイプ、テンポの変化は必要最小限度だが、強弱の幅は大きい・・・・といったように感じました。