中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

プログラムの作り方 7  

<フランシスコ・タレガのプログラム(2)>




「スペイン幻想曲」とか「スペインの調べ」なんて聴いたことがないけど?

 タレガのプログラムの続きです。 前回1889年と1904年のプログラムを記載しましたが、曲目はそちらを見てください。
タレガが演奏した曲は、ギターのオリジナル作品は少なく、ほとんどがギター以外の作品からの編曲だと言うことを書きました。

 1889年と1904年の両方のプログラムに、タレガ作として「スペイン幻想曲」と「スペインの調べ」という曲が入っています。 どちらも両方のプログラムに入っているのですから、タレガにとっては重要な作品に間違いないと思いますが、でも皆さん、タレガにこういった曲があるなんて知りませんよね?

 もしかしたら失われたタレガの名作?   ・・・・ではなく、これは今日「グラン・ホタ」と呼ばれている曲です。  どっちがですって? いや、どちらもです。   ・・・・だから、「スペイン幻想曲」も、「スペインの調べ」もどちらも「グラン・ホタ」だということです。



そんなのあり?

 意味がわからない?  確かに。  現在の常識で考えれば、意味が解りませんね、一つの曲に二つの別な曲名が付いていて、それが同じリサイタルのプログラムにそれぞれ載せてある、 つまり同じ曲に違った曲名を付けて2回演奏するなんて   ・・・・そんなのあり?

 タレガは特にこの「グラン・ホタ」を愛奏し、リサイタルでは必ず演奏していました。 それだけに曲名もたくさんあり、上記の3つ以外にも「大衆的スペインの歌メドレー」、 「スペイン民謡のメドレー」、 「ホタ」と題されているものにも「ホタ・アラゴネーサ」、 「ホタ変奏曲」などがあります。



タレガ



原曲は師、アルカスの作品

 これらの曲名からもわかるとおり、この曲はスペインの民謡(フラメンコの曲と言った方がいいかも知れませんが)を基に、タレガが変奏曲を作曲したもので、ギターの様々な技法が駆使され、”見た目”だけでも興味をそそるように出来ています。 おそらくリサイタルでは聴衆の受けもよかったのでしょう。



こんな形で同時代ギタリストの作品を演奏していた

 その変奏のいくつかはタレガの師であるフリアン・アルカスのものだそうで、アルカスの作品の再アレンジという面も持っているようです。 また今日「グラン・ホタ」として残されている譜面のイントロは、スペインのギタリスト、ホセ・ヴィーニャスの作品の一部だそうです。 タレガは同時代のギタリストの作品は公式には全く演奏しなかったのですが、実はこんな形で演奏していたようです。




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グラン・ホタの序奏部 ホセ・ヴィーニャスの作品を基にしている




固定されたものではなかった

 これらの曲は曲名は違っても、基本的には同じ曲ではありますが、タレガのことですから、おそらく演奏するごとに内容は違っていたのでしょう。 その日の気分や状況で演奏する変奏を選び、変奏の数なども固定してはいなかったのではと思います。 

 特に同じコンサートで2回演奏した場合は、曲名を変えるだけでなく、演奏する変奏も変えていたとも考えられます。 つまり一つの曲を二つに分けて演奏していた面もあるのかも知れません。 今日この「グラン・ホタ」の譜面は少なくとも4種類残されているそうですが、こうした事情を考えれば当然の事といえるでしょう。
  



「グラン・ホタ」と「ベニスの謝肉祭による変奏曲」は対

 「ベニスの謝肉祭による変奏曲」と「パガニーニの主題による変奏曲」も同一曲で、この曲もタレガが必ずリサイタルで演奏した曲です。 つまり「グラン・ホタ」と「ベニスの謝肉祭による変奏曲」はタレガのリサイタルでは必ずセットで演奏されていたということになります。



「ベニスの謝肉祭」の方がクラシック音楽的

 グリサンド奏法による「猫の鳴き声」など、両方の曲に共通する変奏もありますが、あえてこの両者の違いに注目すれば、「ベニスの謝肉祭」の方はメロディを歌わせることに主眼をおいた、やや伝統音楽、つまりクラシック音楽的で、 「ホタ」のほうはエンターティメント性の高いものと言えるかもしれません。 いずれにせよ、タレガは終生この2曲をかならずリサイタルで演奏していたようです。



他の作品も他の音楽家の作品をテーマにしたもの

 他にタレガ作として演奏されている曲は、他に「ゴットシャルクの大トレモロ」、「演奏会用練習曲」がありますが、どちらも他の作曲家の作品からの編曲、あるいは主題をとったものです。 「演奏会用練習曲」はタールベルクの作品から主題を取っています。 またどちらの作品もトレモロ奏法が用いられています。



やはり、だんだん盛り上がるようになっている

 プログラムの前半、後半の構成としては、前後半ともそれぞれ同じような構成になっているのが特徴です。 ほとんどの場合、メンデルゾーンやシューマンなどのやや”おとなしい”曲で始め、最後は自作の「グラン・ホタ」や「ベニスの謝肉祭」など華やかな曲で終わるといったような構成です。



二次会が本番?

 タレガは偉大なギタリストであるのもかかわらず、”あがり症”だったらしく、やはり後半にかけてだんだん調子上げてゆくタイプだったのでしょう。 おそらくアンコール曲あたりが絶好調だったのではと思います。

 さらにタレガの場合、コンサート終了後、お店などで”二次会”があったらしく、そこではもう、タレガのギターが止まらなかったようです。 タレガの親しいギター愛好家たちにとっては、こちらの方が”本番”だったのかも知れません。
 

 次回はアンドレ・セゴヴィアのプログラムです
プログラムの作り方 6

  =フランシスコ・タレガのプログラム=




<第1部>

1. ヴェルディ : メロディ(シチリア島の夕べの祈りより)
2. アリエータ : マリーナの小品
3. タレガ : スペイン幻想曲
  * 声楽家による独唱 
4. メンデルスゾーン : 無言歌
6. タールベルク : 葬送行進曲
  * 独唱



<第2部>

  *独唱
1. ゴットシャルク : グラン・トレモロ
2. タレガ : ベニスの謝肉祭による変奏曲
  *独唱
3. タレガ : 演奏会用練習曲
4. タレガ : スペインの調べ

  <アンコール曲>
  ゴットシャルク : グラン・トレモロ
  アルベニス : タンゴ・カディス
  ニーナ・パンチャ : チューラの子守唄
  アフリカーナのモチーフによる幻想曲

      1889年7月13日 バレンシア 商業協会




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写真は1906年のコンサート



<第1部>

1. メンデルゾーン : ロマンス
2. シューマン : 子守唄
3. アルベニス : セレナータ
4. シューベルト : メヌエット
5. タレガ : 演奏会用練習曲
6. タレガ : スペイン幻想曲


<第2部>

1. アルベニス : スペインのセレナード
2. ショパン : マズルカ
3. ショパン : ノクターン
4. マラッツ : スペインのモチーフ
5. モーツァルト : メヌエット、 パストラーレ
6. タレガ : パガニーニの主題による変奏曲
7. タレガ : スペインの調べ

  <アンコール曲 ~ダニエル・フォルテアとの二重奏>
  モーツァルト : メヌエット
  ビゼー ~タレガ : 「アルルの女」の主題による変奏曲
  ベートーヴェン : メヌエット(ピアノ・ソナタ第20番より)
 
     1904年10月20日 カステリヨン 参事会室




36才と51才の時のリサイタル

 アドリアン・リウスの「フランシスコ・タレガ」に記載されているプログラムを二つほど書き出してみました。 タレガは1852年11月21日の生まれですから、それぞれ36才と51才の時のリサイタルです。

 なるべく若い頃のプログラムも挙げておきたかったのですが、曲目が完全に記載されているものとしては、この1889年のものが最初です。 この1889年のものはタレガの独奏の間に4曲ソプラノの独唱があります(ピアノ伴奏)。 こうしたことは当時よく行われていたのでしょう。




「アランブラの想い出」も、「アラビア風綺想曲」も入っていない

 この二つのプログラムは、大ざっぱに言えばほぼ同じような構成で、リウスの書からすると、タレガの場合若い頃から晩年に至るまで、プログラムの作り方としてはあまり変わらなかったようです。

 この二つのプログラムでみなさんが真っ先に気付くのは、まずこのプログラムの中に私たちがタレガの作品としてよく知っている「アランブラの想い出」や「アラビア風綺想曲」、 さらに「ラグリマ」、「アデリータ」、「マリエッタ」などと言った曲は全く見られないことでしょう。

 このうち「アランブラの想い出」は1899年頃に作曲されたようで、演奏されたとしてもそれ以降となりますが、少なくともタレガがこの「アランブラの想い出」として自ら演奏したという記録は確認出来ないようです。  「アランブラの想い出」がタレガの代表作として知られるようになったのは、やはりタレガの没後と言うことになるでしょう。

 「アラビア風綺想曲」は1889年ころ作曲され、1902年に出版され、タレガの生存中から多くの愛好者などに演奏されいたようですが、これもタレガ自身によって演奏された記録は見当たらないようです(別の曲名で演奏されている可能性はあるが)。 
 
 愛好者に人気のある 「ラグリマ」、「アデリータ」といった小品はタレガとしてはおそらく教材、あるは愛好者のための作品と考えていて、自らコンサートで演奏することは考えていなかったのでしょう。



純粋なオリジナル曲はない

 上の二つのプログラムからもわかるとおり、タレガは自らのリサイタルでは自らのオリジナル曲よりも、他の作曲家の作品を編曲して演奏することが多かったようです。 またオリジナル曲といっても、このプログラムに載せてあるものは全て、他の作曲家の作品からテーマをとっており、ある意味純粋なオリジナル曲はありません。



ソルやアグアードなど、他のギタリストの作品は演奏しなかった

 また自分以外のギタリストの作品が全くないというのも、大きな特徴でしょう。 タレガも若い頃はソルやアグアードなどの練習曲などを弾いていたことはあると思いますが、このソル、アグアードに加え、ジュリアーニ、コスト、メルツといった過去のギタリストの作品も、あるいは同時代のギタリストの作品もタレガが弾いたと言う記録はないようです。



聴衆に受け入れられることを優先した

 と言ったように、タレガのプログラムは今現在のギター・リサイタルとはだいぶ違ったものなのですが、 こうしたプログラムを組んだ大きな理由としては、 まず何といっても聴衆に受け入れられること、聴衆を楽しませることを最優先したからなのでしょう。



サルスエラからの編曲は人気があったと思われる

 タレガの編曲作品は当時流行したサルスエラ(スペインのオペレッタ)からのもの、そしてベートヴェン、ショパン、シューマンなどクラシック音楽の大家の作品からとなっています。 特にサルスエラからの曲は当時のスペイン人なら誰でも知っているもので、おそらく人気を博したと思わrます。 

 また当時中流以上の家庭ならどこにでもピアノが置いてあり、ショパンやシューマンの言った作品もよく親しまれていたのでしょう。 またこれらの作品をギターにアレンジして演奏すると言うことはタレガのこうした音楽家たちへの敬意の表れともいえるでしょう。



晩年には大作曲家の作品が中心になっていった

 この二つのプログラムで、多少違いがあるとすれば、1889年のもにはそのサルスエラからの曲(アリエータ、バンチャ)があるが、1904年のものには1曲もありません。 タレガの最晩年のリサイタルでもそうしたものはなく、オリジナル以外はすべてショパンやメンデルスゾーン、シューマンなど、ギター以外の大作曲家の作品の編曲となっています。

 タレガは年とともにこうした過去の大作曲家への敬意を強く持つようになったのかも知れません。 あるいは聴衆を啓発しようといった意識を持つようになったとも思われます。


 
  

<プログラムの作り方 5>



2008年  中村俊三ギター・リサイタル

パガニーニ : カンタービレ、 ソナタホ短調

ジュリアーニ : 大序曲

バッハ : ガヴォット、 シャコンヌ

・・・・・・・・・・・・・

アルベニス : アストゥリアス、 グラナダ、 カディス、 朱色の塔、 コルドバ、 セビージャ
 
 *アンコール曲   リョベット:盗賊の歌、 ホセ・ビーニャス:独創的幻想曲、 タレガ:アデリータ




後半はアルベニスのみ

 後半のプロはアルベニスの曲6曲ですが、これもかなり早い段階から決めていて、多少考えたとするなら、曲数を何曲にするかといったことだけでした。 6曲というのはやや少な目といえますが、前半のプロが重たいので、後半はやや少な目にしました。

 何といっても前半のプロは難曲揃いなので、演奏者にはもちろん、聴衆にも負担がかかるのではということで、 後半の曲は私自身が自信をもって演奏出来、また聴く人の気持ちも掴みやすいものと言うことで、こうしたものとなりました。

 つまり②の 「聴衆の好みに合う曲」 でもあり、また 「練習しなくても」 とか 「確実に」 とまではゆきませんが、まあ一応弾ける曲と言うことで、やや⑥かな・・・・



曲順はチューニングと曲のテンポなどで

 6曲の演奏順については、曲の親しみやすさ、性格、チューニングなどを考えると、やはりこの順にするのが最もよいでしょう。 6曲中ではやはり最初の「アストゥリアス」が最も知名度も高く、人気も高い曲ですので、これを最初に弾くのが”筋2といったところでしょう。 前半のプロには馴染めなかった人も、この曲でなんとか挽回してもらうと言った意味もあります。

 6曲のテンポとチューニングを順に書くと次のようになります。 テンポと言っても1曲の中で遅くなったり、速くなったりする曲もありますが、だいたいの印象で書いてあります。


1.アストゥリアス   速   ⑥=ミ
2.グラナダ    遅   ⑥=ミ 
3.カディス    速   ⑥=ミ
4.朱色の塔   速   ⑥=レ
5.ミコルドバ   遅   ⑥=レ 
6.セビージャ   速   ⑤=ソ  ⑥=レ



徐々に変わるようになっている

 チューニングについては見てわかるとおり、徐々にチューニングが変わるようになっています。 ⑥弦を「ミ」のものと、「レ」のもを交互に演奏したりするとチューニングに時間がかかってしまいますし、また前述のとおり、曲の途中でチューニングが狂ってきたりします。 また⑤と⑥弦とを両方変える「セビージャ」を真ん中に持ってくるのもたいへんです。

 テンポのほうでは2曲目と5曲目にややゆっくりした曲を置いていますが、これも妥当なところでしょう。 最後の「セビージャ」はチューニングからしても、曲の感じからしても最後にするのが常識かも知れません。



前半がスリリング過ぎた?

 当日の演奏は、録音を後から聴いてみても、凄く良い演奏とまではゆかなくとも、聴き易いというか、「ああ、ギターのコンサートだな」と言った感じで、自分でもリラックスして聴けます(前半がスリリング過ぎた?)。 たぶん会場の人にも楽しんでいただけたのではと思います。



リサイタルを静かに閉じるために

 アンコール曲の方はリサイタル直前まで曲がはっきり決まらず、ハイドンの「メヌエット」、 ヴィラーロボスの「ショールス第1番」、 シューマンの「トロイメライ」、 アルベニスの「タンゴ」、 マラッツの「スペイン・セレナード」 などいろいろ候補が変わりましたが、 リサイタル1か月くらい前から指や腕の疲労がひどくなり、結局のところ負担の少ないものということで上のようになりました。

 この3曲のアンコール曲は、確かに美しい曲ではありますが、やや”地味”といった印象的はあったでしょう。 もっと華やかな曲の方が良かったかも知れませんが、リサイタル本体の印象を薄くしないためには、結果的によかったのではないかと思います。 





次回はタレガのプログラム

 と言ったところで、私のリサイタルのプログラムの組み方についての話を終わりにします。 途中でプログラムの作り方というより反省会みたいになってしまいましたね・・・・   さて、次回は気を取り直して”近代ギターの父”と言われるフランシスコ・タレガのリサイタルのプログラムについてです。








プログラムの作り方 4



<2008年 中村俊三ギター・リサイタル>

パガニーニ : カンタービレ、 ソナタホ短調

ジュリアーニ : 大序曲

バッハ : ガボット、 シャコンヌ

・・・・・・

アルベニス :  アストゥリアス、 グラナダ、 カディス、 朱色の塔、 コルドバ、 セビージャ


<アンコール曲> リョベット : 盗賊の歌、   ホセ・ビーニャス : 独創的幻想曲   タレガ : アデリータ





「ガヴォット」の最も大きな役割は⑥弦のチューニングの安定

 前半のバッハの2曲のうち、ガヴォット(チェロ組曲第6番)は、8つの分類のうち、④に当たる典型的な”つなぎ”の曲です。 その”つなぎ”の中でも、この曲の最も大きな役割はチューニングを安定させることとなります。

 シャコンヌは⑥弦を「レ」に下げますが、⑥弦のチューニングを通常の「ミ」から「レ」に変えた時、どうしても不安定になり、少しずつ音程が上がってきたりします。

 もちろんそれを見越して⑥弦を一旦半音から全音くらい下げてから(「ド」からド#)ゆっくりと戻すようにして「レ」にするわけですが、それでも演奏中に多少は音程が動いてしまいます。

 比較的短い曲でしたらあまり問題はないのですが、シャコンヌは少なくとも13分はかかり、最後の音のオクターブ・ユニゾンまでピタリと言う訳にはなかなかゆきません。 



チューニングの問題で演奏を台無しには出来ない

 そこで、多くのギタリストは演奏中に曲を止めずにチューニングを修正したりします(解放弦などを弾いた時に)。 私がこれを初めて見たのは山下和仁さんのリサイタルでですが、まるで手品みたいなことをするので驚きました。 でも今は多くのギタリストが普通にやっています。

 私もやむを得ない時にはこれをやりますが、上手く行かないこともあり、またそれに気を使うと演奏に集中出来なくなってしまったりします。

 私が聴いた他のギタリストのリサイタルでもこれに失敗して、演奏がメチャクチャになってしまったり、結局演奏を中断してチューニングすることになったりした例もあります。

 何といっても長期間かけて準備したリサイタルですので、そんなことで演奏が台無しになってしまっては元も子もありません。 そこでシャコンヌと同じく⑥弦を「レ」にするこのガヴォットを間に挟むことで、そうしたリスクをほとんど回避することが出来ます。



緩衝材的な役割もある

 このガヴォットを組み入れたもう一つの理由としては、大序曲とシャコンヌという両大曲の緩衝材としての目的です。 極限の集中力を必要とされる曲を続けて弾くのは、演奏者として相当な負担ですし、また聴いている人も疲れてしまうかも知れません。 やはり弾く方にとっても、聴く方にとってもほっとする一曲が必要でしょう。

 当日の演奏はというと、少なくとも前半のプログラム中、もしかしたら当日のリサイタル中、最も良い出来で、「この曲の演奏が最も良かった」と言ってくれた人が何人かいました。 また、なかなか軽快な曲で、バッハの曲では耳あたりも良い曲です。



バントのつもりが起死回生の一発?

 確かに難曲揃いの前半のプログラムの中で、この曲は唯一私が楽に、また完全に自信を持って弾ける曲で、他の演奏機会でもほとんどいつもイメージどおりの演奏が出来ていました。 私にとっては”鉄板”的な曲で ⑥の「確実に弾ける曲」の括りにも当たります。

 当日の演奏もその期待通りの演奏で、リサイタルにMVPがあれば、間違いなくこの曲と言えますが、でもちょっと微妙ですね  ・・・・バントで送らせるつもりが、失敗でやけになって振ったら起死回生の逆転3ラン・ホームラン!   ・・・・・なんて感じかな。 やはり3、4番が打たないと試合には勝てない・・・・・・



すべてはシャコンヌに

 さて、何といっても次のシャコンヌが前半のプロの中心、というよりこのリサイタルの中心の曲となります。 8つの分類ではもちろん①の 「ギタリストが弾きたい曲」 にあたります。 元々 「シャコンヌを中心としたリサイタルがやってみたい」 といった動機でこのリサイタルが計画されたわけです。

 私が20代の頃コンサートでこの曲を演奏したことがありますが、もちろんあまり上手く弾けるはずもなく、「自分には弾けない曲」ということで、その後ずっと弾いていませんでした。



当ブログにも書いたが

 そして50代になってからもう一度弾いてみたいということで練習を再開したわけですが、今回はただ弾くだけでなく、この曲が 「どのように作曲されているのか」 ということをちゃんと考えてみようと思い、その内容は当ブログの方にも書き込みました(名曲の薦め~シャコンヌ)。 この記事は今現在でも読んでくれている人がいるようです。

 約5年間にわたり、この曲の練習、編曲、およびアナリーゼを行いこのリサイタルに臨んだわけです。 他の前半の曲目も、このシャコンヌを演奏する関係上、選ばれたと言ってもよいでしょう。 このシャコンヌは文字通りメイン・デッシュ、 堂々の4番打者!



あまり意気込み過ぎると

 しかしそんなに意気込むと往々にしてあまり良い結果にならないことが多い、暗譜にはかなり時間をさき、リサイタル当日には一点の曇りもないほどにしたつもりだったのですが、当日は一部記憶があいまいになってしまった部分がありました(流れを止めたわけではないが)。



フェンスの前で失速?

 言い訳がましいですが、それ以外の点については全体の構成、テンポや音量などのコトロールはほぼ予定通り出来、細部の不明瞭な部分も少なかったと思います。 私の30年前の演奏を聴いたことのある友人には 「昔とずいぶん変わったね」 と言われました。 心温かい気遣いを差し引いても、昔より多少はましになったようです。  ・・・・思いっきり強振したが、レフト側フェンスの前で失速! でも犠牲フライになって、とりあえず1点?

プログラムの作り方 3 

<私のリサイタル 1>



プログラムを作った本人が語る

 前回はプログラムに組み込む曲目の立ち位置や特徴などを8つに分けてお話しましたが、今回からは具体的にいくつかのギター・リサイタルのプログラムを例に挙げて、その組み立て方などを話してゆきます。

 まずは私の2008年のリサイタルのプログラムからですが、何といってもそのプログラムを作った本人が語るのが一番よいのではということで、この件から始めてゆき、その後でタレガやセゴヴィアなど著名なギタリストのプログラムの作り方について話してゆきます。

 ではその私の2008年のリサイタルのプログラムが次の通りです。





リサイタル




  <第1部>

パガニーニ : カンタービレ ニ長調 (中村俊三編曲)

パガニーニ : ソナタホ短調作品3-6 (中村俊三編曲)

ジュリアーニ : 大序曲

バッハ :  ガヴォット (チェロ組曲第6番より 中村俊三編曲)

バッハ : シャコンヌ (ヴァイオリンパルティータ第2番より 中村俊三編曲)



  <第2部>

アルベニス : アストゥリアス、  グラナダ、  カディス、  朱色の塔、  コルドバ、  セビージャ (中村俊三編曲)



  <アンコール曲>

リョベット : 盗賊の歌

ホセ・ビーニャス : 独創的幻想曲

タレガ : アデリータ



    2008年11月29日(土) ひたちなか市文化会館小ホール





相当気合の入ったプログラム

 だいぶ重厚なプログラムですね、と言うのもそれまでしばらくの間(10数年間)リサイタルを行ってなく久々のリサイタルだったので、相当気合の入ったプログラムになってしまいました。 このリサイタルのプログラムは構想5年といったもので、最終的にこのプログラムに決まるまでかなり紆余曲折がありました。

 それでもプログラムの後半をアルベニスの作品のみにすることや、その曲目はかなり早い段階で決まりましたが、 前半の方は当初の考えからはだいぶ違ったものになりました。 またすべての曲をギターのオリジナルの作品ではなく、編曲ものに統一しようかととも考えたのですが、最終的には「大序曲」のみギター・オリジナル作品となりました。



食べ合わせを考慮し

 前半のプロのほうでは、一時期ショパンやシューマン、あるいはモーツァルトの編曲作品なども考えていましたが、どうも「シャコンヌ」との”食べ合わせ”が悪い感じだったので、結局上記のようにパガニーニとジュリアーニの作品をシャコンヌなどのバッハの作品の前に置くようにしました。

 


・・・・個人的な反省も加えつつ

 それでは前回書いた8項目と照らし合わせながら、それぞれの曲がどういった意味合いで選ばれ、またその順で演奏されたのかを、プログラム曲順にお話してゆきましょう。   ・・・・・個人的な反省も加えつつ。




難し過ぎず、ありきたり過ぎず

 プログラムの最初に置いたのはパガニーニの2つの作品です。 ③で書いたようにリサイタル冒頭でつまずきたくはないので、なるべく無難な曲ということになるのですが、かといって”ありきたり”の曲で始めたくはなかった。

 と言った訳で、あまり難し過ぎず、またありきたり過ぎずといことで、最終的にパガニーニのヴァイオリンとギターのための「カンタービレ」をギター独奏に編曲して演奏することにしました。




易しいけど難しい

 原曲はヴァイオリンによりメロディを美しく歌わせる曲で、ヴァイオリンの名曲の一つにもなっていると思いますが、これをギター独奏で弾くとなると、ある意味たいへん難しい。 技術的に難しいというより、この曲の美しさを出すのが難しい曲と言えるでしょう。 

 当日の演奏自体はそれなりにといったところですが、やはり 「よくわからない」 という声は聴かれました。 確かにこの曲をギター独奏で弾いた人は他にはあまりいないのではとは思いますが、それにちょっとこだわり過ぎたかも知れません。 ・・・・・前にも言った通り、一般にギタリストは誰も弾いたことのない曲を弾きたがる!
 



ソナタホ短調はなかなかギター向き

 2曲目の「ソナタホ短調」もヴァイオリンとギターのための曲ですが、こちらの方はマヌエル・バルエコなどギター独奏で演奏しているギタリストは他にもいます。 曲の前半はホ短調の美しいメロディで出来ていて、後半はホ長調の華やかな部分となっています。

 この曲はメロディもギター独奏向きで、また後半の華やかなパッセージもギターでも十分に映えます。 しかしその後半の華やかなパッセージはなかなか難しく、部分的には次の大序曲よりも難しいくらいです。 聴いた人には、「この曲はなかなか良かった」 と言ってもらいましたが、やはり後半のヴィルトーゾ的なパッセージは十分には弾ききれませんでした。



でも2番バッター向きではない

 しかしこの曲は、このリサイタルの前や後にも別のコンサートで演奏しているのですが、その時はまあまあ弾けていたので、この”2曲目”という位置では難しいと言うことなのでしょう。 つまりこの曲は”2番バッター”ではなく、あくまで”3番バッター”なのでしょう。 やはり打順が違うとよい結果はでないようです。



クリーン・ナップの登場

 と言ったわけで”3番バッター”の登場で、この後のシャコンヌとクリーン・ナップを組むジュリアーニの「大序曲」となります。 この曲は技術的にレヴェルが高く、また人気のある曲で、まさに主軸を担うバッターと言ってよいでしょう。

 しかし実はこの曲、プログラム入りしたのは全曲中最も遅く、パガニーニの2曲とバッハの曲の間を埋める曲はないかといろいろ考えた結果、スターティング・メンバーに入った曲です。 この曲は私が20代~30代の頃に練習していましたが、結局上手く弾けないのでコンサートなどでは弾かないままになっていた曲です。



プログラムの流れ的は最適

 このリサイタルの1年前くらいにとりあえず弾いてみたら、どうやら暗譜だけはしていました。 リスクは若干あるが、プラグラム的に見ればイタリアからドイツ、明るいものからシリアスなものといったようにたいへんすっきりする。

 といったわけで、クラシック・ギターを代表する名曲、難曲ですが、この曲を選んだ最大の理由はリサイタルの流れ、というか、”つじつま”上といったものです。 ちょっと贅沢な使い方をしてしまいました。



やっぱり”つなぎ”になってしまった?

 当日の演奏としては、特に大きなトラブルもなく、何となく”無難”に弾いたと言った感じでしたが、少なくともそれ以上ではないようです。 こうした曲で聴衆を楽しませるのは、やはり有り余ったテクニックが必要でしょう。   ・・・・え、 ”つなぎ”の役割は一応果たした?   チャンスで3番バッターがデット・ボールで出塁するようなもの?   言っていることがよくわからない。