中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

何か、ちょっと引っかかる



ポンセの 「組曲イ短調(伝ヴァイス)」


 最近ポンセの 「組曲イ短調」 から 「ガヴォット」 のレッスンをしています。  私たちの年代のギター・ファンにとっては 「ヴァイスの組曲」 と言った方がピンとくるかも知れません。

 20世紀前半のメキシコの作曲家、マヌエル・ポンセがアンドレス・セゴヴィアの為にバロック風に作曲した曲で、発表の際にはポンセ作ではなく、バロック時代のドイツのリューティスト、シルビウス・レオポルド・ヴァイスの名で発表しました。



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アンドレス・セゴヴィアとは親交が深ったマヌエル・ポンセ、 なかなかのダンディ。



バッハだとバレそうなので

 もっとも、この件については、演奏者のセゴヴィアの意向が強く働いたようで、ポンセとセゴヴィアの信頼関係はたいへん強く、ポンセのギターの作品については、その管理から演奏、出版に至るまで、すべてセゴヴィアにまかせていたようです。

 当初はこの組曲を「バッハ作曲」として発表する考えもあったようですが、さすがにバッハについては1930年代でもかなり詳しく研究されていて、すぐにバレるだろうということで、当時知る人しか知らなかった(当然だが)バッハと同時代のリューティストのヴァイスにしたと言われています。



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元々はリョベットとポンセが親しかったようだが、そのリョベットの跡を継ぐ形でセゴヴィアがポンセと親交を深めるようになったのかも。



ポンセはヴァイスなんて知らなかった?

 当時は、シルビウス・レオポルド・ヴァイスの音楽を知る人も、またその名を聴いたことのある人も、ごく限られていたのでしょう。 このヴァイスの名にしたことについては、おそらくセゴヴィアの考えに従ったものでしょう、もしかしたらポンセはヴァイスなんて知らなかったかも知れません。



こうした作品は出版しなかった

 前述のとおり、セゴヴィアはポンセのギターの作品の出版にも深く関わったわけで、当時ポンセのギター作品はすべてセゴヴィア経由で出版されていました。 ポンセは他にも何曲かヴァイスやアレクサンドロ・スカルラッティ(有名なスカルラッティの父親)などの名で作品を書いていますが、それらの作品はすべてセゴヴィアの手からは出版されませんでした。




巨匠はぶれない
 
 また、セゴヴィアは 「組曲イ短調」 などが明らかにポンセの作品だと言われるようになってからも、最後の最後までこれらの作品をあくまで ”ヴァイス作曲” として演奏していました。 本当に巨匠はぶれない! だから巨匠! まるでデーモン小暮?




訳アリの出生だが

 と言ったように、その出生についてはいろいろ訳アリではありますが、この 「ガヴォット」 はなかなか魅力的な曲で、隠れた(?)名曲といえます。 私もこの組曲を、いずれちゃんと演奏してみたいと思っているのですが、今のところまだ実現していません、なんとか近いうちには・・・・




若い頃聴きに行ったコンクールの課題曲になっていた

 この曲で思い出すことと言えば、私が20歳をちょっと過ぎた頃(まだ学生だったような)、コンクールに挑戦してみようと思い、とりあえず聴きに行ったコンクールの課題曲となっていました。

 その時までこの曲を聴いたことがなかったのですが、二次予選だったので、2~30人くらいの演奏を続けて聴きました。 ただし、その当時の私にはどういいう演奏が良くて、どういう演奏が良くないか、ほとんどわからず、誰が予選を通るのかなど、全く予想がつきませんでした。





結局私がコンクールに出ることはなかった


 そのコンクールを聴いた結果、はっきりわかったことは、自分の実力はまだまだコンクールに出場するレヴェルには達していないということでした。 その後2回ほどコンクールの出場申し込みをした覚えがありますが、直前になると全く自信を失い、結局のところ、私がコンクールに出場することは、その後一度もありませんでした。

 


心苦しい

 しかし経験と言った意味では、コンクールの結果が必ずしも実力を反映するわけではないことを踏まえつつも、やはりやって置けばよかったのは確かなことで、今では大いに反省しています。 そんな私が仮にもシニア・ギター・コンクールの審査員などやっているのはたいへん心苦しい!




話がそれたが

 さて、話があれこれ行ってしまいましたが、このガボット、以前から何か引っかかっていて、何となくこの曲、ガボットらしくないな と思っていました。 もともと”本物”のバロック音楽ではないのだからガボットらしくないのは当たり前かもしれないのですが、一番の問題は、その冒頭にあるようです。


 
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ポンセの 「組曲イ短調」 の 「ガヴォット」   予備拍が1拍 (8分音符2個) となっている。 曲的にはガヴォットではなくブレー。
 



基本的にガヴォットは予備拍が2拍

 若干杓子定規で恐縮ですが、バロック時代では、ガヴォットは基本的に4分音符で2泊分のアウフタクト(予備拍)を持つことになっています。 そして4分の4拍子ですが、1拍目と3拍目にアクセントが付き、2拍子のようにも聴こえます。 バッハを始め、バロック時代の作曲家はほとんどこのようにガヴォットを作曲しています。




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バッハのリュート組曲第4番の「ロンド風ガヴォット」  四分音符二つの予備拍がある




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バッハのチェロ組曲第6番のガヴォット



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バロック時代フランスのギタリスト、ロベルト・ド・ヴィゼーの組曲ト短調(この曲はト長調)のガヴォット  同様に予備拍2拍




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バロック時代、イタリアのギタリスト、ルドビーコ・ロンカルリの 「組曲ホ短調」 のガボット。 このように私の知る限りでは、バロック時代のガヴォットはすべて予備拍が2拍になっている。




ポンセのガヴォットはブレーに聴こえる

 バロック時代の舞曲はそれぞれ予備拍には決まりがあり、ガヴォットは2拍、同じく速い4分の4拍子の舞曲であるブレーは1拍(4分音符1個分)の予備拍を持ちます。 したがって、ポンセのガヴォットをバロック時代の音楽に詳しい人、あるいは当時の人などが聴いたら、おそらくガヴォットではなく、ブレーに聴こえるでしょう。